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福島県の小児甲状腺がん:2巡目での増加と地域差、3巡目の減少傾向は明らか(201710)

2017年10月26日 | 東日本大震災・原発事故
「安全宣言」を出した学術会議の御歴々は、公表されているこの数字をご覧になっているのだろうか。1巡目はあくまでベースラインであり、2巡目以降の変化を見極めるのが目的ではなかったのか。

第28回福島県「県民健康調査」検討委員会(平成29年10月23日)資料
http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-28.html

6月から変わった点だけ最初に指摘しておきます。
2巡目:「疑い+確定」は71人で変わりませんが、手術して確定例が1人増えました。
(確定49+疑い22=71→確定50+疑い21=71)
3巡目:検査の進行に従って、前回の「確定2+疑い2=4」から「確定3+疑い5=7」に増加しました。

結果として「疑い+確定」例は、1巡目115人、2巡目71人、3巡目7人、合計193人(+3)に増加しています。

3巡目から市町村毎ではなく、地域別の数字しか公表されないことになったので、やむを得ず、過去のデータも同じ地域別に集計し直して比較してみました。

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    13市町村 中通り 浜通り 会津 県平均
2011-13 33.5   38.4  43.0 35.6 38.3
2014-15 49.2   25.5  19.6 15.5 26.2
2016-17 13.0   3.8    0   0 5.1
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(浜通り、会津は今年度の検査の途中経過ですのでご留意ください)

実際の数字は以下の通りです。


なお、地域別の市町村は次の通りで、注1が「避難区域等13市町村」、注2が中通り、注3が浜通り、注4が会津地方で、浜通りは避難区域を除くいわき、相馬、新地という北と南に分かれた地域になります。


この表から言えることは3つ。
1)2巡目の増加は明らか:2巡目>3巡目≧1巡目の見込み
2)2巡目での地域差も明らか:検証していないがこれだと有意差が出ると考えられる
3)3巡目での減少傾向は、4巡目の数字を見てみないと判断できないが、おそらく2巡目の半数以下になる見込み

結論としては、1巡目での不毛な議論や「安全宣言」は一切無視して、今後も検診と診断・治療態勢を維持し、対象者は定期的な受診を継続すること。

(原発事故の被曝による一過性の増加が既にピークを過ぎたという仮説を考えていますが、今後の推移を見てみないと何とも言えません。)

なお、この議論での扱っているのは、10万人あたり数人〜十数人というレベルで、10万人のうち99,990人は確率的に言えば大丈夫という話になります。

発表された資料では「パーセント(%)」で表記されていますが、「10万人あたり10人」は0.01%という日常生活ではほとんど感知できないような印象になってしまいます。このような小さい数字を扱う場合には「パーセント(%)」で表記することは、安倍首相の言う所の「印象操作」にあたるものであり、標準的に用いられている「10万人あたりの人数」で表記すべきです。

もちろん、その10人の方にとっては確率論は無意味で、ゼロか100%かという世界になるので、軽視したり楽観することは禁物ですが、これまでのところ、A2判定が2巡目で59.0%、3巡目では64.4%と最も多い判定となっており、そのほとんどが嚢胞であることから、A2嚢胞の方については、過剰な心配は不要でA1の方と同じように考えてもらい、検査間隔も2年間で十分だと言うことはできます。

鈴木達治郎氏講演(7/15八戸)報告 医師会報掲載原稿

2017年09月01日 | 東日本大震災・原発事故
 八戸市医師会主催で開催した市民公開講座の報告です(市医師会および青森県医師会報に掲載予定)。
 講演資料および追加質問への回答は→こちらに掲載されています。

青森県医師会生涯教育講座・市民公開講座
2017年7月15日(土) 八戸グランドホテル
「3.11以降の原子力政策
 〜青森県民と核燃料サイクルを考える〜」
    長崎大学核兵器廃絶研究センター長
              鈴木達治郎教授

 今回初めて市民公開講座として開催した。期待通りの充実した内容であったが、その意義を現実のものにするためには、今後の青森県民の主体的な選択が不可欠である。全てを要約できないので、ブログに掲載してある発表資料と追加質問への回答にも目を通していただきたい。印象的な部分のみ書き出してみたが、筆者の感想や意見が一部混在しているのでご注意下さい。

福島事故の責任と教訓、廃炉・復興への課題

 鈴木氏は事故当時、原子力委員会委員長代理の職責にあり、講演の冒頭で原子力に関わってきた責任と謝罪を表明した。最大の教訓は「想定外を想定すること」であり、リスクに対する考え方を根本的に見直して、安全・安心の説明だけでなく、トランス・サイエンスの課題として社会との信頼関係が最も重要であるとした。

 専門家への信頼も崩壊した(注:原子力だけでなく医学も同様)。国民との信頼回復が最大の課題であり、自律(自立)的な第三者機関における、政策決定プロセスの見直し、透明化が必要なことを幾度も強調された。(現政権においてむしろ逆行していることを示している)

専門家の信頼喪失と社会的責任

 石橋克彦氏(1997年「原発震災」)と、中越沖地震(2007年)の柏崎原発事故後にシンポジウムを開催して原発と地震の危険性を再検討できないか模索したが、実現できなかった。

 伊方裁判(1975年)において、被告側の専門家は「炉心溶融事故は起こらないという風に設計して作った」と証言した。

 電力業界、東京電力は大津波が電源喪失につながる可能性を知っていた。(添田孝史『原発と大津波:警告を葬った人々』)

 大洗のプルトニウム被ばく事故でも、ずさんな管理体制が明らかになっており、教訓は学ばれていない。(その後、INESレベル2と評価)

エネルギー政策の構造改革

1)原子力依存度低減:低炭素電源交付金制度への転換、2)脱炭素化:炭素価格(炭素税、排出権制度)の導入、3)国民の信頼醸成:第三者機関による総合評価と意思決定プロセスの改革(市民参加など)が必要である。

 温暖化ガス削減と経済成長は両立可能で、省エネが決め手である。2050年までに60%削減可能で、脱原発と原発15%で削減効果に差はみられない。(CO2回収・貯留の実用化が前提)

核燃料サイクルの現実

 もんじゅ廃炉で高速増殖炉サイクルは消滅し、MOXリサイクルも1回のみ(多くて2〜3回だが、第二再処理工場の見込みはなく、処分方法は決まっていない)である。再処理は3分の1のみで、余剰プルトニウムは48トンに達している。再処理せずに埋める直接処分は、法的には最終処分法に含まれていない。



原子力委員会における政策見直し(2012年)

 福島事故後に原子力委員会小委員会で全面的見直しを行い、MOXサイクルおよびワンススルーのみが実用化しうる選択肢だとされた。

 どの選択肢を選ぶにせよ、将来の政策変更に対応できるよう備えることを提言した。具体的には、乾式貯蔵を拡大して、直接処分を可能とし、全量再処理路線からの脱却が必要である。

再処理を実施する意味は?

