Ⅳ ドイツ―分権型二元警察国家
2‐2:連邦刑事庁と関税刑事庁
ドイツの連邦警察は刑事警察機能を持たないため、連邦の刑事警察に相当するのは、連邦刑事庁(Bundeskriminalamt:BKA)である。警察を称さず、共に連邦内務省の管轄下にある連邦警察とは別立ての組織であり、形態や任務としてはアメリカの連邦捜査庁(FBI)と近似している。
しかし、3万人を超す人員を擁し、全国に支局網をもって展開するFBIに比べ、BKAの要員は7000人程度、その任務も複数の州にまたがる広域事件に対する州警察や州レベルのカウンターパートである州刑事庁との合同捜査が中心で、独自捜査案件はテロリズムやスパイ、複雑な汚職・経済犯罪などに限局されている。
その他、連邦の要人警護は連邦警察ではなく、BKAが担当しており、その限りでは純粋の刑事警察を超えた警備警察としての機能も限定的に併せ持っている。
さらに、近年はテロリズムやサイバー犯罪の取締りのセンター的な任務が増しており、BKAの諜報機関化が進んでいる。
特にイスラーム過激派のインターネット活動の監視目的で設置された統合インターネットセンター(Gemeinsames Internet Zentrum)、イスラーム過激派を除くテロ組織や過激派のインターネット情宣活動の監視目的で新設されたインターネット解析調整本部(Koordinierte Internetauswertung)はそうしたBKAの諜報機関化を促進する新制である。
こうしたBKAの諜報的活動は機能的公安警察である連邦憲法擁護庁との連携関係も強めており、結果として、刑事警察の政治警察化を促進していくことになるだろう。
一方、関税刑事庁(Zollkriminalamt:ZKA)は連邦刑事庁の経済版のようなもので、連邦財務省の管轄下にある財務警察機関である。
1952年設立の前身機関である関税刑事研究所を母体に1992年に設立された比較的後発の機関であるが、その法執行本部組織である関税調査局(Zollfahndungsamt)は全国に支局網を持つ本格的な連邦機関である。
その任務は、本務である関税法違反にとどまらず、EUの市場規制違反や違法な技術移転、農業分野の補助金詐欺からマネ―ロンダリング、商標法違反に至るまで、国境を超えた経済犯罪の摘発・捜査に広く及ぶ。また連邦警察や州警察との合同で麻薬密輸やマネーロンダリングの捜査にも当たる。
このようにZKAが総合的な経済警察機関として拡大されるにつれ、如上のBKAの増強とも相まって、従来は制約されてきた連邦の警察機能の強化、ひいては影の警察国家化を促進する動因となっていることが注目される。