ルノー会長、連合指揮官にならず 3社の立場を尊重、仏紙
仏ルノー、日産、並びに、三菱自動車による三社連合は、カルロス・ゴーンの元会長の逮捕劇を境に新たな統治体制へと変貌を遂げようとしています。こうした企業間の結合と分離の問題を、政治の世界における国家間の関係に当て嵌めてみますと、興味深い側面が見えてきます。
国家間の結合の一つの類型として、同君連合というものがあります。今日では、連邦制が最も一般的な形態となりましたが、かつては、複数の由来の異なる国が一つの国家を形成しようとする場合、統一国家の下部構成国となる諸国が同一の人物を共通の君主として戴くという方法が多用されていました。1603年のスコットランド国王ジェームズ6世のイングランド国王即位による両国の合邦も象徴的ながらも同君連合の事例でしたし、オーストリア・ハンガリー帝国も、同君連合と言えるでしょう。そして、近くは1910年の日本国による韓国併合も、日本国の天皇に対して韓国皇帝が統治権を移譲するとした韓国併合条約の文面を読みますと、天皇の下で国家が合邦される‘同君連合’の一種であったとも解されます。
君主が統治権をも直接に行使し得る場合には、‘同君連合’は、全ての構成国の統治権が上部に君臨する君主の手に集中することを意味しました。君主は、構成国を束ねる統合の要となるに留まらず政治的な権力をも手にしたのであり、統合と統治の二重の役割を担ったのです。かくして、‘同君連合’によって領土を拡げた君主は、国際社会においてその地位や権威を高めると共に、連動して拡大した財政を基盤として軍事力の強化や産業振興政策等にも邁進し得ることとなりました(もっとも、韓国併合の場合には、領域は拡大したものの財政基盤は強化されず、日本国側の持ち出しとなった…)。規模の拡大の観点からすれば、政経両面において競争が激しく、‘量’が圧倒的に物を言う時代には、特に対外的な側面において同君連合は規模のメリットを享受し得たのです。その一方で、同君連合にはデメリットもないわけではありません。
第1のデメリットは、連合国家全体を動かすためには、要に位置する一人の君主に統治権限を集中させる必要性が高いため、独裁化のリスクが高い点です。とりわけ同形態にあって独裁傾向が特に強まる理由は、君主が超越的な地位にある統合の象徴である以上、他の公的機関が牽制したり、国民がチェックすることが難しくなるからです。制度的なチェック・アンド・バランスが欠けた状態では、君主の暴走を止めたり、誤りを修正することができなくなります。
第2のデメリットは、個別の下部構成国の利害を越えた立場にある君主は、連合国家全体の利益を慮って政策を決定するため、一部の構成国が不利益を被るケースがあることです。下部構成国間の財政移転はその最たる事例ですが、全体的な戦略遂行の必要性から犠牲や損失を強要されたり、切り捨てられる下部構成国もないわけではないのです。また、中立・公平な立場にあるべき君主が、特定の下部構成国を贔屓にして優遇的な利益供与を図る場合には、構成国間の反目や対立感情が高まります。
第3に挙げられるのは、同君連合はあくまでも頂点における結合に過ぎず、下部構成国の国民の合意を得られない点です。この問題は、政治的には民主主義の欠落であり、住民の合意なき合邦となる同君連合が地球上から殆ど姿を消した主要な要因でもあります(アンドラのみが‘二君連合’であれ唯一この形態を残しており、英国でも、スコットランドが独立した場合、統治機構は切り離しつつも象徴的なレベルで同君連合を形成する案もあった…)。構成各国の国民にとりましては、民意とは無関係に政治的な決定が常に上から降りてきますので、
第4点としては、君主が権力を私物化した場合のリスクです。君主は下部構成国から超越的な地位にあるため、この地位に利己的で強欲な君主が就けば、全ての下部構成国は同君主による搾取の対象にされかねません。国費の私的流用や横領も日常茶飯事となり、上述した同君連合のメリットがもたらす利益も下部構成国やその国民には還元されないのです。
さらに、第5点として、権限集中によって君主の激務化がもたらされ、これによって行政の遅延が起こることが指摘できるかもしれません。オーストリア・ハンガリー二重帝国の最後の君主となったヨーゼフⅡ世は、国政・外交に関する決裁事案があまりにも多かったため、毎日、その就寝は午前2時に及んだそうです。しかも職務怠慢な君主や私事に熱心な君主が出現した場合、国家的損失や国民の不利益は計り知れないものともなりましょう。
以上に同君連合の主要なデメリット、及び、リスク挙げてみましたが、同君連合の君主の立場をルノー・日産・三菱自動車の三社連合におけるゴーン会長に当て嵌めますと、同連合がガバナンス改革に乗り出した理由も理解できます。つまり、三社の上部に共通のトップを置く統合形態は、そのメリットにも増してリスクが高過ぎるのです。三社連合は、当面はゴーン容疑者が座っていた‘君主’の椅子は空席とするそうですが、持ち株比率の変更如何に拘わらず、仮に今後とも連合を維持するならば、三社間の関係は各社の独立性を尊重するより対等な関係、即ち、同君連合から同盟へと変化するのではないでしょうか。
