万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ゴーン容疑者‘変装保釈大作戦’が示唆する国際組織犯罪の疑い

2019年03月08日 12時54分40秒 | 国際政治
ゴーン被告の変装帽子は埼玉の会社の作業帽 担当者「びっくり」
日産自動車の前会長であり、特別背任罪等の容疑で東京拘置所に凡そ3か月半拘留されてきたカルロス・ゴーン容疑者は、保釈金の10億円を納付してようやく東京地裁から保釈されました。ところが、この時、前代未聞の珍事が起こります。拘置所の前で待ち構える報道陣を煙に巻くためか、ゴーン容疑者は、大きなマスクで顔を覆った作業員姿で拘置所の玄関口に現れ、左前方脇に止めてあったスズキ自動車の軽ワゴン車に乗り込んだのですから。‘おとり’の黒塗りの車が玄関正面に付けられる一方で、同車の屋根には脚立が載せられ、運転手も同容疑者とお揃いの作業員の服装といった念の入れようなのです。

 3月8日の報道によりますと、この‘変装保釈大作戦’を発案したのは、弁護団の高野隆弁護士なそうです。メディアも同作戦に使用された‘小道具’の入手先を追っており、同軽自動車に社名が記されていた建設会社が埼玉県に実在することや同容疑者が被っていた「N」マーク付きもの帽子も実在の会社で過去に使われていたものであったと報じています。ゴーン容疑者の出迎えを装った玄関正面の黒塗りの車も作戦の一環なのでしょうから、大掛かりな作戦であったことが窺えます。

 かくも綿密に準備された‘変装保釈大作戦’も、結局のところは大失敗であったようです。その理由は、第1に、‘騙しのテクニック’を用いてしまったことです。職を解かれたとはいえ、ルノー、日産、三菱自動車を束ねてきたグローバル企業連合の前会長であり、かつ、一貫して無罪を主張しているのですから、スーツ姿でパシッと決め、堂々と黒塗りの車に乗り込んだ方が自らの清廉潔白さを印象付けられたはずです。ところが、ゴーン容疑者は、メディアや一般の人々の目を誤魔化そうとしたのですから、同氏に対する信頼は地に墜ちたと言っても過言ではありません。これまで同氏を擁護してきた海外メディアも当惑しており、ゴーン容疑者の作業員姿について‘まるで囚人服のようだ’と表現しているコメンテーターも見受けられました。無罪を信じてきた人々も、姑息な詐術的な変装によって心証が有罪に傾いた人も少なくなかったはずです。

 第2の理由は、作戦上の目的そのものの失敗です。保釈のシーンを撮ろうと待ち構えているカメラ陣の目を盗んでその場をひっそりと去ろうとしたのでしょうが(高野弁護士は、ゴーン容疑者の住所がメディアに知られ、本人、家族、並びに、近隣住民の迷惑となることを避けるためと説明…)、結果は逆でした。作業員に変装した奇異なゴーン容疑者の不名誉な姿が大々的に報じられ、‘騒ぎ’はさらに大きくなってしまったのです。

 もっとも、常識的に考えれば、‘変装保釈大作戦’が失敗に終わることは当然に予測され得るように思えます。それにも拘らず、何故、誰からも見破られるような‘大作戦’を敢行したのでしょうか。ここで生じてくる疑問は、この作戦の真の発案者は弁護団ではなかったのではないか、というものです。日本の司法史において、保釈に際して弁護士が変装を画策したのは今般の事件が初めてなのではないかと思います。否、日本国の国民性を理解していれば、決して採用しなかったアイディアなはずです。となりますと、この‘変装大作戦’は、日本国を十分に理解していない外部からの指示、あるいは、入れ知恵であった可能性も否定はできないのです(ゴーン容疑者による発案である可能性もあるが、拘置所内で作戦の詳細を練り、外部にその実行を指示できるとは思えない…)。もっとも、発案者とされる高野弁護士は自身のブログで同作戦は失敗と認め、ゴーン容疑者の名誉を傷つけたとして謝罪していますが、同弁護士が全責任は自らにあると強調すればするほどに、怪しさが増してゆきます。

 仮にこの憶測が正しければ、ゴーン事件とは、カルロス・ゴーン容疑者個人が引き起こした個人的な事件ではなく、国際的組織が絡む犯罪と言うことになります。つまり、ゴーン容疑者自身も同組織の‘駒’でしかなく、この意味において、同容疑者の取り調べのみでは事件の全容を明らかにすることはできないのです。真の犯人は別のところに潜んでいるのかもしれないのですから。

ゴーン事件に関しては、メディアは世論の関心を事件そのもの悪質さよりも、日本国の検察・司法の制度改革に向けようとしております。しかしながら、百歩譲って制度改革の側面からゴーン事件に迫るとしても、その主たる改革点は、組織犯罪に対しては現制度では十分に対応し切れない点にあるはずです。今般のゴーン容疑者保釈に際して課された条件も、実効性に対する疑問以外にも、組織犯罪であれば殆ど無意味となりかねません。証拠隠滅等の作業は、組織内の別のメンバー達が行うかもしれないからです。ゴーン事件については、国際的組織犯罪とする見立てに基づいて対応した方が、余程、真相究明、並びに、再発防止に役立つのではないかと思うのです。

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コメント (2)
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