 再処理は経済性で最も劣る。廃棄物の減容・無害化の根拠とされている政府資料には、普通の人が読まない「但し書き」が書き込まれてあり、実際には減容・無害化には繋がらない。

 杤山修・経産省地層処分技術WG委員長の以下の提言が講演の中でそのまま引用された。

「再処理は使用済み核燃料の中に残ったウランやプルトニウムに取り出す価値があるから行うのであり、処分のためではない。使う価値がないなら再処理せずにそのまま埋める直接処分の方がいい。核燃料を溶かして一度危険な状態にする上、捨てにくく技術的課題が多い超ウラン元素(TRU)廃棄物が出るなど、再処理は不利なものだ」(毎日新聞 2014年5月23日)

再処理等拠出金法(2016)は附帯決議が重要

 同法により再処理機構が発足し、全量再処理が固定化されることになった。ただし、国会審議により附帯決議が追加され、直接処分を含む幅広い選択肢を確保した政策の見直しや、「利用目的のないプルトニウムを持たない」原則の堅持などが盛り込まれた。この決議に法的拘束力はないが、現実の動きに繋がっていくか注視していく必要がある。

日米原子力協定 2018年問題

 自由に再処理できる「事前包括同意」方式について、プルトニウム増加、韓国・中国への悪影響、北朝鮮・イラン等への再処理抑制が困難になるといった理由により、米高官や専門家からも懸念が表明されているが、トランプ政権の方針が定まらず自動継続される可能性が高い。
(8月に就任した河野太郎外相は、協定の改定を検討していく可能性について言及している)

プルトニウム問題の解決策

1)全量再処理からの脱却
・直接処分を可能とすること
・使用済み燃料貯蔵容量の確保
立地地域との対話と新たな地域振興策の検討
2)プルトニウム削減へのコミットメント
・プルサーマル以外の選択肢も検討
・英国提案(処分費用を支払えば引き取る)の検討
・国際協力による代替処分方法の検討

最終処分場問題 政府方針での解決は悲観的

 政府基本方針と学術会議提言(ともに2015年)では姿勢に大きな違いがある。学術会議から総量規制、暫定保管(使用済み核燃料とガラス固化体)、第三者機関(国民会議と専門委員会)による国民的合意などが提言されたが、政府方針にはほとんど取り入れられず、評価・提言は原子力委員会が行うことになっている。

 7月末に科学的特性マップが公開され、国から自治体への申し入れも行われることになっているが、問題解決の可能性は低いのではないかと質問したところ、ほぼ同意していただいた。

トリチウム問題 福島と六ヶ所の違いは?

 福島の事故処理費用は22兆円では収まらず、50〜70兆円になる恐れがあるとの報告が紹介された。その主な要因は、汚染水のトリチウム処理費用20兆円と、廃炉費用11兆円、除染廃棄物の最終処分30兆円である。

 汚染水についてはトリチウムを処理せず希釈して放出する案が有力視されていたが、講演の直前に東電の新会長が放出の方針を表明して、漁業関係者や地元政治家の猛反発にあい、暗礁に乗り上げた形になっている。

 このトリチウム排出問題は、六ヶ所再処理工場の主要な論点の一つであり、参加者からも質問が出た。鈴木氏からの追加回答によると、六ヶ所再処理工場から、福島のトリチウム総量の約半分を1年間で放出する計算になるという。

 沖合3キロの海底から海水で希釈されるため人体に影響はないというのが公式見解だが、潮の流れにより局地的に濃くなる可能性を鈴木氏も言及しており、福島の汚染水問題と関連して、六ヶ所でもあらためて議論・評価する場を設ける必要性があると述べられた。

「青森問題」をどう考えるか

 討議の最後に、参加者から「青森問題」すなわち脱原発・再処理中止なら六ヶ所の使用済み燃料を搬出するという覚書が原子力政策の転換を困難にしている構造について質問が出た。

 鈴木氏は、新潟県内で原発依存からの脱却が予想以上に進んでいるという調査(『崩れた原発「経済神話」』)を紹介した一方で、六ヶ所では話が大きく容易ではないとも述べられた。

 更に、経済的要因から再処理の是非が検討された2004年に、六ヶ所村への補償として1千億円の基金を積む案も出たという話が紹介された。1千億円と引き換えに、廃炉費用も含めて何兆円もの損失を防ぐことが可能だったのだ。

 この「青森問題」は、今この時代に生きる青森県民(私たち自身)が、福島原発事故後の原子力政策の選択肢を決めるという重要な役割を担わされていることを意味している。この講演会の目的もそこにあった。その意味で、主催者側である医師会員の参加が少なかっただけでなく、委員会の協力も乏しかったことは大変残念であり、意識のギャップを感じざるを得なかった。          

「ほとんどの自民党支持者は集団的自衛権が憲法違反ではないと考えている」の論理構造とは

2017年08月30日 | 東日本大震災・原発事故
「AならばBである」という場合(左上)、
「Aならば」というのは、「すべてのAは」という意味であり、反例が1例でもあれば反証できます。

「ほとんどのAはBである」という場合(右上)は、かなり曖昧になるけど、語感としては90%くらいが目安になるかもしれません。



例えば「ほとんどの自民党支持者は集団的自衛権の行使が憲法違反には当たらないと考えている」という場合、さすがに自民党支持者であっても1割くらいは憲法違反だと考えている人がいるということ。。(この数字はあくまでも仮定です)

ここで、「Aならば」とか、「Bである」とか、それ自体が自明のことのように書いていますが、これが例えば人の身体に関する情報(検査結果など)であったり、人の考え方や主義主張に関する調査結果などの場合、「AかAでないか」、「BかBでないか」という境界線は明確には引けず、連続的に存在する場合の方がほとんどで、その場合は「AならばBである」などという命題自体が成立し得えません。(左右の下図)

臨床検査データなどの場合は、どこかに<多数データから導かれた>線引きをしているわけですが、その線引きの仕方によって、「感度・特異度」「偽陽性・偽陰性」などを勘案して総合的に判断しています(今回は説明省略)。

また、「AかAでないか」、「BかBでないか」といった方向性(ベクトル)の向きも、同じ平面上で平行していたり直交していたりするとは限りません。

むしろ、三次元上で交わらないベクトルである可能性の方が高く、「AかAでないか」と「BかBでないか」という事象について、関連付けて考えられるかどうかは、それをある一つの平面(二次元)に落とし込んで、相関関係の有無(強さ)で判定することになります。

もちろん、(震災・原発事故以来このブログで)何度も繰り返して書いてきましたが、相関関係と因果関係とは同じではありません。

こんなことは、私のような者が偉そうに書くようなことではないのですが、「エビデンスがない言説」を批判している人が自ら陥りがちなポケットであることを、自省を込めてあえて書かせていただきました。。