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仏ルノー、日産、並びに、三菱自動車による三社連合は、カルロス・ゴーンの元会長の逮捕劇を境に新たな統治体制へと変貌を遂げようとしています。こうした企業間の結合と分離の問題を、政治の世界における国家間の関係に当て嵌めてみますと、興味深い側面が見えてきます。
国家間の結合の一つの類型として、同君連合というものがあります。今日では、連邦制が最も一般的な形態となりましたが、かつては、複数の由来の異なる国が一つの国家を形成しようとする場合、統一国家の下部構成国となる諸国が同一の人物を共通の君主として戴くという方法が多用されていました。1603年のスコットランド国王ジェームズ6世のイングランド国王即位による両国の合邦も象徴的ながらも同君連合の事例でしたし、オーストリア・ハンガリー帝国も、同君連合と言えるでしょう。そして、近くは1910年の日本国による韓国併合も、日本国の天皇に対して韓国皇帝が統治権を移譲するとした韓国併合条約の文面を読みますと、天皇の下で国家が合邦される‘同君連合’の一種であったとも解されます。
君主が統治権をも直接に行使し得る場合には、‘同君連合’は、全ての構成国の統治権が上部に君臨する君主の手に集中することを意味しました。君主は、構成国を束ねる統合の要となるに留まらず政治的な権力をも手にしたのであり、統合と統治の二重の役割を担ったのです。かくして、‘同君連合’によって領土を拡げた君主は、国際社会においてその地位や権威を高めると共に、連動して拡大した財政を基盤として軍事力の強化や産業振興政策等にも邁進し得ることとなりました(もっとも、韓国併合の場合には、領域は拡大したものの財政基盤は強化されず、日本国側の持ち出しとなった…)。規模の拡大の観点からすれば、政経両面において競争が激しく、‘量’が圧倒的に物を言う時代には、特に対外的な側面において同君連合は規模のメリットを享受し得たのです。その一方で、同君連合にはデメリットもないわけではありません。
第1のデメリットは、連合国家全体を動かすためには、要に位置する一人の君主に統治権限を集中させる必要性が高いため、独裁化のリスクが高い点です。とりわけ同形態にあって独裁傾向が特に強まる理由は、君主が超越的な地位にある統合の象徴である以上、他の公的機関が牽制したり、国民がチェックすることが難しくなるからです。制度的なチェック・アンド・バランスが欠けた状態では、君主の暴走を止めたり、誤りを修正することができなくなります。
第2のデメリットは、個別の下部構成国の利害を越えた立場にある君主は、連合国家全体の利益を慮って政策を決定するため、一部の構成国が不利益を被るケースがあることです。下部構成国間の財政移転はその最たる事例ですが、全体的な戦略遂行の必要性から犠牲や損失を強要されたり、切り捨てられる下部構成国もないわけではないのです。また、中立・公平な立場にあるべき君主が、特定の下部構成国を贔屓にして優遇的な利益供与を図る場合には、構成国間の反目や対立感情が高まります。
第3に挙げられるのは、同君連合はあくまでも頂点における結合に過ぎず、下部構成国の国民の合意を得られない点です。この問題は、政治的には民主主義の欠落であり、住民の合意なき合邦となる同君連合が地球上から殆ど姿を消した主要な要因でもあります(アンドラのみが‘二君連合’であれ唯一この形態を残しており、英国でも、スコットランドが独立した場合、統治機構は切り離しつつも象徴的なレベルで同君連合を形成する案もあった…)。構成各国の国民にとりましては、民意とは無関係に政治的な決定が常に上から降りてきますので、
第4点としては、君主が権力を私物化した場合のリスクです。君主は下部構成国から超越的な地位にあるため、この地位に利己的で強欲な君主が就けば、全ての下部構成国は同君主による搾取の対象にされかねません。国費の私的流用や横領も日常茶飯事となり、上述した同君連合のメリットがもたらす利益も下部構成国やその国民には還元されないのです。
さらに、第5点として、権限集中によって君主の激務化がもたらされ、これによって行政の遅延が起こることが指摘できるかもしれません。オーストリア・ハンガリー二重帝国の最後の君主となったヨーゼフⅡ世は、国政・外交に関する決裁事案があまりにも多かったため、毎日、その就寝は午前2時に及んだそうです。しかも職務怠慢な君主や私事に熱心な君主が出現した場合、国家的損失や国民の不利益は計り知れないものともなりましょう。
以上に同君連合の主要なデメリット、及び、リスク挙げてみましたが、同君連合の君主の立場をルノー・日産・三菱自動車の三社連合におけるゴーン会長に当て嵌めますと、同連合がガバナンス改革に乗り出した理由も理解できます。つまり、三社の上部に共通のトップを置く統合形態は、そのメリットにも増してリスクが高過ぎるのです。三社連合は、当面はゴーン容疑者が座っていた‘君主’の椅子は空席とするそうですが、持ち株比率の変更如何に拘わらず、仮に今後とも連合を維持するならば、三社間の関係は各社の独立性を尊重するより対等な関係、即ち、同君連合から同盟へと変化するのではないでしょうか。
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