伊、一帯一路に正式参画 G7で初、中国と覚書
‘ローマは一日にしてならず’という有名な言葉があります。古代にあって北はブリテン島から南は北アフリカまで広大な領域を自らの版図に納めたローマ帝国も、一日で出来上がるわけではなく、数百年という長い年月をかけて構築されてきたことを言い表しており、偉大な構想も長期的なプロセスを要する時にその喩えとして使われてきました。そして、ローマ帝国の建設過程で費やした時間の長さ以上に驚かされるのは、その統治テクニックの巧みさです。こうしたローマ帝国が残した知の遺産からしますと、今日のイタリアは、ローマ帝国の末裔なのか、甚だ疑問に思うのです。
上述した諺の他にも、ローマ帝国由来の統治関連の諺や格言は少なくありません。特に知られているのが、‘全ての道はローマに通ず’です。前者は、ローマ帝国が全領域に張り巡らした道路網を意味しており、アッピア街道をはじめ、ローマ帝国では、首都ローマを起点として放射状に道路網が張り巡らされていました。現代にあっては、道路の敷設は生活関連並びに産業インフラの整備事業として理解されていますが、当時にあって最大の目的であったのは、軍隊の迅速な移動です。周辺諸国を軍事力で併合したローマは、遠方の国境地帯で反乱が起きた際に即応できるよう、大規模な軍隊が移動可能な堅固な道路を建設したのです。つまり、‘全ての道はローマに通ず’には、首都を中心道路敷設が帝国支配の道具として活用された歴史が含意されており、帝国の覇権主義を象徴しているとも言えます。
この諺に照らしますと、今般のイタリア政府による中国が主導する一帯一路構想への協力に関する覚書への署名は、自ら中国による‘全ての道は北京に通ず’戦略を呼び込むようなものです。ローマ帝国にあっても軍用道路は域内交易路としても機能したように、表向きの目的は広域的な通商網の建設であったとしても、それは、即、軍事目的に転用可能です。つまり、積極的に一帯一路構想に協力するとします、イタリアは、自国のみならず、同構想が予定している交通ネットワーク上に位置する全ての諸国の安全をも脅かすこととなるのです。
加えて、もう一つ、ローマの著名な統治テクニックを挙げるとしますと、それは、‘分割して統治せよ’です。周辺諸国を征服するにつれ、広大な被征服地を抱え込んだローマが恐れたのは、征服した諸国が秘かに結託してローマに立ち向かう事態でした。被征服地の反乱を防ぐための方策こそ分割統治であり、征服した諸国同士がローマを外す形で軍事同盟等を締結しないよう、予め楔を打っておいたのです。
分割統治の側面から見ましても、今般のイタリアと中国との間の協力の約束は、EU、並びに、自由主義諸国に打ち込まれた楔とも言えます。今般、G5の政府調達をめぐるファウエイ排除の問題でもEU構成国の間で不調和音が生じていますが、米中貿易戦争にあって苦境に立たされた中国は、自由主義諸国の切り崩しに躍起になっています。イタリアを引き込めば、EU、並びに、自由主義国の足並みが乱れ、結束が緩まってばらばらになれば、各国との直接交渉を以ってその全体を攻略できると中国は考えていることでしょう。まさに、ローマ帝国由来の分割統治の発想なのです。
イタリアが一帯一路構想に協力的となった理由は、独仏といったEU内大国の企業に経済を支配されつつある中小国の不満があるとされています(ターゲットとなる国の国内的な不満を吸収するのも外国攻略の常套手段…)。この事情は旧社会・共産主義諸国も同じなそうですが、反グローバリズムとナショナリズムを以って政権の座に就いたコンテ首相の下で、グローバリズムの旗手を自認する中国の経済パワーに靡き、かつ、自国に留まらずヨーロッパ全域の安全保障が脅かされるとしますと、本末転倒の事態とも言えましょう。そして、ローマ帝国の末裔であるはずのイタリアが、現代にあって、長期的な計画の下で中国が同帝国の統治テクニックを巧みに活用していることに気が付かなかったとしますと、あまりにも無防備であり、自国の歴史を忘れていると思うのです。