「科学的特性マップ」は原発推進の隠れ蓑か

2017年08月24日 | 東日本大震災・原発事故
 7月に公表された最終処分場の特性マップについて、世耕経産相は「重要な一歩であり長い道のりの一歩だ」と述べたが、むしろ問題解決の道程から遠ざかったのではないか。

 日本の沿岸部の大半は「輸送面でも好ましい」という緑色に塗られた。「日本で最終処分場のメドをつけられると思うほうが楽観的で無責任すぎる」という小泉元首相の批判に対し、安倍政権は「科学的有望地はある」と反論してきたが、半年以上遅れて出てきた緑色だらけのマップには失笑を禁じ得なかった。



 ここで、東通村から階上町までの沿岸部が緑色になったことに注目したい。核のゴミに関して、六ヶ所村と日本原燃・再処理機構との間の「再処理中止なら施設外搬出」という『覚書』と、県知事・政府間の「最終処分場にしない」という『確約』が原子力政策を縛り続けているが、地元側が自発的に受け入れることまで制約していない。経産相も「約束を前提に」とだけ述べて断定はしていない。

 報道によると、マップ公表後、全国からの手挙げを待つとともに、複数の自治体に調査への協力を求めていくという。しかし、青森県以外のあらゆる自治体において、受け入れを考慮すべき理由は見当たらず、「最後は金目」という従来の手法も今後は通用しない。

 全くの想像だが、複数自治体への調査依頼というのが、隠されたシナリオの元で出される牽制球のようなもので、ボールは最後に青森県に戻ってくるのではないかと考えている。

 最終処分場への埋設が科学的に可能だと仮定しても、学術会議の「総量規制、乾式貯蔵・暫定保管と国民的議論」という提言を無視したままでは、マップ公表は批判を封じて原発再稼働を進めるための弥縫策と判断せざるを得ない。

 責任は原発を推進した国にあるが、問題の本質を先送りする政府に解決は期待できない。北欧型市民社会を例外とすれば、最もあり得る解決策は、強権的監視社会の実現ではないか。

(青森県保険医新聞掲載)

福島県の甲状腺がん検診を青森から憂慮する(全国保険医新聞掲載)

2017年08月04日 | 東日本大震災・原発事故

(全国保険医新聞2017年7月25日号掲載)

 原子力施設が集中立地する青森県では、核燃料サイクル推進、全量再処理の維持を行政や業界は守り抜こうとしている。しかし、使用済みMOX燃料の処分方法は決まっておらず、核拡散防止の観点から再処理によるプルトニウム増加にも厳しい目が注がれており、青森県民は自ら原子力政策の行方を選択していくべき立場に立たされていると言える。

 東日本大震災では六ヶ所再処理工場でも外部電源を喪失し、非常用発電により冷却が維持された。もし大量の使用済み燃料や高レベル廃液が冷却不能となったり、ミサイルや航空機により破壊されたら、放射性物質の拡散は福島を上回るものになると危惧される。

 昨年来、福島県の医療界から甲状腺がん検査の縮小論が唱えられていることを憂慮している。1巡目で確定または疑いと診断された115人(10万人あたり38人)がスクリーニング効果だと仮定しても、2巡目の71人(同26人)は説明がつかず、検査間隔を考慮すると2巡目で増加したと判断できる。

 2巡目の検出率を3地域の市部・郡部に分けて比較してみると、浜通り郡部(同37人)、中通り市部(同31人)、浜通り市部(同24人)の順になっている。地域差が認められないという1巡目での論拠も否定的であり、3巡目以降の傾向を見守る必要がある。

 3巡目でも4人(同3人)が診断されたが、最終的に2巡目より低くなる可能性が高い。それが一過性の増減なのか、診断に関する要因の影響なのかにも注意が必要である。

 現時点で求められているのは、検査の縮小ではなく、信頼回復と客観的評価のはずだ。

鈴木達治郎氏講演資料(7/15)と追加質問への回答を掲載

2017年08月03日 | 東日本大震災・原発事故
7月15日に開催された鈴木達治郎先生の講演資料と追加質問への回答を、当日出席できなかった多くの青森県民にも伝えたいという願いを聞き入れていただき、特別のご厚意により掲載させていただきます。

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八戸市医師会市民公開講座(青森県医師会生涯教育講座)
「3.11以降の原子力政策 青森県民と核燃料サイクルを考える」
講師 長崎大学核兵器廃絶研究センター長 鈴木達治郎 教授
(前・内閣府原子力委員会委員長代理/日本パグウォッシュ会議代表)
2017年7月15日 八戸グランドホテル
主催 八戸市医師会
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(講演の報告は医師会報に掲載された後にブログにもアップする予定です)

【講演資料】

→講演発表・配布資料(86p)
(当日配布した資料に4ページ追加されています)

【参考資料】 …発表の中で言及・引用された資料です

1)『崩れた原発「経済神話」 柏崎刈羽原発から再稼働を問う』新潟日報社原発問題特別取材班/著
http://www.niigata-nippo.co.jp/news/national/20170530334512.html
…在庫がなく入手困難(2017.8.4)でしたが、重版されて購入することができるようになりました(2017.8.29)

2)日本経済研究センター「2050年、05年比でCO2、6割削減は可能」(※特任研究員として鈴木先生も参画)
http://www.jcer.or.jp/policy/pdf/150227_policy.pdf

3)日本経済研究センター「事故処理費用は50兆〜70兆円になる恐れ」(※同上)
https://www.jcer.or.jp/policy/concept2050.html

4)「論点:核のごみ、最終処分への提言(鈴木達治郎・今田高俊・杤山修氏)」(毎日新聞 2014年5月23日)
http://no-nukes.blog.jp/archives/7693672.html
…鈴木先生の提言も掲載されていますが、講演では杤山氏の再処理に関する部分が黄色く強調されて引用されました。
◇杤山修・経済産業省地層処分技術ワーキンググループ委員長
「再処理は使用済み核燃料の中に残ったウランやプルトニウムに取り出す価値があるから行うのであり、処分のためではない。使う価値がないなら再処理せずにそのまま埋める直接処分の方がいい。核燃料を溶かして一度危険な状態にする上、捨てにくく技術的課題が多い超ウラン元素(TRU)廃棄物が出るなど、再処理は不利なものだ」

5)「もんじゅ」廃炉へ(下)「核燃料の再処理は中止を プルトニウム削減を急げ」鈴木達治郎・長崎大学教授(日本経済新聞 2016年11月8日
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO09230870X01C16A1KE8000/
…登録すれば全文読めます

【追加質問と鈴木先生のご回答】

1)直接処分と最終処分場について

今後、部分再処理とワンススルーのいずれを選ぶにせよ、ガラス固化体と使用済み燃料の2種類の高レベル廃棄物が残るはずです。

この2種類は、同じ最終処分場で埋設することが可能で、発表予定のマップの条件も同じと考えて良いのでしょうか。

また、もし可能だったとしても、これまでの説明会では触れられていないので、議論は振り出しに戻ると思います。

だとしたら、最終処分場を決める前に、直接処分の選択肢について議論をする方が先だと思うのですが。。

<回答>
ご指摘の通り、現在の処分場計画はガラス固化体と超ウラン元素を対象にしか計画されていません。

ただ、原子力委員会の決定があったため、JAEAで使用済み燃料の直接処分もわが国で技術的に可能かの確認するための調査が行われ、2016年にその報告書が出て、技術的には問題ないことが明らかになりました。

