二 国防治安国家体制Ⅱ
諜報機関体系
ファッショ的な国防治安国家体制の政策的な特質として、諜報機関体系が高度に整備されることがある。この点、日本の「戦後民主主義」の「弱点」として、本格的な諜報機関の欠如が一部論者から指摘されていたが、この「弱点」は2050年には一掃されているだろう。
すなわち、現行制度上における公安調査庁と内閣情報調査室とが統合され、内閣府の下に国家情報調査庁が設置されている。この機関は契約諜報員を含め総人員5万人とも言われる内外総合諜報機関として機能しており、対内的には市民運動や労働運動、さらには外国人居住者の監視と情報収集に当たり、対外的には海外支局を通じて対外工作活動も展開している。
この機関はまた、現行の破壊活動防止法を改正再編したテロリズム防止法の所管官庁でもあり、同法に基づく社会諸団体への潜入・監視や同法違反に問われた団体の強制解散などの権限を有している。
この国家情報調査庁は基本的に文民機関であるのに対し、防衛軍系の諜報機関としては、自衛隊時代から引き継いだ防衛省情報本部がある。この機関は要員数においてかつては日本最大の情報機関と謳われたが、現在ではトップの座を国家情報調査庁に譲っている。とはいえ、海外の軍事情報の収集に関しては、専門機関として位置づけられている。
もう一つ、防衛軍系の諜報組織として、防衛軍情報保安隊がある。これも形の上では軍事情報の保全を目的としていた旧自衛隊情報保全隊を継承する組織であるが、その権限は大幅に拡大され、防衛軍法上刑事罰をもって禁止される反軍活動の取締り権限を持ち、司法警察としても機能している。
反軍活動とは、防衛軍の活動に敵対し、その任務遂行を妨害する活動とされるが、反戦平和運動もこれに該当するとの解釈から、情報保安隊は平和団体の監視や取締りも行なっており、特に沖縄の反基地闘争を徹底的に弾圧し、押さえ込んでいる。そうした活動のゆえに、情報保安隊は「現代の憲兵隊」と渾名され、怖れられているのである。
同隊によって検挙された者は文民であっても軍事裁判所に起訴され、審理される。ただし、文民被告人の審理は分離され、軍判士二名と文民判事一名の混合審理となるが、基本的に軍主導の裁判となることに変わりはない。
他方、警察系の諜報組織としては、従来からの公安警備警察があるが、議会制ファシズムにおける警察政策については、より広い角度から次回あらためて概観する。