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‘ローマは一日にしてならず’という有名な言葉があります。古代にあって北はブリテン島から南は北アフリカまで広大な領域を自らの版図に納めたローマ帝国も、一日で出来上がるわけではなく、数百年という長い年月をかけて構築されてきたことを言い表しており、偉大な構想も長期的なプロセスを要する時にその喩えとして使われてきました。そして、ローマ帝国の建設過程で費やした時間の長さ以上に驚かされるのは、その統治テクニックの巧みさです。こうしたローマ帝国が残した知の遺産からしますと、今日のイタリアは、ローマ帝国の末裔なのか、甚だ疑問に思うのです。
上述した諺の他にも、ローマ帝国由来の統治関連の諺や格言は少なくありません。特に知られているのが、‘全ての道はローマに通ず’です。前者は、ローマ帝国が全領域に張り巡らした道路網を意味しており、アッピア街道をはじめ、ローマ帝国では、首都ローマを起点として放射状に道路網が張り巡らされていました。現代にあっては、道路の敷設は生活関連並びに産業インフラの整備事業として理解されていますが、当時にあって最大の目的であったのは、軍隊の迅速な移動です。周辺諸国を軍事力で併合したローマは、遠方の国境地帯で反乱が起きた際に即応できるよう、大規模な軍隊が移動可能な堅固な道路を建設したのです。つまり、‘全ての道はローマに通ず’には、首都を中心道路敷設が帝国支配の道具として活用された歴史が含意されており、帝国の覇権主義を象徴しているとも言えます。
この諺に照らしますと、今般のイタリア政府による中国が主導する一帯一路構想への協力に関する覚書への署名は、自ら中国による‘全ての道は北京に通ず’戦略を呼び込むようなものです。ローマ帝国にあっても軍用道路は域内交易路としても機能したように、表向きの目的は広域的な通商網の建設であったとしても、それは、即、軍事目的に転用可能です。つまり、積極的に一帯一路構想に協力するとします、イタリアは、自国のみならず、同構想が予定している交通ネットワーク上に位置する全ての諸国の安全をも脅かすこととなるのです。
加えて、もう一つ、ローマの著名な統治テクニックを挙げるとしますと、それは、‘分割して統治せよ’です。周辺諸国を征服するにつれ、広大な被征服地を抱え込んだローマが恐れたのは、征服した諸国が秘かに結託してローマに立ち向かう事態でした。被征服地の反乱を防ぐための方策こそ分割統治であり、征服した諸国同士がローマを外す形で軍事同盟等を締結しないよう、予め楔を打っておいたのです。
分割統治の側面から見ましても、今般のイタリアと中国との間の協力の約束は、EU、並びに、自由主義諸国に打ち込まれた楔とも言えます。今般、G5の政府調達をめぐるファウエイ排除の問題でもEU構成国の間で不調和音が生じていますが、米中貿易戦争にあって苦境に立たされた中国は、自由主義諸国の切り崩しに躍起になっています。イタリアを引き込めば、EU、並びに、自由主義国の足並みが乱れ、結束が緩まってばらばらになれば、各国との直接交渉を以ってその全体を攻略できると中国は考えていることでしょう。まさに、ローマ帝国由来の分割統治の発想なのです。
イタリアが一帯一路構想に協力的となった理由は、独仏といったEU内大国の企業に経済を支配されつつある中小国の不満があるとされています(ターゲットとなる国の国内的な不満を吸収するのも外国攻略の常套手段…)。この事情は旧社会・共産主義諸国も同じなそうですが、反グローバリズムとナショナリズムを以って政権の座に就いたコンテ首相の下で、グローバリズムの旗手を自認する中国の経済パワーに靡き、かつ、自国に留まらずヨーロッパ全域の安全保障が脅かされるとしますと、本末転倒の事態とも言えましょう。そして、ローマ帝国の末裔であるはずのイタリアが、現代にあって、長期的な計画の下で中国が同帝国の統治テクニックを巧みに活用していることに気が付かなかったとしますと、あまりにも無防備であり、自国の歴史を忘れていると思うのです。
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