これまで「日本では直接処分はできない」「そのような研究もない」と言っていたことはこれでなくなりました。場所の選定についても、ガラス固化体であっても、直接処分でも基本的に差異なく選定できると思います。

それでも、政策変更や最終処分法の改定がない限り、処分場の設計への変更は難しいでしょう。単に研究をやっているだけではだめなので、ご指摘の通り、早く直接処分も可能とするように政策変更すべきだと思います。

規制基準もこれから議論に入りますので、今のうちに直接処分も対象とするよう法改正が必要だと思います。


2)最終処分場は1か所なのかどうか

学術会議の暫定保管では、各電力会社に1か所という案が示されていましたが、最終処分場については、政府案でも学術会議案でも、1か所を想定しているように思われます。

公開されている「学術の動向」(2016.6)では、吉岡氏が、むしろ最終処分場を複数にすべきと提起されています。
私も、国民的議論を引き起こし、消費地(大都市)の責任を明らかにするためにも、最低でも2か所以上(東・西日本)の設置を前提にすべきではないかと考えています(…いずれにせよ、1か所でも出来る可能性は低いと思いますが)。

費用や工事・作業の面でも、1か所の方が有利なのかもしれませんが、どのような姿が望ましいのか、教えていただけませんでしょうか。

(暫定保管についても、学術会議の「原発立地地域以外」よりも、原発敷地内や隣接地の方が適しているはずだと思います。。信頼性や透明性が欠けている現状では難しいとは思いますが。)

<回答>
技術的、経済的に考えれば、1つで十分ですし、コストも安いです。もっと極端に言えば、世界に1か所あれば十分処分可能です。

問題はあくまでも、政治・社会的な要素で「各国が責任をもって処分することを原則とする」と放射性廃棄物条約に明記されています。ただ「関係国間で合意できれば国際処分を除外するものではない」とされています。

一方,各電力会社ごとに処分場を置くことは、社会公平性という考え方で出されたアイデアで、立地が可能であれば、そういうことも検討してもよいかと思います。

米国でも数か所を選ぶ、という案がありましたし、今もその可能性はありえます。これは公平性の観点というより、一つだとリスクが高く、バックアップの意味も含めて複数用意したほうが良い、という考えでした。

ただ、コスト面や立地の選択の難しさが現実問題としてありますので、私は貯蔵を各電力会社ごと、処分は1か所がいいのではないかと思います。

低レベル廃棄物処分場は量も多く、輸送も簡単なので、米国では地域ごとに処分場を決定することとなっています(ただ、地域ごとで交渉して、他地域の廃棄物を引き受けることもできるようになっています)。


3)プルトニウムの処理・埋設について

英国はプルトニウム引き受けたとして、どのように処分するのでしょうか。

米国の「スターダスト」というプルトニウムを直接処分する研究について報道があり、講演資料のプルトニウム問題解決の中にも「代替処分方法の検討」という項目がありました。

現在あるプルトニウムについては、MOXにするより燃やさず処分する方が理にかなっているように思われます。

ただし、最終処分場にせよ、プルトニウムの処分にせよ、それが「原発・核燃料サイクル推進」目的のためでは国民的合意は難しいし、私も賛成できないと思いますが…。

<回答>
英国は2005年ころから検討を始め、国の原子力廃止機構(NDA)が責任をもって処分することになっています(費用は税金です)。その分、透明性確保が重要とされています。

処分法も政府案を提示して、国民からコメントを募集して、最終案として、現在は日本と同様MOX燃料にして専用原子炉で燃やすことにしています。

現在公募しているところですが、2015年決定の予定が遅れています。MOX燃料として燃焼させる(使用済みMOX燃料は再処理はしないで処分)ほうが、技術的な見通しが立つ、というのが主な理由でした。

ただ、MOX燃料が順調に進まない場合や、MOX燃料に加工できないプルトニウムも存在することから、安定化させて「直接処分」する技術開発も並行して進めています。

いずれにせよ、産業界は燃料として利用する意図がないので、政府が責任をもって処分することになっています。これは原発推進とは関係なく「廃棄物処分」としてNDAが扱うことになっています。


4)トリチウム汚染水について

講演会で質問した方が、トリチウムの総量は六ヶ所の廃液の方が福島より多いと指摘されていました。これは年間の排出量なのか、全稼働期間の総量なのでしょうか。

<回答>
福島第一の汚染水に含まれるトリチウムの総量は 3.4x10の15乗(34,000兆)ベクレル(東電2014年現在)、貯留されている汚染水内の総量は7,600兆ベクレルと言われています(2016年3月現在)。今後も増える可能性はあります。

これに対し、六ヶ所再処理工場の年間排出量基準は1.8x10の15乗(18,000兆)ベクレルとされており、福島の約半分を1年で放出することになります。

なお英国のセラフィールドは25,000兆ベクレル/年、ラハーグは18,500兆ベクレル/年です。

しかし、再処理工場では濃度の基準も設定されておらず、推定では1億ベクレル/リットルを超えるとも指摘されており、漁業者から問題視されています。

規制当局の説明は、人体へのリスク評価(被ばく量評価)で規制しているので、この濃度と総量であっても、被ばく量は0.2mSV/年と評価しているので問題ないとの説明です。

なお、福島汚染水のトリチウム濃度は30万〜420万ベクレル/リットルで、これを希釈して、告示濃度(下記※)以下にして海水に放出する案が最も有力とされていますが、他にも地中処分や分離して水蒸気放出等の案も検討されています(政府の「トリチウムタスクフォース」が検討しています)。大体7年程度で排出を終えることができると推定されています。

※通常の原発では排出濃度基準が60,000Bq/l(リットル)、年間放出総量は22兆ベクレル/年程度です。

六ヶ所再処理工場の桁違いの排出量に驚きますが、人体に与える影響がなくとも、環境に与える影響は無視できない可能性があります。


※このご回答における各種数値については、引用された元資料にあたって、可能であればその在り処についても追加で記載したいと考えておりますが、まだ作業できていない段階での仮公開となることをお断りしておきます。(2017.8.4)

八戸市医師会公開講座・鈴木達治郎氏『3・11以降の原子力政策』(7/15)再案内と最近の論評

2017年07月09日 | 東日本大震災・原発事故
1週間前になりましたので再度ご案内させていただきます。すでに鈴木先生から詳細な資料を送っていただいております。非常に貴重な機会ですので、お時間の許す方は是非ご出席いただき、一緒に学んで考える機会にしていただければと希望します。

