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比較:影の警察国家(連載第40回)

2021-05-22 | 〆比較:影の警察国家

Ⅲ フランス―中央集権型警察国家

1‐0:二重的集権警察の錯綜的構制

 前回見たとおり、フランスの中央集権警察は文民警察としての国家警察と軍事警察としての国家治安軍の二重構造となっているわけだが、それぞれが別個の沿革に基づいて発展してきたため、両者の関係性は競合的であり、錯綜している。
 まず両者の競合関係として管轄区域の問題が最も重要であり、運用上も混乱を生じかねないところであるが、大雑把に、都市部は国家警察が、地方部は国家治安軍が管轄するという住み分けルールが形成されてきた。
 その具体的な線引きには変遷があるが、現行法上は人口2万人以上のコミューン(市町村に相当)は国家警察、2万人に満たないコミューンは国家治安軍が管轄することとされている。
 このような住み分けが規定されているのは、現行国家警察の母体となった自治体警察は都市部のそれが中心であり、それぞれの管轄区域を引き継いだことによる(首都パリの警視庁は特別な地位を持つが、これについては次項で改めて触れる)。
 次いで、両者の所管官庁に関しては、文民警察としての国家警察は内務省(Ministère de l'Intérieur)、軍事警察としての国家治安軍は陸海空軍と並び軍務省(Ministère des Armées:2017年までは国防省)が所管するという分担関係が長らく基本であった。
 ただし、沿革上は軍の一部とはいえ、現代の平時における国家治安軍の実質的な役割は警察そのものであるので、実施部隊によっては内務大臣や県知事の指揮を受けるなど指揮系統が複雑化していたところ、2009年の法改正により、平時の指揮権は内務大臣に一本化されることとなった。
 ただし、国家治安軍はあくまでも軍の一部であることに変わりないため、有事の軍事作戦に関わる事務や軍人の身分を持つ隊員の教育に関しては軍務大臣が掌握するという二重の管轄系統を有する複雑な構造となっている。
 このように、国家警察と国家治安軍は次第に内務省管轄の警察組織として統合化の傾向にあるとはいえ、組織としては別個性が維持されているため、特に警備、対テロ作戦など、両者の管轄区域を越えた広域的な活動に関しては運用の重複が避けられない。

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