熊本大地震の際、真夜中の避難所に肩を震わせながらたどり着いた住民を前に自治会のリーダーは余震が続いていることもあってか「後は自己責任で避難ください」と告げた。障害者や女性、子供らの弱者には極めて冷酷な通告のようでもあったが、マニュアルの不備な状況下では「個人としては究極の判断か」と理解もした。
多くの生命を前にしての責任を想定した場合、個の人間としての弱さを痛感したが、それが自治行政となると、その責任所在から危機管理において「同情の余地もない」というのは確か。
土砂災害警戒区域等における土砂災害災害防止対策の推進に関する法律が定められ、平成29年6月19日に施行された。
急傾斜地での崩壊、土石流、地滑り等が想定される地域をレッドゾーンとして、生命又は身体の保護を目的にした法律で、そのためにハザードマップが作成された。
観光地の豊富な熊本県ては、それがハザードマップに重なるかのように赤く塗り潰されているが、県外からの観光客はもちろん、そこに居住する県民の何割がそれを承知しているだろうか。法律は、関係する住民に積極的に通知し、その対策を推進し努めるとなっているが、自治行政は住民の生活権を前にその責任を棚上げした状態にある。生命よりも経済優先とまでは言わないが、法律を施行する自治行政側に責任を棚上げする姿勢にあるのは確か。
天草市西海岸で1年前から恵まれた環境を活かした新しい観光施設の計画が練られた。ところが、その構想地がこのレッドゾーンに掛かると知り、やむ無く白紙に戻された。法律の存在はもちろん、人の生命、身体が損なう危険地域となると、それまでの損失は軽いものである。レッドゾーンの存在を知らず計画を推し進めた側の愚かな失態。
だが既存の観光宿泊施設の存在はどうなのかと、その営業権及び生活権と利用客との生命、身体権との秤を考えたりもするが、法律を施行する前線の県地域振興局も告知、情報推進の上で懸念する難儀な話。最悪な場面を想定した時、その責任所在が問われるが、それを曖昧で通して来たのが最大の災害。
弱者の被害は目を覆いたくなるほど日常茶飯事となった昨今、法律や条例を施行する側の政治や行政によって相反する行為が行われるという責任不在は、今や市民のそうした常識をも自ら疑う程の魔物と化した・・・。