八戸市医師会市民公開講座『3・11以降の原子力政策 青森県民と核燃料サイクルを考える』
長崎大学核兵器廃絶研究センター長 鈴木達治郎 教授
(前・内閣府原子力委員会委員長代理/日本パグウォッシュ会議代表)
日時 2017年 7月15日 (土) 15時〜17時
会場 八戸グランドホテル
主催 八戸市医師会
参加無料

お申し込みは、
市医師会員およびご家族は、医師会事務局まで
それ以外の方は、こちらのページから(↓)
http://www.kokuchpro.com/event/post311aomori/

鈴木先生の略歴や講演会の趣旨は上記のページに載せてありますが、今回は、最近の業績、著作、ネットで読める論評、メディア出演などを紹介してみたいと思います。

1)日本経済研究センター「エネルギー・環境選択の未来・番外編 福島第一原発事故の国民負担 事故処理費用は50兆〜70兆円になる恐れ」(2017年3月7日)
http://www.jcer.or.jp/policy/concept2050.html
これについての記事は、少し遅れて4月2日にデーリー東北にも掲載されました。鈴木教授は特任研究員として研究をとりまとめています。
主な増大要因は、県外の除染廃棄物最終処分費用と、汚染水のトリチウム除去費用です。

2)岩波「科学」2017年4月号
特集「検証なき原子力政策」
高速炉・核燃料サイクルの再検証 「もんじゅ」廃炉を契機に包括的評価を……鈴木達治郎
https://www.iwanami.co.jp/kagaku/KaMo201704.html

3)岩波ブックレット『アメリカは日本の原子力政策をどうみているか』(2016/10/19)
著者 鈴木 達治郎 編 , 猿田 佐世 編
https://www.iwanami.co.jp/book/b266366.html

4)Japan PuPo 2017 日米原子力協力協定と日本のプルトニウム政策国際会議2017
【1日目】2017年2月23日
Session 1 日米原子力協力協定と日本のプルトニウム政策 接点と課題
 鈴木達治郎(長崎大学核兵器廃絶研究センター)
 Robert Gallucci(元米国国務省)
http://www.cnic.jp/7299

「PuPo 2017 声明」
http://www.cnic.jp/7348
中韓日政府に対し再処理モラトリアム
六ヶ所再処理工場の稼働無期限延期を…

5)BS日テレ「深層NEWS」2017年03月02日
#872 福島原発の内部を見た 黒い塊と廃炉の厳しさ 担当記者が緊急生報告
【ゲスト】鈴木達治郎(長崎大学核兵器廃絶研究センター長)、開沼博(社会学者)
http://www.bs4.jp/shinsou/

6)毎日新聞:論点 もんじゅ「廃炉」どう考える
2016年9月23日
決断、欧米より20年遅れ 吉岡斉・九州大教授
核燃サイクルこそ見直しを 鈴木達治郎・長崎大核兵器廃絶研究センター長
自主技術を無駄にするな 菊池三郎・公益財団法人原子力バックエンド推進センター理事長
https://mainichi.jp/articles/20160923/ddm/004/070/023000c
(月限定ですが全文読めます)

7)NHK「視点・論点」2016年10月28日
『もんじゅ』を考える②廃炉と核燃料サイクルの見直し
長崎大学核兵器廃絶研究センター センター長・教授 鈴木 達治郎
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/255577.html

8)NHK:戦後史証言プロジェクト 日本人は何をめざしてきたのか
2013年度「地方から見た戦後」第7回 下北半島 浜は核燃に揺れた
「福島原発事故後、 原子力政策の見直しに着手」
氏名 鈴木 達治郎さん
収録年月日 2013年12月13日
http://cgi2.nhk.or.jp/postwar/shogen/movie.cgi?das_id=D0012100174_00000
カーター政権時に再処理撤退のベースになった報告書を学生時代に読み、現在でも問題となっている項目が全て網羅され、合理的に政策分析がなされていることに感銘を受けたという話から始まるインタビュー

9)WEBRONZA(朝日の有料サイトですが、8割方は無料で読めます。全文読むためには、科学分野だけの購読だと月二百数十円です)
http://webronza.asahi.com/authors/2014101400007.html
2017年05月24日 原発も核兵器も、核の脅威は変わらない NPT準備委に見る「全用途での核物質生産禁止」という新潮流
2017年03月10日 廃炉措置機関の創設で国が責任を持つ体制に変えよ 福島事故6年目、ガバナンスの根本改革にとりかかるときだ
2016年12月26日 「もんじゅ廃炉」にみる原子力政策の矛盾 原型炉に失敗したのに、なぜ実証炉ができるのか
2016年01月14日 国策と研究開発組織:相互依存の落とし穴 「もんじゅ」と「六ケ所再処理事業」の今後を問う
2015年12月14日 原子力研究体制の矛盾が噴き出た「もんじゅ」 厳しい勧告を生かすため、独立した第三者機関の設置を

10)その他、書ききれない(把握しきれない)ので省略

「核兵器・原発・核燃料サイクルの歴史」年表 青森県との関わりが一目でわかる

2017年06月09日 | 東日本大震災・原発事故
Facebookで一度公表した「核兵器・原発・核燃料サイクルの歴史」年表を一部修正し、いくつかの項目を追加してみました。画像はスクリーンショットで画質が良くないので、PDFをダウンロードしてご覧下さい。
→PDF



個人的なメモとして作成したものですが、主な目的は、1ページの中に、核兵器、原発と重大事故、核燃サイクル、青森県の原子力施設、日本と世界の原子力政策が概観できるように収めることです。
なので、一部詰め込みになって、違う年のものが押し込まれているところもあります。
これ以上の情報を入れると見にくくなるので、ここまでで作業終了とします。

 ★が重大事故、被曝
 ◎は青森県関連
 *は日米原子力協定関連

あらためて眺めてみると、スリーマイル、チェルノブイリ以降の原子力産業が停滞して行き詰まっていく時期に、青森県が原発・核燃施設の誘致・建設にのめり込み、2011年の福島原発事故へと流れ込んで行った経緯が一目瞭然であることに加えて、この国の戦後史は核(原子力)の歴史であり、今後もあり続けるであろうということも痛感させられます。


「確約」は最終処分場にしないという確約
「覚書」は再処理が行われない時には「施設外に」搬出するという三者間の覚書
(この点については別に記事にしたいと思います)

福島県の甲状腺がん:3巡目で4名、全体で6名増加:3巡目は2巡目より低くなる可能性(2017.6.5)

2017年06月07日 | 東日本大震災・原発事故
第27回「県民健康調査」検討委員会及び第7回「甲状腺検査評価部会」の資料について(平成29年6月5日開催)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-b7-kaisai.html

今回、初めて3巡目でも甲状腺がん患者が検出されたことで、それに対する2巡目の評価が相対的に定まってくるものと考えられ、注目していく必要があります。
(2巡目、3巡目の患者さんの原因が何かという、現時点では=個々の患者さんについては永遠に=特定できない問題については、ここでは論じていません)

