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原発推進と秘密保護法は表裏一体/福島県の甲状腺がん検診続報/原発は民主主義の対極にある(11/12版)

2013年11月13日 | 東日本大震災・原発事故
「原発推進と秘密保護法は表裏一体」(某業界紙に掲載予定の原稿です)

福島県の甲状腺がん検診続報

 6月に発表された福島県の甲状腺がん検診結果については7月に当欄で検討してみたが、8月と11月に追加の結果が発表されているので、ごく簡単に違いをみてみたい。

 6月の時点で一次検診約17万人に対して甲状腺がん確定12人+疑い15人=27人だったものが、11月の結果では一次検診約24万人で確定26人+疑い32人=58人に倍増している。スクリーニング効果により10年分まとめて発見したと仮定すると、発症率(罹患率)は10万人あたり年間1.6人(11年度2.7人、12年度1.2人)だったものが、今回は2.4人(11年度3.1人、12年度3.2人、13年度0.2人)に上昇している。

 今回、二次検診の受診率は12年度でも86%まで上がっているが、二次検診受診者中の陽性者の割合は6月の6.3%から5.2%と増加傾向は認められないことから、12年度では「これまでと同じペースで増えただけ」と判断することができる。一方で、11年度では6.6%(確定7+疑い4=11人)から6.9%(10+3=13人)に微増しており、今後も観察期間が長くなれば、特に確定例が増加してくることが示唆された。

 どこまで増えるのか推計してみると、有病率を10万人あたり30人と仮定して、一巡したところで36万人中108人という数字が一つの目安になる。福島県の36万人の未成年から100人もの甲状腺がん患者が発見されるという事態は、当初誰も予想していなかったはずだ。福島県の検討委員会の鈴木眞一教授がスクリーニング開始前に「年間発生率は10万人あたり約0.2名」と説明している文書もネット上に残されている。

 6月の時点で「発症率1~2人/10万人は90年代初頭のベラルーシと同じであり注意が必要」と書いたが、11~12年度の発症率は「10万人あたり3人」という警戒水準に達してきている。当協会の大竹会長は青森県の「小児がん等がん調査事業報告書」から甲状腺がん等の発症率は13年間で10万人あたり年間0.27人と推計しており、福島県では青森県の10倍近い割合で検出されている。

 この差異について、検討委員会が「チェルノブイリとの比較から福島では元々あったがんが精密検査により早期に検出されただけだ」と主張するのは、科学的にはあくまで「一つの仮説」に過ぎず、証明されるためには最低でも10年以上の歳月が必要なはずだ。

 検討委員会では、甲状腺がん患者発生の発表に先立って秘密会(ウラ会議)を開催して発言のシナリオを打ち合わせていたことが、日野行介著『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』で明らかになっている。当初から調査の目的を「不安の解消」「安全・安心の確保」としていたことから「被害がないことを前提としている」という厳しい批判を受け、かえって不信と不安を招く結果となっている。

「原発は民主主義の対極にある」

 広瀬隆氏の首都圏地下水汚染説への疑問、汚染水問題の根本的解決策としての鉛棺・空冷方式(小出裕章氏)、除染・廃炉廃棄物の福島県外搬出確約などの問題にも触れたかったがスペースが尽きた。

 福島原発事故では健康調査やSPEEDI問題に限らず、この国の政府が国民をどのように扱ってきたかが図らずも明らかになった。元来、原発や核燃施設は秘密情報の固まりであり、原子力ムラの隠蔽体質は事故後も全く変わっていない。鎌田慧氏が繰り返し主張してきたように、原発は民主主義の対極にあり、高木仁三郎氏はプルトニウム国家が超管理社会になることに早くから警鐘を鳴らしてきた。

 安倍内閣が成立を急ぐ特定秘密保護法が施行されれば、どのような運用の仕方になるにせよ、国民の自由や権利が制約されていくことは間違いない。憲法の目的は政府を制約して国民の権利を守り、再び戦争が出来ない国をつくることにあったが、現在急速に進められている路線の本質は、国民の権利を制約し、再び戦争が出来る国をつくることにある。

 小泉元首相の即時原発ゼロ発言に対して言いたいことは山のようにあるが、内容自体は私たちの主張と一致しており間違いはない。ただし、小泉氏の「世論を喚起して政府の政策を変えさせる」という主張が実現する可能性は、安倍政権が倒れるか、少なくとも自民党内の疑似政権交代が起きない限りほとんどゼロに近い。小泉氏がそこまで踏み込むことは想像しにくいが、流れを脱原発に引き戻す潮目になってきている。

 脱原発を進めることの意義は、単にエネルギー問題に留まらず、民主的な市民社会を未来の世代に残していくことにある。衆院選や参院選で安倍自民党に投票することは、本人の意思に関わらず原発推進路線を支持したことを意味する。協会では脱原発・核燃阻止を訴え続けてきたが、一般会員との間に意識の温度差があるのか無いのかを知りたい。

※「協会」=青森県保険医協会(県内医師・歯科医師1300人の団体)

福島の甲状腺がん「確定26+疑い32=58名」発症率は約3人/10万人で8月と同じ。判断は出来ず(11/12)

2013年11月13日 | 東日本大震災・原発事故
福島の甲状腺がん検診が本日(11月12日)発表になったようです。
今回の結果で「甲状腺がん確定26+疑い32=58名」となり、また「増えた増えた」と大騒ぎになるのではないかと思いますので、これまで発表された2月、6月、8月の数字と比較して検討してみます。

→第13回「県民健康管理調査」検討委員会(平成25年11月12日開催) 
→資料2 県民健康管理調査「甲状腺検査」の実施状況について<PDFファイル1MB>


(クリックして別ウインドウで拡大)

表は少し項目が多くなって見にくいかもしれませんが、県発表の資料や報道ではわからない部分がこれで理解できるはず。今回のは一番下の11月(黄色)の表です。

単純に甲状腺がんの患者数をみていくと、
    確定 疑い 合計
 2月  3  7 10
 6月 12 15 27
 8月 18 25 43
11月 26 32 58
となり、

これまた単純に一次検査受診者数で割った有病率(10万人あたり)は、
 26.2→15.5→19.8→24.3人
と推移しているように見えます。

ただし、対象年度ごとに二次検診受診率が異なるので、別々に見ていくと、
 2011年度 26.2→27.4→31.5→31.1人
 2012年度    11.9→22.1→31.7人
 2013年度         0→1.7人
となり、12年度の二次受診率が86.4%と11年度に追いついたところで、偶然かも知れませんが有病率もほぼ31人に並びました。

前回書いた通り、スクリーニング効果により10年分まとめて発見されたと仮定すると、この数字の1/10が発症率(罹患率)となり、「10万人あたり年間約3人」という数字が見えてきました。

年度毎にBC判定者の割合に若干の違いはありますが、ここで二次受診者中の「確定+疑い」の割合を見てみると、
 2011年度 6.2%→6.6%→7.5%→6.9%
 2012年度     6.3%→5.1%→5.2%
となり、今回「確定+疑い」が43人から58人に15人増えたのは、主に2012年度分の14人が「これまでと同じペースで増えただけ」と言うことが可能です。
(確定だけだと18人から26人に8人増えたうち7人が2012年度分)

ここで、あえて「だけ」という表現を使ったのは、甲状腺がん患者が(疑いを含めて)15人増えたのが少ないとか大したことないという意味ではもちろんありません。

今回発表になった結果によって新たな現象や発見が生じたということではなく、これまでのデータの延長線上にある「だけ」なんだという意味で書いたものです。

この数字の一人一人の家庭で、「原発事故とは恐らく関係なくみつかったものだろう」と頭では理解しようとしながらも、「もしかしてあのとき避難させていたら…」という思いを拭いきれずに自らを責めている親御さんがいるであろうことは、胸の痛む思いで想像ができます。

二次受診者中の「確定+疑い」の割合を見るのは、普通に考えればあまり意味のない行為かもしれません。一次検診の精度管理がなされていれば、同じような分布を示す集団でさほどの差は出ないはずですから。

