万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

北朝鮮の奇襲攻撃に警戒を

2017年09月17日 16時07分58秒 | 国際政治
グアム基地破壊「可能性10%以下」…米専門家
今月15日、北朝鮮が6回目となる「火星12」ミサイルを発射したのを受けて、国連安保理では、緊急の会合が開かれました。しかしながら、前回の決議において明記されていた“さらなる重大なる措置”は置き去りにされ、石油禁輸を含む制裁強化は見送られたのです。

 制裁レベルが現状に留まった理由は、先の制裁決議の効果を見守るためとの指摘もありますが、実際には、前回の内容が中ロの合意を得ることができる限界であったからなのでしょう。アメリカとしても、対北制裁レベルを上げる案を提起しても中ロの支持を得られる見込みはなく、最初から断念したと推測されるのです。このことは、時間との戦いである北朝鮮問題において、国連安保理を枠組みとした経済制裁路線が、およそ消滅したことを意味しています。

 となりますと、俄然、アメリカによる武力行使の可能性が高まるのですが、日本国政府やマスメディアの危機感は薄く、対応の鈍さが懸念されます。何故ならば、歴史的に見ましても、戦力において劣位する側は、相手国の戦争準備が整わない状況を狙って奇襲攻撃に訴える可能性が高いからです。書き辛いことではありますが、日本国もまた、太平洋戦争に際しては、宣戦布告の遅れが意図的であったのか、偶発的であったかの問題は別としても、相手国に先んじて真珠湾に攻撃を仕掛けることで緒戦を優位に展開しています(短期決戦論では、緒戦の優位な状況を以って早期講和に持ち込む計画であった…)。

 過去の事例からしますと、アメリカによる軍事制裁が現実味を帯びた時点で、北朝鮮による奇襲攻撃の可能性は否定できなくなります。戦前の日本国と今日の北朝鮮とでは全く以って時代状況、歴史的背景、及び、国家体制等も違いますが、純粋に軍事戦略の観点から見ますと、両国の違いを以って北朝鮮による奇襲の可能性を排除することはできないように思えるのです(むしろ、このリスクを否定する方が危うい…)。そして、仮に、奇襲攻撃が実行されるとすれば、その対象は、アメリカ本土に到達するICBMが完成していない現状にあっては、グアム島、あるいは、同盟諸国であると推測されます。度重なる「火星12」の実験は、射程範囲にあるグアム島への攻撃能力を誇示する狙いがあったとされていますし、また、今般の連続発射されたミサイルが日本国上空を通過した点を考慮すれば、アメリカの同盟国である日本国に対する直接的な威嚇であったとの指摘もあります。米政策研究機関「憂慮する科学者同盟」のミサイル技術専門家デビッド・ライト氏によれば、たとえ北朝鮮がグアムの米軍基地を狙ってミサイルを発射したとしても同基地を破壊する確率は10%程度なそうですので、北朝鮮は、グアムよりも命中確率がより高い、近距離にある日韓等の同盟国に先制攻撃の目標を定めるかもしれません。

 日本国政府は、仮に有事に至るとすれば、今年後半あたりを想定しているようですが、北朝鮮は、自己中心主義ともいうべき“主体思想”の下で行動していますので、開戦の時期についても主導権を握ろうとすることでしょう。武力行使の可能性の高まりは、同時に北朝鮮による奇襲攻撃のリスクをも高めるのですから、油断は禁物ではないかと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへにほんブログ村
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする