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比較:影の警察国家(連載第31回)

2021-02-07 | 〆比較:影の警察国家

Ⅱ イギリス―分散型警察国家

2‐1‐1:国家犯罪庁の創設

 イギリスは、国土全域を管轄する集権的な国家警察を持たないばかりか、アメリカのFBIのように、国土全域で活動する専門的な犯罪捜査機関をも持たず、地方警察を主体とした警察機構態勢を長きにわたり維持してきたが、この伝統に初めて風穴を開けたのが、2013年の国家犯罪庁(National Crime Agency:NCA)の創設であった。
 もっとも、これに先立ち、イギリスでは、1990年代から、組織犯罪対策として中央捜査機関の組織化の動きが出ており、2006年には、当時の労働党政権が薬物犯罪の捜査なども統括する重大組織犯罪庁(SOCA)を創設しているので、正確には、これをもって初の全土的な犯罪捜査機関の創設と見るべきかもしれない。
 しかし、旧SOCAは捜査機関としての弱体さが指摘され、保守党政権への交代後、当時のキャメロン政権が改めてSOCAを発展解消する形で創設したのが、NCAである。NCAは内務省の管轄する閣外政府機関という性格を持ち、政府機関ながら独立性が保障されている。
 NCAの主要任務は全土及び国際レベルの組織犯罪に加え、人身・武器・麻薬取引、経済犯罪などの捜査であるが、対象犯罪には限定がなく、スコットランドでは権限が制約されることを例外として、北アイルランドを含むイギリス全土で活動することができる。
 また、NCAはインターポールやユーロポール等の国際警察協力機構との間で窓口機関となることからも、その権限と活動範囲の広さと合わせ、実質上はイギリスにおける国家警察としての機能を持つものと考えられる。
 ただし、公安警察としての機能は持たないものの、保安庁(通称MI5)と並び、イギリスにおける諜報機関協力体のメンバーを構成していることから、間接的には、諜報機関としての性格も帯び、イギリスにおける影の警察国家を象徴する新機関である。
 NCAはその名称からも、アメリカのFBIを意識しており、実際、「イギリス版FBI」とみなされることもあるが、5000人ほどの職員中、捜査官は1200人ほどで、自前に訓練された捜査官も少ない。また予算にも限りがあり、人的・物的な容量の点で、いまだアメリカのFBIとは比較にならない。
 NCAは現時点では創設から10年に満たない新機関であるため、NCAがイギリスの中央警察集合体における中核的な機関として増長するか、補完的な機関にとどまるかは、地方警察主体の伝統の中で事実上の国家警察機能を二面的に担ってきた首都警察との競合関係と、影の警察国家化を推進する政治力学との間の綱引きの結果いかんによるであろう。


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