これをチェックしているのには理由があって、例の「弘前・甲府・長崎の調査で福島と差がなかった(だから福島は大丈夫)」という調査結果について、本当にそうなのかという疑問があったからです。(同じような一次検診の結果であっても二次検診結果に差が出る可能性はないかどうかということですが、この疑問はどちらに転んだとしても解消されないはずです。)

今のところ、2011年度と12年度で一次検診者中の有病率に差がないことは良い徴候と言えるかもしれません。二次受診者中の割合で1.7%程度の差が出てますが、結果が未確定の人もいるので何とも言えません。(少なくとも統計学的に有意差があるとは思えません。)

6月の時点で「発症率1~2人/10万人は90年代初頭のベラルーシと同じで注意が必要」と書いたが、今回、11年度と12年度の結果から「発症率3人/10万人」(有病率30人/10万人)という数字が現実のものとなりました。上述のようにこの数字はスクリーニング効果を除外してあります。

もし同じ割合で3年目(2013年度)まで進むと仮定すると、36万人×有病率30人/10万人=108人という数字が一つの目安になってきます。3年目では人口が多く初期(特に3/15)のヨード被曝が不明のいわき市の結果がどう出るかに注目せざるを得ません。

これも1つ前のentryに書いたが、青森県保険医協会の大竹会長は青森県の「小児がん等がん調査事業報告書」から甲状腺がん等(甲状腺がん以外の上皮癌を含む)の発症率は13年間で10万人あたり年間0.27人と推計しており、福島県では青森県の10倍近い割合で検出されていることが今回も実証されました。

福島医大の鈴木教授がスクリーニング開始前に「年間発生率は10万人あたり約0.2名」と説明した資料が残されているが、これまでの結果を見続けてくれば、この数字(よく使われているのは100万人あたり1~2人)を基準にして15倍(有病率と発症率を混同した文章では150倍)などと大騒ぎするのは意味が無いと思う(ので、やめた方が良いと思う)。比較するための基準となる数字が「わからない」中で検診が進んでいるというのが現実。

また、医師の中には「被曝とは関係がない微小ながんや一生大きくならないがんを検出していて、不必要な検査や治療(手術)によって子どもたちを傷つけている」と主張する人たちがいるようです。



そういう人たちは、今回発表になった一次検診における結節の大きさの分布を良く見直した方が良い。20mmを超える結節が87人もの人から検出されているのです(甲状腺がん確定または疑い患者の中の分布は不明だが)。2cmの腫瘍は早期発見とは言えないし、よほどの肥満でなければ検診がなくても早晩みつかったのではないか考えられる。それを見つけた時に医師が「これは大きくならないから検査も治療も不要」などと言うことは到底考えられません。

(不必要な検査・治療で傷つけている可能性は否定できないと思いますが、それを臨床的に区別できない以上、悪い場合を想定して対応するのが当然の選択です。)

要するに、1)被曝によって甲状腺がんが多発していて大変だ大変だ、2)いまの患者は原発事故とは関係ないが今後も「増加してこない」ことを確認するために検診は必要(検討委員会)、3)今後も検診による不要な被害者を出し続けるから検診は中止すべき、という3つの流れがあるようですが、私はどの意見にも賛同することはできません。

現在の状況が「ベラルーシの90年代中旬と同じ」で「青森県の10倍」であるという数字を見て、1)の「多発説」を否定することは不可能だと思うが、現状が「多発」なのだとしたら、2巡目以降はベラルーシを大きく上回るほど増えてくるとも考えにくい。

結局、以前にも書いた通り2巡目の数字を見てみないと何とも言えません。(スクリーニング効果なら2巡目から減少してくるはずですが)

なお、県の資料には「悪性ないし悪性の疑い59例」と記されていて、一部のメディアでも「59例」と報道されているけど、当初疑いだった59例のうち良性結節1例は手術して摘出した結果の診断なのだから、現在は「甲状腺がん確定26+疑い32=58名」と表現するのが普通です。良性例を「疑い」に残しているのは、単に「当初疑いだった人数」の中に含まれるという意味だと解釈しています。