単純に数だけを列記してみます(2017.2発表との比較)
1巡目(先行調査)2011-2013
 確定101+疑い14=115名(2016.6と同じ)
2巡目(本格調査)2014-2015
 確定49(+5)+疑い22(-3)=71名(+2)
3巡目(本格調査)2016-2017
 確定2(+2)+疑い2(+2)=4名(+4)
累積
 確定152(+7)+疑い38(-1)=190名(+6)

この「累積数」は、それぞれの時点での推定発症率の差を計ることができないため、特別の意味を持たないことは何度も書きました。一番下にそのグラフも入れておきます。

推定発症率の推移



これまで、1巡目と2巡目の間隔を全体の平均より長めの「2.5年」として保守的に計算してきましたが、3巡目との比較でもう少し正確に考えるために、先行検査(1巡目)の受診者数の割合で平均化して、「2.07年」を用いることにしました。(グラフでは2.1と表記)

その結果として、2巡目の発症率の高さが際立つことになりました。(それは織り込み済み)

焦点は、今回の4例(確定2例+疑い2例)から、今後増えて行くであろう3巡目の発症率がどの程度になるか。
もちろん、現時点では何とも言えませんが、2巡目の高さまでは達しないのではないかと思われます。

もしそうだとしたら、
1巡目が全てスクリーニング効果による数字だったとしても、
2巡目で「何らかの要因」により推定発症率が高くなり、
3巡目では1巡目に近い数字に収まっていく、
というモデルが想定できるかもしれません。

無論、これはあくまで一つの仮説です。
もし今後そのモデルに近づいていったとしたら、「何らかの要因」が、さほど長期に渡る影響を及ぼすほど強くはないが、短期間・限定的に影響を及ぼしたという仮説を考えておかなければならない。

もし、それを超えて2巡目に近い推定発症率に達するとしたら、「何らかの要因」が、より長期にわたる強い影響を及ぼしたという仮説の妥当性が高くなる。

「何らかの要因」が福島原発事故による放射性物質の大量放出になのかどうかは、個々の患者さんはもちろん、この全県横断・縦断的な調査でも疫学的に明らかにすることはできそうにない。

もし定量的な比較をするのであれば、他県で同様の調査を行い、甲状腺がんの検出率に差がないことを証明しなくてはいけませんが、そのような“再調査”が実施される可能性は、ほぼゼロに近い。

累積数



前述の通り、累積数で増えた増えたと騒ぐのはほとんど意味がありません。
それは、ここに書いたような「推定発症率」を考慮していないからです。

神は細部に宿る。新聞はベタ記事に真実が宿る「第2再処理工場」「直接処分の研究」

2017年06月02日 | 東日本大震災・原発事故
1)2017.5.27「サイクル堅持など国に要望へ 立地4市町村長」全量再処理方針の堅持と第2再処理工場新設▽産業構造転換の支援…


2)2017.6.1「核のゴミ地層処分 3月末までに研究計画 経産省」使用済み核燃料を再処理せずに埋める直接処分の研究も同時並行で進めることも確認した


1)について

①全量再処理堅持というお題目を唱えつつ、「第2再処理工場」という滅多に出て来ない死語を出さざるを得なかった。これは、全量再処理が第2再処理工場の存在なくてはあり得ない架空の話であり、むつ市の中間貯蔵施設に宝の山である「核のゴミ」を招き入れるためには、第2再処理工場の計画が存在するというフィクションを現実のものだと言わなくてはならない苦境を示すもの。

②それが非現実的であることを4市町村の首長自身がとうの昔に理解しており、だからこそ「産業構造転換のための財政的支援」をと言わざるを得ない。
 無論、この要望の主な目的はここにある。しかし、その前に4市町村の首長は、①はあり得ないのだから「産業構造の転換」が必要だとそれぞれの自治体で住民や職員に訴えて、その対策を考え抜いて来たのだろうか。その形跡は6年間で皆無であると言わざるを得ない。

2)について
 2018年から5年間の研究計画だそうな。随分悠長な話だと感じるが、さりげなく、かつ意識的に記された「直接処分の研究も確認」という文言は、全量再処理が不可能であることを経産省も担当記者も当然のこととして認めており、実質的にはあり得ない話だと断定しているに等しい。

(2012年の時点では直接処分の研究は行うことになっていたはずなので、新たに加わったわけではないと思いますが、安倍政権になってからこの言葉が表に出てくることはほとんどなくなっていた)

もんじゅ廃炉後の核燃料サイクル 政策転換の転機はいつどこに?(青森県保険医新聞掲載)

2017年05月29日 | 東日本大震災・原発事故
もんじゅ廃炉後の核燃料サイクル 政策転換の転機はいつどこに?

 問題は複合的だが、5つに絞って考えてみる。①余剰プルトニウム、②使用済み燃料(核のゴミ)と最終処分場、③再処理中止・原発廃炉により施設と使用済み燃料が負債になる問題、④立地地域対策と六ヶ所の使用済み燃料返送覚書、⑤将来世代に対する責任。

 いずれも福島以前から指摘されてきた問題で、順に考えていけば、脱原発+再処理中止+暫定保管・直接処分+立地地域への補償・支援という選択肢に辿り着くはずだが、現実には政策転換が検討される気配すらない。

 ④が全体を縛っているが、再処理機構との覚書にも「施設外への搬出を含め速やかに必要かつ適切な措置を講ずる」とあるだけで、原発に必ず返送するとは書かれていない。河合弘之弁護士は「事情変更の原則」により約束は失効したと考えるべきと提案している(同氏HPに掲載)。

 最終処分場は、学術会議の提言「50年間の暫定保管と30年以内の合意形成」が採用されたとしても解決は難しく、政府の有望地マップ提示方式ではすぐに頓挫するであろう。事故の危険性を除いても、②と⑤は原発・核燃が倫理的に存立し得ない最大の論拠である。

 2月に開催された「日米原子力協力協定とプルトニウム政策国際会議」の有志声明でも、日中韓への再処理モラトリアムと六ヶ所稼働無期限延期が提言されている。

 その一人である鈴木達治郎氏(長崎大学核兵器廃絶研究センター長)は、核燃料サイクル・全量再処理の行き詰まりを打破する改革として、(1) 使用済み燃料の直接処分を可能にする、(2) 中間貯蔵としての乾式貯蔵容量の拡大、(3) プルトニウム在庫量の削減計画の明示、(4) 第三者による総合評価の4点を挙げていた。

 鈴木氏は2012年に原子力委員会委員長代理として核燃料サイクル政策の選択肢について取りまとめており、当時は直接処分と再処理の併存が政策変更コストを含めた諸条件で有利と提示された。

 もんじゅ廃炉が現実となったいま、プルトニウム削減を考えれば再処理工場が稼働する可能性はゼロに近い。県や県民はそれを前提に将来の論議を急ぐべきだ。

(7月15日に鈴木氏の講演会が八戸市で開催される)

