平成20年度母子保健講習会報告 (3)
シンポジウム「今後の予防接種のあり方」
1. 麻しん排除に向けて
1) 沖縄県からの発信
安次嶺馨(沖縄県小児保健協会理事)
沖縄県において平成10~11年および13年に麻疹が流行し死亡例を出した経験から、「はしかゼロプロジェクト」が発足し、接種率95%以上と麻疹発生ゼロを目標に、キャンペーン週間など様々な活動が実施されている。
同時に発生時対応ガイドラインが作成され、全数把握事業が展開された。平成17年に麻疹発生ゼロを記録したが、修学旅行生の持ち込みなどによりその後も小流行はみられている。
現状のままでは2012年までにわが国から麻疹を排除する目標達成は困難であり、国は接種率を上げるための断固たる意志を示し、韓国など麻疹排除に成功した国の施策も取り入れ、マスコミや国民も接種率95%以上を達成するためにそれぞれの責任を果たすことが必要である。
2) 福井県のMR接種率はなぜ高い?
橋本剛太郎(はしもと小児科クリニック院長)
福井県のMR接種率は2・3・4期いずれも全国トップで、1期の接種率も95%以上である。
個別接種で高い接種率を達成している要因として、広報などの不特定多数への呼びかけよりも、就学時健診やダイレクト・メールによる未接種者への直接勧奨の方が有効であった。
そのためには未接種者をいつでも容易に把握できる体制が必要であり、県内全自治体で予防接種台帳を整備・管理し、正確な予防接種(済)率が算定できる体制を整えてきた。これを日本全国で実施すべきである。
3・4期への集団接種導入は短期的要請への対応としては有効であるが、予防接種教育により自ら判断して接種する体験を通じて、予防接種の意義・大切さを親から子へ伝える文化を造り上げていくという長期的な視点が求められる。
2.ヒブ(Hib)ワクチンをすべての子どもたちに
-Hib髄膜炎の早期発見は出来ません-
武内 一(耳原総合病院副病院長)
occult bacteremiaの8割は肺炎球菌でHibは1割程度だが、髄膜炎に移行しやすく、髄膜炎全体の約2/3はHibが起因菌である。Hib髄膜炎は早期診断がきわめて困難で、発症年齢が低下して6ヶ月未満の乳児例が増加しており、抗菌薬の耐性が2000年以降急激に進んでいる。全国で5歳未満のHib髄膜炎は約700人あるいはそれ以上発生しているものと推計される。
Hibワクチンは1998年のWHOの推奨声明以来世界100ヶ国以上で接種されており、髄膜炎の劇的な減少と安全性はすでに実証されている。わが国では2008年12月の発売までに治験開始以来8年もの期間を要し、定期接種に組み込まれていないため自己負担や供給不足の問題が表面化している。今後約2年で年間400万本まで増産する計画との情報が追加された。
3. HPVワクチン
井上正樹(金沢大学産科婦人科学教授)
子宮頸がんの原因ウイルスがHPVであることが明確になり、2008年のノーベル医学生理学賞がzur Hausenに与えられた。HPV陽性率は全体では約1割だが若い世代ほど高く、性交渉開始年齢の低下と性行動の多様化の中で、若年者にHPV感染が蔓延し、子宮がんの若年化が進み、30~40歳代の子宮がん死亡率は増加傾向にある。一方で子宮がん検診受診率は低迷し、一般事業化により危機的状況にある。
子宮がんゼロ戦略の中で、検診や性教育と共に重要な感染予防のHPVワクチンが開発され、高い予防効果と安全性が確認された。現在、世界100カ国以上で接種が始まっている。導入への社会的コンセンサスの形成が必要である。
4. 予防接種制度の現状と課題
梅田珠実(厚生労働省健康局結核感染症課長)
わが国の予防接種制度は法に基づいていることが利点と言えるが、変更には法改正が必要で小回りが利かないことが欠点であった。
厚労省に設置されている予防接種に関する検討会では、麻疹排除に向けてMR2回接種、3期4期の追加などが検討され実施に移されてきたが、今後は対象疾患の位置づけ、米国ACIP (Advisory Committee on Immunization Practices) を参考にしたアドバイザリー機能の強化や意志決定プロセスのルール化、組織培養日本脳炎など新しいワクチンへの対応、麻疹対策の推進、ポリオ+DTPなどの混合ワクチン導入が課題として検討されている。国内では予防接種に関するデータや調査研究が不足しており、臨床医の協力を引き続きお願いしたい。
(この文章は報告者のメモであり、演者の許可を得たものではなく、表現やニュアンスなどが演者の意図しないものである可能性があります。転載や二次利用はお断りします。)
シンポジウム「今後の予防接種のあり方」
1. 麻しん排除に向けて
1) 沖縄県からの発信
安次嶺馨(沖縄県小児保健協会理事)
沖縄県において平成10~11年および13年に麻疹が流行し死亡例を出した経験から、「はしかゼロプロジェクト」が発足し、接種率95%以上と麻疹発生ゼロを目標に、キャンペーン週間など様々な活動が実施されている。
同時に発生時対応ガイドラインが作成され、全数把握事業が展開された。平成17年に麻疹発生ゼロを記録したが、修学旅行生の持ち込みなどによりその後も小流行はみられている。
現状のままでは2012年までにわが国から麻疹を排除する目標達成は困難であり、国は接種率を上げるための断固たる意志を示し、韓国など麻疹排除に成功した国の施策も取り入れ、マスコミや国民も接種率95%以上を達成するためにそれぞれの責任を果たすことが必要である。
2) 福井県のMR接種率はなぜ高い?
