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比較:影の警察国家(連載第26回)

2020-12-13 | 〆比較:影の警察国家

Ⅱ イギリス―分散型警察国家

1‐1:首都警察の二面性

 イギリスの首都警察(Metropolitan Police Service)は、都心部に相当するロンドン市を除く首都全域を管轄する地方警察であると同時に、国家警察を擁しないイギリスにあって、国家警察に準じた機能を持つ二面的な警察組織である。イギリスにおける最強の警察機関もある。
 このような複雑な構制であるのは、ロンドン都が都心部のロンドン市(City of London)とロンドン市を含めたより広域の大ロンドン(Greater London)の二層から成ることに対応し、前者はロンドン市域限定のロンドン市警察(City of London Police)が別途管轄するためである。
 首都警察は2011年の制度改正までは、内務大臣が直接に警察管理者となっていたが、改正後は警察管理業務が大ロンドン市長に継承され、管理上は地方警察としての性格が強まったように見える。しかし、その役割においては、国家警察に近い性格が維持されている。
 そうした性格が象徴的に表れるのが、公安・警備部門である。現在の首都警察の公安・警備部門は、特殊作戦群(Specialist Operations:SO)と呼ばれる特殊部門にまとめられ、国家保安や要人警護等に関わる業務を遂行している。
 SOは、現時点で、要人警護や政府施設警備に当たる警護指令部(Protection Command)、空港保安やイベント等の群衆警備に当たる保安指令部(Security Command)、テロリズム対策に当たるテロリズム対策指令部(Counter Terrorism Command:CTC)の三部門に分かれている。
 CTCは、「テロとの戦い」テーゼに沿って、労働党のブレア政権時代の2005年の制度改革によって創設された部署で、1500人を超える陣容で構成され、首都に限定されず、全国及び海外にわたるテロリズム対策に当たる諜報機能を備えた政治警察である。
 これとは別に、SO内で運用される全国警察長官評議会(NPCC)の合同作戦班として全国国内過激主義・騒乱諜報班(National Domestic Extremism and Disorder Intelligence Unit)という別動隊がある。この別動隊は、政府が国内過激主義者とみなす人物のデータベースを管理していることが2009年の報道で暴露された。
 部署名称に「過激主義」のみならず、「騒乱」が含まれる点にも示唆されるように、データベースの中には合法的なデモ行動に参加した個人の情報も含まれていることが判明したほか、要員が環境活動家を装って不法な潜入工作を行った事案が明らかになるなど、まさに秘密警察的な存在である。


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