…青森県保険医新聞の4月号に掲載された文章ですが、ブログに転載するのを忘れていて遅くなりました。

鈴木達治郎氏講演『3・11以降の原子力政策 青森県民と核燃料サイクルを考える』(7/15)

2017年05月26日 | 東日本大震災・原発事故

→PDF Download
→参加申込はこちらから

八戸市医師会市民公開講座(青森県医師会生涯教育講座)
『3・11以降の原子力政策 青森県民と核燃料サイクルを考える』

講師 長崎大学核兵器廃絶研究センター長 鈴木 達治郎 教授
  (前・内閣府原子力委員会委員長代理/日本パグウォッシュ会議代表)
日時 2017年 7月15日 (土) 15時〜17時
会場 八戸グランドホテル 3階 双鶴
    八戸市番町14番地 TEL 0178-46-1234
主催 八戸市医師会 TEL 0178-43-3954
参加無料・要申込 定員150名(申込順)

鈴木達治郎氏 Profile
1951年大阪府生まれ。東京大学原子力工学科卒、米マサチューセッツ工科大学修士修了。工学博士。専門は原子力政策。2010年〜14年、内閣府原子力委員会委員長代理。2014年より長崎大学核兵器廃絶研究センター副センター長、2015年より現職。

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 東日本震災・福島原発事故から6年が経過し、いくつかの原発で再稼働が始まっていますが、東日本では1基も稼働していません。一方、最近1年間だけみても、電力自由化に対応した「使用済燃料再処理機構」の発足、高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉決定、高レベル放射性廃棄物最終処分場の適性地マップの公表延期、六ヶ所再処理工場の基準適合性審査における前進など、青森県の原子力政策をとりまく環境は大きく変化しており、先行きに不透明感も増す中で、国や県などは全量再処理路線を堅持しています。
 また、国際的に核兵器廃絶を求める声が強まる中で、日本の余剰プルトニウム保有にも厳しい目が向けられています。 
 今回、原子力政策の専門家で、福島原発事故以前から提言を続けてきた鈴木達治郎教授をお迎えして、市民公開講座を開催することになりました。鈴木氏は、2015年の「八戸シンポジウム〜放射性廃棄物と地域を考える」(山脇直司氏・今田高俊氏・鈴木氏)以来2年ぶりの来八となり、今回は核燃料サイクルを中心とした原子力政策の問題や課題についてお話しいただいた上で、来場者との議論や対話にも応じていただけることになっています。
 広く様々な立場の市民にご参加いただき、共に学んで議論する場になることを期待いたします。なお、この講座は医師会の予算により運営され、政治的・経済的に中立で、利益相反はありません。

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参加申し込み・お問合せは、
①氏名、
②在住地(市内・県内・県外)、
③原子力政策に関する質問・疑問(あれば)をご記入いただき、post311aomori@gmail.com にメールをお送り下さい(担当:久芳)

http://www.kokuchpro.com/event/post311aomori/ からお申し込みいただくこともできます

頂いた個人情報は法律に則り他の目的には転用いたしません
(八戸市医師会員およびその家族、従業員の方は八戸市医師会に直接お申し込み下さい)

この雪崩も「想定外」か 「正常性バイアス」でも説明がつかない 栃木雪崩8人死亡

2017年03月31日 | 東日本大震災・原発事故
八甲田山や大川小学校を思い浮かべた人も少なくなかったのでは。。
過去の重大事故と共通する構図があったのではないかと考え、記事を検証している。
29日の記者会見でも、肝腎なポイントである「なぜ」について追及されてはいるが、解明されていない。

自然災害というよりも人災の面が大きく、法的責任(刑事・民事)が問われることは間違いないだろう。
ここでは震災・津波・原発事故でも問題となった「想定外」「正常性バイアス」について考えてみる。

29日の記事に、(※)
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雪崩に巻き込まれた学校関係者は「事前に危険を指摘する意見はなかったのか」との問いに「そういう話は出なかったと思う。想定外だった」と話した。
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とある。この「学校関係者」は、おそらく責任者ではない他校の引率教員ではないかと思われる。

本当に「想定外」だったのであれば、遺族も到底納得できないだろう。
この事態は、必ず想定して、防ぐことができたはずだし、防がなければいけなかった。
心が痛む。

(※以下、断わりがなければデーリー東北=共同通信配信記事)

素人の私でも、このニュースと当時の気象状況を聞いたときに「表層雪崩」という言葉を思い浮かべた。
記事でも「表層雪崩が起きる条件はほぼ整っていたとみられる」と記されている。

まして、「高体連の登山専門部委員長で、山岳指導員の免許を所持し、山岳部顧問を20年以上務めた」教師が、雪崩の危険性を想起していなかったとは考えにくい。

29日の記者会見において、NHKの記事では「ラッセルの訓練は当時は安全だと判断して行ったが、こういう事態になり、反省しなければいけない」と述べたと記されている。

しかし、同記事の動画とその字幕によると、


「前日にテレビ等で雪崩が発生するかもしれない状況であるというのは認知していた」


「そのときには絶対安全であると判断して歩行訓練に入ったが…」

と口述している。(★)

30日の新聞にも「絶対安全と判断」という見出し。

「絶対安全」で思い起こされるのは、「原発は絶対安全です」という原発安全神話ではないか。。

NPO法人日本雪崩ネットワークは「目視でも分かる典型的な雪崩発生区」と指摘しており、別のNPO法人の理事長は、ラッセルについて「そもそも雪崩の危険性があると分かっていればやらなかったはずだ」と指摘している。

また、救助隊の一員は、救助場所(ゲレンデ上部付近の林の近く、急斜面の下)について「もっと安全な場所はあったはずだ」と述べている。

一方、この教員は「雪崩が起きやすい地点を知っていた。(訓練場所は)危険と認識していなかった」と述べており、上記の専門家や救助隊の指摘とは全く見解を異にしている。

一番最初に引用した「学校関係者」の「想定外」という証言を合わせて考えると、引率教員の間で雪崩に対する注意喚起は「全くなされていなかった」という推測に至る。(ここがポイント)

更に「教諭や生徒からも危険という意見はなかった」と述べているが、別の記事によると、訓練に参加した高校生は「すごい積雪だったので大丈夫か?」と思い、「先輩たちも、この状況でやるのはおかしいと言っていた」と証言している。

記者会見の記事によると、同教員は「何年か前にそこで訓練したこともあった」というだけで、「経験則で判断したのは間違いない」と答えている。(3人で判断)

今回、この雪崩が起きたという事実から考えて、同じ地点で過去に雪崩がなかったということはあり得ない。

表題の「正常性バイアス Normalcy bias」は「自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性のこと(Wikipedia)」であり、韓国の地下鉄火災の写真がよく引用される。
福島原発事故以来、このブログでも取り上げてきた。

