万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

市場主義から離脱しやすい農業経済

2007年08月14日 19時00分05秒 | 国際経済
 WTOにおける多国間交渉のネックが常に農産物問題であることが示すように、どの国も、農業問題は政策上の”つまずきの石”となっています。それでは、何故、農業分野は、かくも解決困難な問題となるのでしょうか?

 農産物とは、米や小麦といった穀物を始めとして、人間が生きてゆく上で必要不可欠な食料でもあります。このことは、”交換”を基盤としてる市場経済とは違った側面を、農業に与えることになるのです。例えば、飢饉が起きたりしますと、まずは、最低限の供給が満たされることが政治的に要求され、農業分野は、市場経済から離脱を余儀なくされます。また、輸入の完全自由化によって、国土が荒廃する事態に至ることも、多くの諸国は政治的受け入れることはできないでしょう。これらを反対から見ますと、農業分野の市場経済化は、充分な食料の供給と農地の保全という条件を満たす必要がある、ということにもなります。

 このように考えてみますと、農産物市場を市場経済から離脱させないためには、なかなか難しい条件を同時に満たさなければならないようです。これらの要件を満たす解として、1)農業の生産性を上げ、充分な供給を確保すること、2)国際競争力に劣る国は、農地の大規模化などにより価格低下に努めること、3)食糧用農産物価格が国内生産を不可能にする程に低下しないように、農産物の利用範囲を広げること(バイオ・エネルギーなど)、4)農地利用を自由化し、付加価値の高い商品作物の開発に取り組めるようにすること、などを挙げることができます。

 こうした具体的な農業改革なくしては、WTOが進展することは困難と思われるのでが、いかがでしょうか。

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