橋本剛太郎(はしもと小児科クリニック院長)
福井県のMR接種率は2・3・4期いずれも全国トップで、1期の接種率も95%以上である。
個別接種で高い接種率を達成している要因として、広報などの不特定多数への呼びかけよりも、就学時健診やダイレクト・メールによる未接種者への直接勧奨の方が有効であった。
そのためには未接種者をいつでも容易に把握できる体制が必要であり、県内全自治体で予防接種台帳を整備・管理し、正確な予防接種(済)率が算定できる体制を整えてきた。これを日本全国で実施すべきである。
3・4期への集団接種導入は短期的要請への対応としては有効であるが、予防接種教育により自ら判断して接種する体験を通じて、予防接種の意義・大切さを親から子へ伝える文化を造り上げていくという長期的な視点が求められる。
2.ヒブ(Hib)ワクチンをすべての子どもたちに
-Hib髄膜炎の早期発見は出来ません-
武内 一(耳原総合病院副病院長)
occult bacteremiaの8割は肺炎球菌でHibは1割程度だが、髄膜炎に移行しやすく、髄膜炎全体の約2/3はHibが起因菌である。Hib髄膜炎は早期診断がきわめて困難で、発症年齢が低下して6ヶ月未満の乳児例が増加しており、抗菌薬の耐性が2000年以降急激に進んでいる。全国で5歳未満のHib髄膜炎は約700人あるいはそれ以上発生しているものと推計される。
Hibワクチンは1998年のWHOの推奨声明以来世界100ヶ国以上で接種されており、髄膜炎の劇的な減少と安全性はすでに実証されている。わが国では2008年12月の発売までに治験開始以来8年もの期間を要し、定期接種に組み込まれていないため自己負担や供給不足の問題が表面化している。今後約2年で年間400万本まで増産する計画との情報が追加された。
3. HPVワクチン
井上正樹(金沢大学産科婦人科学教授)
子宮頸がんの原因ウイルスがHPVであることが明確になり、2008年のノーベル医学生理学賞がzur Hausenに与えられた。HPV陽性率は全体では約1割だが若い世代ほど高く、性交渉開始年齢の低下と性行動の多様化の中で、若年者にHPV感染が蔓延し、子宮がんの若年化が進み、30~40歳代の子宮がん死亡率は増加傾向にある。一方で子宮がん検診受診率は低迷し、一般事業化により危機的状況にある。
子宮がんゼロ戦略の中で、検診や性教育と共に重要な感染予防のHPVワクチンが開発され、高い予防効果と安全性が確認された。現在、世界100カ国以上で接種が始まっている。導入への社会的コンセンサスの形成が必要である。
4. 予防接種制度の現状と課題
梅田珠実(厚生労働省健康局結核感染症課長)
わが国の予防接種制度は法に基づいていることが利点と言えるが、変更には法改正が必要で小回りが利かないことが欠点であった。
厚労省に設置されている予防接種に関する検討会では、麻疹排除に向けてMR2回接種、3期4期の追加などが検討され実施に移されてきたが、今後は対象疾患の位置づけ、米国ACIP (Advisory Committee on Immunization Practices) を参考にしたアドバイザリー機能の強化や意志決定プロセスのルール化、組織培養日本脳炎など新しいワクチンへの対応、麻疹対策の推進、ポリオ+DTPなどの混合ワクチン導入が課題として検討されている。国内では予防接種に関するデータや調査研究が不足しており、臨床医の協力を引き続きお願いしたい。
(この文章は報告者のメモであり、演者の許可を得たものではなく、表現やニュアンスなどが演者の意図しないものである可能性があります。転載や二次利用はお断りします。)