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比較:影の警察国家(連載第56回)

2022-03-05 | 〆比較:影の警察国家

Ⅳ ドイツ―分権型二元警察国家

2‐3:連邦憲法擁護庁と連邦諜報庁

 連邦憲法擁護庁(Bundesamt für Verfassungsschutz:BfV)は、連邦レベルで反憲法的とみなされる政治的社会的活動を監視し、無力化することを目的とする国内保安機関である。
 連邦警察や連邦刑事庁とともに連邦内務省の管轄下にあるが、身柄拘束や家宅捜索などの強制権限はないため、機能的な意味での政治警察である点、日本の公安調査庁と近似する。
 この機関は元来、旧西ドイツで、旧東ドイツの体制教義であったマルクス‐レーニン主義の浸透を防圧するべく設立された機関であるため、共産党や共産主義団体の監視が本務とされてきた。ところが、記念すべき初代長官オットー・ヨーン自身が東ドイツに一時亡命するというスキャンダラスな出発をしている(当人は「誘拐」を主張)
 この機関は「憲法擁護」という冠名とともに、しばしば旧西ドイツがナチズムを克服するモットーとし、現行の統一ドイツにも継承されている「闘う民主主義」、すなわちドイツ民主主義は民主主義を破壊する者とは闘い、これを排撃するという勇敢なイデオロギーを象徴する機関として美化されることもある。
 しかし、冷戦期には共産党及び共産主義的とみなされた諸団体の抑圧を主目的として活動してきた点では、実態として、イギリスのMI5をはじめ、西側諸国における国内保安機関と変わりないものである。そのため、その活動の圧倒的重心は共産党及び共産主義的とみなされた諸団体の監視と無力化とに置かれてきた。
 そうした活動の偏向性は冷戦終結と東西ドイツ統一後に役割の転換が進められてきた中でも変わりなく、2012年、BfVがネオナチ地下組織による連続殺人事件に関する関連資料を破棄していたことが発覚し、長官が辞任するという新たな不祥事からも窺える。
 冷戦終結以後、近年はイスラーム過激主義団体や宗教カルト、さらには刑事犯罪組織にまでBfVの監視対象はかえって広がっており、各州におけるカウンターパートとなる州憲法擁護機関の存在と相まって、連邦と州にまたがる機能的な政治警察網が形成されるとともに、連邦刑事庁など刑事警察機関との連携関係も強化され、影の警察国家化を促進している。

 なお、連邦諜報庁(Bundesnachrichtendienst:BND)は本来、アメリカのCIAやイギリスのMI6をカウンターパートとする対外的な諜報機関であり、連邦首相府に属する連邦政府直轄機関である。
 その本務は警察ではないが、やはり冷戦終結・東西ドイツ統一後の役割転換の中で、国際テロリズムに対する諜報という治安任務が加わり、機能的な公安警察化を来たしている点では、諸国のカウンターパートと同様の傾向にある。


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