正常性バイアスという場合には、少しは危険性を考慮しながらも、自分だけは大丈夫と判断するものだが、この場合は、経験豊かな教員が、状況から最も危険性を考慮しなくてはいけない場合に、可能性すら考えていなかったという。。

記者の質問にある「慣れや慢心(=答えは上記の「経験則で判断」)」だけだったとしたら。。

もう一度問う。
春山で雪が溶けて固まった上に新雪が降り積もるという、最も雪崩の危険性を考えなくてはいけない状況で、なぜ教員は誰一人疑問を感じなかったのか。

おそらく報道は一段落で、裁判にならない限り大きな事実は出てこないと思われるが、この謎については、原発事故と同じレベルで追及し続けるべきと考える。

★ なぜ多くの犠牲者が出てしまった後で、「絶対安全」という用語を用いたのか、理解に苦しむ。
当時の判断の妥当性を弁明するために用いたのかもしれないが、医学・医療の世界には「絶対」というタームは存在しない。
医学だけでなく、少なくとも自然科学の分野では絶対ということはあり得ない。
(厳しい自然が相手の登山でも全く同じだと思う)

あるとすれば、「絶対にない(絶対大丈夫)」ということは「絶対にない」という場合のみ。
(これが原発安全神話のウソ。それまで、みんな理解しているものと思っていたが)

あるいは、責任を自分一人で背負い込むことを目的としていたのかもしれない。。

無論、この教員一人の責任を追及したくて書いているわけではない。
そんなことをしても8人の命は返ってこないのだから。
(冒頭に書いたように法的責任は問われるべきだと思うが)

今後も注視し続けたいと思うが、一旦ここで筆を措くことにします。

福島県の甲状腺がん地域別比較(201702) 郡山で1増 浜通り郡部・中通り市部に注意

2017年03月25日 | 東日本大震災・原発事故
2017年2月のデータを地域別に解析してみました。前回(2016年12月)、13市と三地域の郡部に分けて比較したのですが、更に大きな括りの「浜通り・中通り・会津」での比較も加えてみました。

2016年12月のデータについては表とマップにしてみました。(このページの一番下にリンクを掲載)
今回、郡山市で疑い例が1人増えて、全体の頻度が25.1人から25.5人/10万人に微増しましたが、全体の傾向は特に変化ありません。(本格③は甲状腺がん疑い・確定例は現時点でゼロです)

前回(201612)、三地域の郡部で「浜通り>中通り>会津」という差がみられたように見えた(表1)ことから、以下のように比較しなおしてみました。


表1 13市と三地域の郡部の比較(10万人あたり) 2017年2月現在


表2 三地域(市部・郡部合計)の比較(10万人あたり) 2017年2月現在

まず、市部と郡部を合わせて、三地域で比較してみたところ、「中通り>浜通り>会津」という順になりました。(表2)

また、本格検査②において、三地域における市部・郡部・全体の検出率(10万人あたりの「疑い+確定」患者の検出数)を比較してみたところ、
 浜通り郡部>中通り市部>県平均>浜通り市部>…
という傾向があるように見えました。(表3)


表3 本格調査②における三地域の市部・郡部・全体の比較(10万人あたり) 2017年2月現在

これらは、いずれも現時点で意味がある傾向なのか判断はつきません。統計学的な解析をする必要もないと思います。今後、何らかの傾向や証拠が得られるかどうかは、(何度も書いているように)三巡目の数字の出方によるだろうと考えています。

<この作業に意味があるのかどうか、三地域の市町村の分布を地図で見直してみたところ、会津は二市が盆地にあり、その周辺に広大な郡部がある。浜通りは北(相馬・南相馬)と南(いわき)に市があり、その間の郡部が汚染の高い地域。中通りは南北に市が連なり、その間や東西に小さな町村がある。地形や汚染状況を考えると、市部・郡部・全体と分けて比較する意味はありそうだ。三巡目でも同じ作業をすることにする。>

いずれにせよ、県民健康調査の中間報告における主張(※)は根拠を持たないことが証明されています。
(※ 増えたという証拠が確定したという意味ではなく、「増加の可能性を否定できない」としつつも「実質的に否定」した報告書の「断定」が否定されたという意味です。)
根拠
1)先行調査→本格調査での増加(前述)
2)本格調査で地域差が否定できない

福島県の甲状腺がん(201612)13市と3地域郡部別比較(暫定版)「地域差無し」とは言えない
2016年12月31日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/c552065a58e08d9f24e5b199bc6bb170
福島県の甲状腺がんマップ(201612)市部・3地域郡部別比較
2017年01月02日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/43fd6517922074893479feda55451274

福島県の甲状腺がん(201702):疑い1名増加、3巡目の受診率低下を防止できるか

2017年03月13日 | 東日本大震災・原発事故
ポイントは、予想されている「受診率の減少」を防ぐことができるかどうか。

また、何度も繰り返すように、分母の違う集団からの「患者数」を累積して「足していく」のでは何もわからないということが、受診率の変化(低下)により理解しやすくなるかもしれません。
(求められる作業は発症率の推移を比較することです)

◎ 本格調査(2巡目)については、細胞診実施者が189人から195人に増加して、そのうち1名が甲状腺がん疑いとなっています。

◎ 本格調査(3巡目)は二次検査受診率が30%(143名)で、細胞診実施は1名、甲状腺がん疑いはゼロです。

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先行調査(1巡目:2011-2013)
確定101+疑い14=合計115人 
2016年6月追補確定版

本格調査(2巡目:2014-2015)
確定44+疑い25=合計69人
(疑い1名増加) 
2017年2月現在

本格調査(3巡目:2016-2017)
確定0+疑い0=合計0人 
2017年2月現在

(今回は変化がほとんどないので、グラフは次回まとめて掲載します)
-------------------------------------------

◎ 問題の一次検査受診率は

先行検査(1巡目)
 300,476/367,672=81.7%

本格検査(2巡目)
 270,489/381,282=70.9%

本格検査(3巡目)
2016
 83,866/191,855=43.7%
2017
 3,351/144,768=2.3%
合計
 87,217/336,623=25.9%

3巡目の1年目(2016年12月末現在)で43.7%という数字について、2巡目の同じ時期と比較してみました。

2014(2014年12月末現在)
 103,874/216,203=48.0%

数字で見ると、4.3%の低下に留まっているので、極端に大きな低下とまではいかないのかもしれません。

しかし、あまり楽観はできません。福島県、医大、小児科医会、メディア、(自称)識者らは事実上の検査体制の縮小(強く勧めずに自己選択とする)を推し進めているからです。

確かにおおよその傾向は受診率がある程度低下しても把握できるかもしれませんが、受診率が極端に低下してしまうと誤差が大きくなる上に、見逃されている患者が増えることになり、その中で進行例の診断が遅れてしまう可能性を否定できません。

2巡目の推定発症率が1巡目より明らかに増加しているというこれまでのデータをどう判断するかは、3巡目の結果にかかっています。

その意味で、結果だけでなくその元となる受診率の推移にも注意していく必要があるでしょう。