5 処遇の種類
「犯則→処遇」体系における処遇の種別はいたって簡素であり、基本的には、施設に収容する拘束的処遇としての「矯正処遇」と、収容しない非拘束的処遇としての保護観察」の二種類のみである。
実際のところ、前者の「矯正処遇」は対象者の特性及び処遇内容の違いによりさらに種別が細分化されるが(後述)、いずれにせよ「矯正処遇」は反社会性向の強い者、初犯ではあるが人格的な病理性が強く、矯正を要する者を対象とする処遇である。その限りでは、今日の自由刑に類似するが、刑罰ではないので、その実施場所はもはや「刑務所」とは呼ばれず、「矯正センター」と呼ばれる。
一方、「保護観察」はより反社会性向が低い者を対象とする処遇である。「犯罪→刑罰」体系の下での保護観察は、刑務所から釈放された者に課せられることが多いが、「犯則→処遇」体系の下では、保護観察もそれ自体が独立の処分となる。
さらに、広い意味での処遇の一つとして「没収」が加えられる。「没収」は犯則行為に起因する不法な収益を剥奪するもので、それは人でなく物を対象とする処分であるが、上述の「矯正処遇」や「保護観察」と併用して、または独立して付し得る一個の処遇である。
このうち、独立処分としての「没収」は、例えば些少価値物品の窃盗や違法薬物の単純所持など軽微な犯則行為者を対象とする最も軽い処遇として位置づけられる。
ところで、以上の「矯正処遇」「保護観察」に「没収」を加えた三種の処遇の間には、一応「矯正処遇」>「保護観察」>「没収」という軽重関係がある。しかし、この軽重は刑罰の軽重関係のように犯行の重大性のみによるのではなく、処遇対象者の反社会性向の強弱によるところが大きい。
この点にも関連して問題となるのは、一人の者が複数の犯則行為をした場合の処遇である。刑罰制度の場合、複数の犯罪行為に科せられる刑を単純に加算するか、最も重い罪を基準とするか、制度は分かれる。
いずれにせよ、このような処理の仕方には、応報刑論の思想が明瞭に込められている。なぜなら、こうした処理は複数の犯罪行為の組成(パッケージ)を犯罪学的に分析することなく、刑を単純加算し、あるいは重罪を基準として厳罰を科そうとするものにほかならないからである。
これに対して、「犯則→処遇」体系の下では、犯行パッケージの犯則学(犯罪学)的な分析を通じ、その中で最も中核的とみなされる罪の処遇に付することになる。
例えば、殺人と窃盗のパッケージであれば、たいていの場合は殺人行為が中核的とみなされるであろうが、傷害と窃盗のパッケージのような場合は、微妙な分析が必要となる。
もし、このパッケージにおける傷害とは窃盗の共犯者との内輪もめから相手を殴り、傷害を負わせたものならば、窃盗行為のほうが中核的とみなされ、窃盗犯に対応した処遇に付せられる。それに対して、このパッケージにおける窃盗が傷害を加えた被害者の所持品をついでに盗んだというのであれば、傷害行為のほうが中核的とみなされ、傷害犯に対応した処遇に付せられるのである。