Ⅳ ドイツ―分権型二元警察国家
2‐0:連邦警察機関の簡素な体系
ドイツの連邦警察機関はアメリカのそれのような錯綜した迷宮ではなく、伝統的に簡素に設計されてきた。もっとも、これは東西ドイツ統一前の旧西ドイツの制度を継承したもので、旧東ドイツは強固な中央集権制の警察国家そのものであった。
第二次大戦後の東西ドイツ分断以前のナチスドイツ時代には、ナチス親衛隊の中央本部組織の一つである国家保安本部(Reichssicherheitshauptamt)に刑事警察や政治警察を含めた全警察機関を統合するという形で、極端なまでの中央集権的警察国家が構築され、人権抑圧の中枢とされたことへの反省から、戦後、旧西ドイツが連邦国家として再生された際には、連邦の警察権力を必要最小限度に制約した経緯があった。
そうした旧西ドイツの制度が旧東ドイツの制度を全廃したうえ統一ドイツに平行移動的に継承されたことで、現ドイツの連邦警察機関も簡素な体系を維持している。
すなわち、警備警察である連邦警察(Bundespolizei)と犯罪捜査に特化した連邦刑事庁(Bundeskriminalamt)、政治警察としての機能を持つ連邦憲法擁護庁(Bundesamt fur Verfassungsschutz)、さらに経済警察としての関税刑事庁(Zollkriminalamt)を基本構成要素とする体系である。
以上の諸機関に加え、本来はアメリカのCIAやイギリスのMI6に対応する対外的な諜報機関である連邦諜報庁(Bundesnachrichtendienst)も、近年国際テロリズムや国際犯罪組織に対する諜報活動に乗り出している限りで、治安に関わる権限を拡張し、警察機能を獲得しつつあることも注目される。
このようにドイツの連邦警察機関の体系は簡素であるとはいえ、後で個別に見るように、連邦警察の役割の歴史的な拡大傾向、連邦憲法擁護庁の隠密監視活動などは、簡素な体系の外観のもとでの影の警察国家化の要因となっているところである。