踊る小児科医のblog

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繰り返す「国家の暴走を止められない歴史」戦争、原発、タバコ (某所掲載予定原稿)

2015年04月01日 | 東日本大震災・原発事故
「先の大戦、水俣病、薬害エイズ、原発事故などの歴史を見ても、この国の政府が合理的かつ国際的な判断の元に、国民の命を優先する政策に転換することを待つ猶予はない。国を置き去りにして現実を前に進めていくしかない」。これは原発・核燃問題ではなくタバコ問題について某所に書いた文章の一部だが、両問題は全く同じ構造にあり、安部政権下で政策転換が起こる可能性はない。

 いかにして「国を置き去りにして前に進めるか」が問題だが、原発ゼロ路線を選択した独伊だけでなく、米国では経済性による原発撤退が相次ぎ、仏アレバ社は4年連続の赤字、フィンランドの原発建設は費用高騰で見通しが立たず、未だに原発推進を掲げる主要国は日中韓露のみ(日露は重大事故の当事国)というのが現実である。この4国はタバコ大国という点でも共通しているが、すでに中韓露はタバコ規制政策に転換している。

『プロメテウスの罠8』によると、89年にベルリンの壁が崩壊して冷戦が終結した後に、今上天皇は「これでチェルノブイリみたいなことは起こらなくなるだろう。壁がなくなって情報の流れがよくなり、何が起こったか分からないうちに大変なことになってしまうようなことは、もうなくなるのではないか」と侍従長に述懐されたという。その22年後に自国で起きた原発事故と政府の情報隠しに何を思われたであろうか。

 匿名官僚作家による『東京ブラックアウト』では、天皇自身がセリフを持った登場人物として描かれ、フクシマより酷い事故の際に誰が収束させるのかと規制庁長官に問いつめ、原発再稼働に深刻な懸念を表明される。その懸念は現実となり、国民からの請願書一通一通に深夜まで目を通し、衆院議長に重大な決断を伝えるが…。これは全くの空想小説ではなく、前作『原発ホワイトアウト』と同様に半分は現実で、残りの半分も「現実に起きてもおかしくない」範囲での創作として読むべきであろう。

 今上天皇が皇太子時代から憲法の平和主義と象徴天皇制を具現化するために、諸外国との友好や、国民(特に被災者)と共にあることに心を尽くしてきた歴史は誰もが知るところであり、それが現在の圧倒的な皇室支持につながっている。「日本国民の総意に基づく、日本国と日本国民統合の象徴」という理解し難い概念を、永年の言動と存在で身を持って示されてきた。そうやって積み重ねてきた平和国家の礎が、「戦後レジームからの脱却」という一言で葬り去られ、「軍事活動の拡大による世界平和維持」という全く異質の国家像へと造りかえられようとしている。

「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び,今後の日本のあり方を考えていくことが,今,極めて大切なことだと思っています」という新年の挨拶は、大元帥であり大権を保持していた昭和天皇でも国家の暴走を止められなかった歴史の教訓を、首相を含む国民一人一人が「今」まさに学ぶべきという、従来の慎重な発言から踏み出した「極めて」異例の強いメッセージであり、これを政治的発言と捉えるべきではない。

 冒頭の問いに対し、推進か反対かではなく、幅広い市民による公論形成を基とした、普通の人々が納得できる実現可能な「撤退・生き残り戦略」が求められているが、現実の動きには結びついていない。元経産閣僚の古賀茂明氏による「改革はするが戦争はしない」を基本理念とする「フォーラム4」には、改革の内容を検証しつつ注目していきたい。

(某業界団体新聞に掲載予定の原稿:紙幅の関係で最後の段落は説明不足ですが)