第1部 持続可能的計画経済の諸原理
第3章 環境と経済の関係性
(6)環境と経済の弁証法
環境と経済の対立矛盾関係を解消しようとする場合の視点として、伝統的な環境経済理論は「環境と経済の両立」という予定調和論を掲げてきた。このような標語はわかりやすく、無難でもあるので、大いに膾炙しているが、その実は空理である。
それが空理となるのは、そもそも自然環境に働きかけ、時にそれを破壊してでも推進される産業革命以来の近代的な経済活動は、自然環境と常に対立緊張関係に立たざるを得ないからである。
環境と経済の対立という問題に関して、古典派経済学の枠組みでは、環境を経済の外部条件とみなし、環境破壊を外部不経済事象としてとらえてきた。そのうえで、排出権取引や環境税(炭素税)といった政策技術により外部不経済を内部化して経済と環境の対立関係を緩和しようとする。
このような方向性は、外部不経済を過小評価して経済活動の優位性をあくまでも護持しようとする経済至上的な理論に比べれば、経済と環境の対立関係を弁証法的に止揚しようとする良心的な試みと言える。しかし、自然法則に支配される環境という外部条件を完全に内部経済化することは不可能であり、それは常に不完全な内部化にとどまらざるを得ず、弁証法としても部分的なものにとどまる。
そもそも経済と環境を内部/外部という関係性で切り分ける前提を転換して、人間の経済活動も環境という大条件の内部において実行される営為の一つにすぎないと想定してみよう。ただ、そう想定したところで、環境と経済の対立関係が自動的に解消されるわけではない。
人間の欲望に動機付けられた経済活動は、容易に環境条件を突き破って外出してしまう。産業革命以来の環境破壊は、そうした「経済の環境外部化現象」と解釈することができるであろう。そのような状況を打開するためには、経済を環境の内部にとどめておく必要がある。
その点、産業革命以前の経済活動は、生産技術がいまだ人力に依存した非効率で未発達なものであったため、必然的に経済活動は環境条件の内部にとどまっていられたが、産業革命以降は拡大的な技術発展のおかげで生産力の飛躍的な増大が継起したことにより、経済は環境を超え出るようになった。
そうした経済の環境外部化を解消する方法として、生産技術を産業革命以前の発達段階に揺り戻すという逆行が可能でも適切でもないとすれば、環境計画経済の導入によるしかないであろう。環境計画経済、わけても「生態学上持続可能的計画経済(持続可能的計画経済)」は、経済活動を量的にも質的にも環境規準の枠内にとどめるための技法という性格を持つ。
そこにおける環境と経済とは完全な弁証法的関係に立つが、その完全性を担保するものが厳正な環境規準に導かれた経済計画である。逆に言えば、経済計画を介して環境と経済の対立関係は完全に止揚され、解消されることになるのである。