Ⅲ フランス―中央集権型警察国家
1‐2‐1:国家治安軍の二面性
国家治安軍(Gendarmerie nationale)はフランス及びフランスの影響を受けた諸国において(機関名称は様々ながら)普及している言わば第二の警察であり、フランス式の二重的集権警察を象徴する制度である。
語源的には「武装した人」を意味するように、本来は軍の一種であるところ、歴史的な変遷により、警察組織化してきたことは以前に述べたとおりであるが、そうした歴史を反映して、国家治安軍は準軍事的な武装警察としての役割と一般警察が存在しない地方における警察としての二面的な役割を担っている。
前者の武装警察としての任務において最も主要な役割を果たすのは、機動治安軍(Gendarmerie Mobile)である。これはデモ規制や暴動鎮圧を専門とする機動隊組織である。
これは国家警察側の保安機動隊と並び、フランス警備警察の中核として、まさに武装警察としての性格が前面に出る部門であり、その強力な実力行使によって、フランス警察国家の象徴でもある。
また、機動治安軍では対処し切れない対テロリズムや人質救出等の特殊作戦に際しては、国家治安軍介入団(Groupe d’intervention de la gendarmerie nationale:GIGN)が出動する。GIGNは海外でも作戦を展開し、国家警察側の相応部隊であるRAIDよりも、出動頻度は高い。
さらに、大統領を筆頭とする国家要人の警護及び大統領府エリゼ宮をはじめとする首都の主要庁舎警備部門としての共和国警備隊(Garde républicaine)は、権力中枢を護衛する親衛隊組織として、フランス国家権力の物理装置そのものとして機能する。
他方、地方警察としての任務は、各県単位で組織される県治安軍(Gendarmerie Départementale)がこれを行う。機動治安軍との役割分担を明確にするため、同一機関内ながら、機動治安軍とは異なる階級章を使用する。
ただし、県単位といえ、あくまでも中央集権組織であるので、県の上位行政単位である地域圏ごとに防衛区が置かれ、防衛区司令官の管轄下に県治安軍が組織されるという軍隊的な集権構造を採る。