熊本熊的日常

日常生活についての雑記

アナログの頃

2009年09月11日 | Weblog
予約しておいたビートルズ・ボックスをコンビニで受け取り、箱を開けてみた。各アルバムは紙ジャケで、中のCDは半透明のビニールに収められている。CDというメディアになってしまったけれど、可能な限りレコード時代の装丁に近づけようとする意志が感じられた。

音楽メディアはレコードからCDになり、さらにネット上での配信ということで脱パッケージ化している。音楽情報がデジタル化されて果たして音の品質はよくなったのかどうか、個人的には疑問を感じないこともないのだが、別にこだわりがあるわけではないし、以前にも何度かこのブログに書いているように音楽のセンスは全くないので語るべきこともない。ただ、同年代の友人と語らうと、音楽好きの奴に限って「レコードの頃のほうが音がよかった」などと言う。音の事はともかく、少なくともジャケットについては私もレコードの頃のほうが好きだ。あのLPサイズでこそジャケットのデザインが活きるように思われるのである。このCDボックスもそうなのだが、CDをプラスチックの箱から厚紙製のジャケットに変えたところで、大きさはCDサイズなのだからたいした違いはないように思う。しかし、店頭では同じタイトルがプラスチックケースのものより紙ジャケのほうが高い値段が付いて並んでいることが多いので、そうしたことへこだわりを持っている人も少なくないということなのだろう。

初めてビートルズのアルバムを手にしたのは中学1年生の時だった。当時、オーディオ再生装置は「ステレオ」と呼ばれていて、それなりに高価なものだった。それがテクニクスから「ユー・オー・ゼット」という初めて10万円を切るシステムコンポが発売され、それを買ってもらうことができたのである。それで聴くレコードのほうは、友人からビートルズとカーペンターズのアルバムを借りて聴いたのが最初だったと記憶している。その時のビートルズのアルバムは「オールディーズ」。初期のベスト盤だが、残念ながら未だにCD化されていない。カーペンターズのアルバムのほうは、タイトルは覚えていないが、赤い車が映ったジャケットだったような気がする。

レコードの扱いは面倒だった。半透明のビニールに収められた上でジャケットに収納されているのだが、そのビニールから出すときに静電気の所為で埃を吸い付けるのである。それで、静電気除去スプレーをかけて、専用のクリーナーで表面を拭ってからターンテーブルに乗せるという手順を踏む。ターンテーブルのスイッチを入れて、回転が安定した頃に静かにアームを降ろすと、やや無音の時間があってから音楽が鳴り出す。その微妙な緊張感が今となってはなつかしい。とにかくレコードの盤面に傷をつけないように注意を払って大事に扱ったものである。だから、CDが登場したとき、そうした面倒を経ずに手軽に音楽を聴くことができるようになったことが革命的なことのように思われて、持っていたレコードを中古レコード屋に売って、CDに買い替えるということをしてしまった。おそらく、今、同じタイトルでレコードとCDを持っていれば、よほど気が向かない限りはCDのほうを聴くとは思うのだが、レコードも手元に置いておきたかったような残念な思いが無いわけでもない。

1988年6月に初めてロンドンを訪れた時、2番目に足を運んだ先はEMIの本社ビルだった。建物自体はごくありふれたオフィスビルなのだが、このビルの中で撮影されたビートルズの写真が、「プリーズ・プリーズ・ミー」と赤版と青版に使われているのである。その後、勿論、アビー・ロード・スタジオも見に行ったし、彼等がデッカ・レコードのオーディションを受けた時に宿泊したプレジデント・ホテルにも泊りに行ってみたし、マジカル・ミステリー・ツアーのバスの出発点であったという場所も訪れた。リバプールに出かけて観光局主催の「Magical History Tour」というビートルズ縁の地を巡るバスツアーにも参加するなどということも経験した。

ちなみに、ロンドンで最初に足を運んだ先はWaterloo Bridgeである。邦題「哀愁」というヴィヴィアン・リー主演の悲恋物語の原題が「Waterloo Bridge」だ。勿論、映画に登場するのは現在の橋の前の世代のものなので、そこに立ったところで映画の雰囲気など全くないのだが、「うぉーたーるー」という場所がどういうところなのか是非見てみたいと、特別な理由もなく思ったのである。

ところでCDの話だが、今は音楽CDが売れないという。面倒なレコードの時代にはオーディオ自体が趣味として一定の地位を占めており、オーディオ情報誌や機器メーカーも今よりは数が多かった。日本の電機メーカーはどこもオーディオ機器のブランドを持っていて、それぞれに特徴のある製品を出していたように思う。先ほど触れた「テクニクス」というのは松下電器産業(現:パナソニック)のブランドで、日立なら「ローディー」、東芝は「オーレクック」、三菱は「ダイヤトーン」といった具合だ。オーディオ専業メーカーは社名自体がブランドでもあったのでソニー、山水、ティアック、赤井、ナカミチ、マランツ、トリオ、パイオニアなど、それぞれに憧れの製品があったものだ。それが、デジタル化で音楽が手軽に聴けるようになるにつれて、ハードもソフトも売れなくなってしまうというのは皮肉なものである。

ビートルズ・ボックスは、とりあえず、ホワイトアルバムとパストマスターズを聴いてみた。