Ⅱ イギリス―分散型警察国家
3:部分社会警察の補完性
アメリカと同様、イギリスにおいても、自律性を持つ部分社会が独自に私設の警察組織を擁する伝統が存在するが、イギリスの部分社会警察はアメリカほどには発達していない。伝統的には、港湾企業が保有する港湾警備を目的とした港湾警察(Port Police)が代表的なものである。
ただし、ほとんどの港湾警察の管轄範囲は港湾施設から1マイル以内に限局されるとともに、2013年の法改正により、イングランドとウェールズの地方警察の長にも港湾に対する管轄権が付与されたため、この両地域では私設港湾警察と公的な地方警察の共管が進んでいる。
ちなみに、ロンドンの経済的な基軸ともなってきたロンドン港にもロンドン港湾警察が存在したが、1992年の制度改正で廃止となり、その大部分の権限は首都警察をはじめとする地方警察に移管され、小規模なティルブリー港湾警察に縮小されるなど、統廃合もなされている。
一方、アメリカにおいては広く普及している大学警察に関しては、イギリスでは長くオックスフォード大学とケンブリッジ大学の両名門にのみ特権として警察の保有が認められてきたが、オックスフォード大学警察は2003年をもって廃止となり(テムズヴァリー警察に移管)、ケンブリッジ大学だけが警察を保持している。
なお、以前に見た鉄道警察はアメリカのそれのように鉄道会社自身が直営しているわけではないが、財政的には鉄道会社が拠出しているため、経済的な面から見れば、これも部分社会警察の一種と言える。同様に、民間原子力施設の警護に特化された民間原子力保安隊も、財政は核関連企業の共同出資によるため、経済的な面からの部分社会警察と言える。
総じて、イギリスの部分社会警察は地方警察に統廃合されるか、鉄道警察や民間原子力保安隊のように、公設民営組織として再編されるか、いずれにせよ、公的な警察機関を補完する存在として限定的な役割を果たしていると言え、影の警察国家化現象の中ではやや影が薄い。