万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

北朝鮮は自滅する?-食糧価格上昇問題

2019年03月31日 11時57分29秒 | 国際政治
北朝鮮で食糧価格が上昇か ロシアに支援要請の情報も
核・ミサイル開発をめぐり厳しい経済制裁下に置かれている北朝鮮では、食料価格の上昇が懸念されているそうです。食糧価格が上がる原因は、経済制裁のみならず、天候不順による作物の生育不良等が重なってのことなのですが、買占め行為も価格上昇の一因と報じられています。

 1948年に共産主義国家として建国された北朝鮮は、以来、経済分野にあって計画経済を実行し、食糧や衣料品等の生活必需品の供給も配給制度が採用されてきました。ソ連邦でも、凍てつく空気の中を国民はパンの配給を受けるために長蛇の列をなして時間を浪費していましたが、北緒戦もまた、営業の自由、職業選択の自由、ましてや消費の自由といった経済的自由は保障されておらず、国民は、ひたすらに政府からの配給を待つ受け身の立場であり続けたのです。北朝鮮の国民が極貧と飢餓に苦しみ、同国が最貧国となった最大の要因は、まさに経済システムの誤りにあります。

 しかしながら、近年、徹底した計画経済は、若干の緩和を見せています。一部であれ、市場経済のメカニズムが導入され、モノの価格も一先ずは市場で決定される方向へと転じました。今般の食糧価格の上昇も需要と供給のバランスの変化を反映させており、自然現象に起因する生産量の減少であれ、人為的な買い占めであれ、食料品関連の市場における供給不足が原因なのです。

 メディアは、経済制裁継続に対する不安による買い占めと説明されており、‘買占め’というよりも一般市民による‘買い貯め’のニュアンスで報じていますが、実情はどうなのでしょうか。消費税増税を前にして、日本国内でも駆け込み需要が増加しますので、北朝鮮の一般国民も食糧価格のさらなる上昇を予測して、食料品の買い込みに走っているのかもしれません。しかしながら、北朝鮮という国の国情からしますと、国民の生活苦をよそに人為的な買い占めを行っているのは、経済自由化に伴って利権や営業権を凡そ独占的に入手した金一族、あるいは、その取り巻きの特権階級である可能性も否定はできないように思えます。

計画経済から市場経済への改革に際して共産党員等の特権階級が変わり身早く‘労働者’から‘資本家’に変身する現象はソ連邦や中国でも観察されていますが、個人独裁国家である北朝鮮であれば、より極端な形でこの事業権の独占が起きていると推測されます。市場価格に影響を与える程の食料品の買い占め行為には、相当の資金力を要するのですから。供給不足を緩和するためにロシアに対して食糧10万トンの支援を要請したとする情報もあるそうですが、食品価格上昇に特権階級が関わっているとなりますと、身内に‘反対勢力’を抱え込んでいるようなものです。

 限定された範囲であれ市場経済化を図った北朝鮮では、会社法はおろか、競争法や消費者保護法といった各種法律の整備が十分なわけでもなく、むしろ、レッセフェール流の自由主義経済が内包する悪しき面が表面化し易い状況にあります。如何なる行為も自由なのですから、利益のためには国民生活が困窮しても構わないのです。その一方で、一般の北朝鮮国民は、強欲な‘事業者’による食品買占めによって生命をも脅かされるのですから、表立っては批判できないにせよ、政府に対する不満は鬱積してゆくはずです。そして日々高まりゆく国民の不満は、経済制裁継続という失政と相まって、やがて同国の体制崩壊へのカウントダウンの始まりともなりかねないのです。

 北朝鮮の現状は、共産主義の悪しき部分と資本主義の悪しき部分の両者を兼ね備えているかのようです(‘良いとこどり’の逆の‘悪いとこどり’…)。近い将来、これら二つの悪の相乗効果により同国に体制崩壊が起きるとすれば、それは、左右両方向から少数に権力や富を集中させる超利己主義体制の自滅とも言えましょう。人類が北朝鮮の崩壊から学ぶべき教訓は、決して少なくないように思うのです。

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コメント (3)
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