万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘徴用工訴訟’日韓局長級会談は法的解決への一歩前進?

2019年03月15日 13時25分18秒 | 日本政治
徴用工、外務局長会談が平行線 韓国、日本に回答示さず
 昨日3月14日、韓国の首都ソウルにおいて、‘徴用工訴訟’への対応をめぐって日本国外務省の金杉憲治アジア大洋州局長と韓国外務省の金容吉東北アジア局長による会談の場が設けられました。同会談の結果は平行線とのことですが、この会談、今後の展開を考慮すれば、法的解決への大きな一歩となったのではないかと思うのです。

 その理由は、韓国政府が‘徴用工訴訟’の問題について対日外交交渉の窓口となった時点で、文在寅大統領が主張してきた三権分立論が崩壊するからです。結果だけを見れば、両国とも事態のエスカレート化は望まない点では合意したものの、同会談では何も解決していません。日本国側が、被告となった日本企業に実害が生じないよう「適切な措置」の実施を求めた上で、日韓請求権協定に基づく協議に応じるよう要請する一方で、韓国側は、具体的対応については検討中と述べるに留め、返答を留保しています。

日本国側としては韓国側の回答待ちのペンディング状況となったのですが、ここで注目すべきは、韓国政府の立場です。三権分立を根拠とした‘政府は司法の決定に対して如何なる介入もなし得ない’とする従来の主張を頑なに貫けば、韓国政府は、(1)‘徴用工訴訟’に関する対日外交交渉の権限を日本企業に対して賠償を命じた韓国大法院に認め、自らを紛争の蚊帳の外に置く、あるいは、(2)韓国大法院から対日交渉権の委任を受ける、の何れかの立場を取らざるを得なくなります。

(1)を選択すれば、今日の国際法は外交交渉の権限を原則として国家の政府に認めておりますので、韓国は最早国家の体を為さなくなります。日韓請求権協定にあって、政府を行為者とする紛争解決手続きが明記されているのも、国際法の原則に従ったからに他なりません。従って、上述した韓国側の三権分立の手法がまかり通れば、日本国のみならず、他の諸国も、司法部門による事後的な無効、取消、並びに不履行等を怖れ、条約や協定の締結交渉に際して韓国政府を相手にはしなくなるでしょう。韓国側の手法では、三権分立は国権3分裂を意味するのです。

その一方で、(2)を選択すれば、韓国政府は外交交渉の権限を一先ずは確保できるものの、あくまでも大法院から委任された範囲でしか交渉を行うことができなくなります。大法院は、韓国政府に対して自らが下した判決を覆すような合意をなさぬよう、予め釘をさすものと推測されますので、韓国政府は、手足を縛られた状態で交渉に臨まざるを得なくなるのです。この状態では、日韓政府間交渉での解決の道は最初から閉ざされているに等しく、このケースでは、権力の暴走を抑える仕組みのはずの三権分立は、皮肉なことに司法独裁に帰結するのです。

幸いにして、韓国政府は、(1)も(2)も選択せず、韓国外務省が対日交渉の窓口となりました。このことは、今後、日本国政府が、日韓請求権協定の第3条に記された仲裁委員会、あるいは、その他の国際司法機関や仲裁裁判所等での解決を目指すに際して、韓国政府を相手に解決を要請し得ることを意味します。もはや韓国政府は、三権分立論を盾とした‘逃げの一手’を打つことはできず、国際紛争の矢面に立たざるを得なくなるのです。この意味において、今般の日韓局長級会談は、日本国政府にとりまして解決に向けての好材料となったのではないかと思うのです。

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