万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

イスラエルはゴラン高原を購入しては?-アメリカの主権承認問題

2019年03月29日 14時02分49秒 | アメリカ
ゴラン高原問題で米孤立=イスラエル主権承認「決議違反」―安保理
紀元1世紀のディアスポラ以来、流浪の民とされたユダヤ人は、クルド人やチベット人、そして、祖国を持つことができない他のあらゆる民族よりも遥かに幸運な人々です。1948年5月14日、シオニズム運動が実って遂に中東の地にユダヤ人の国家であるイスラエルを建国することができたのですから。

 それでは、凡そ2000年の時を経て、どのようにして中東の地にイスラエルは建国されたのでしょうか。イギリス政府の‘二枚舌外交’どころか‘三枚舌外交’が中東問題を拗らせた原因とされていますが、同問題の解決に当たって主要な役割を果たしたのは国連です(イギリス政府内部の分裂状態に起因しているとも…)。トルコ帝国の解体過程にあって同地を委任統治領として管理していたイギリス政府は、第二次世界大戦後に至り、その解決を国連に委ねたからです。かくして、国連総会における分離案の採択を以って、イスラエルの国名はユダヤ人国家として再び歴史にその名を記すこととなったのです。

 イスラエル建国に際して重要な点は、この時、同国と周辺諸国とを隔てる国境線が引かれていることです。言い換えますと、イスラエルの領域は建国と同時に法的に確定されたのであり、イスラエルに対する国家承認は同国の領域の承認でもありました。このため、イスラエルには、国連が定めた自国の国境線を維持する国際的な義務があり、本来、武力による変更は許されないはずでした。ところが、イスラエルは、国境を越えてパレスチナ側に入植地を拡げるのみならず、第3次中東戦争の最中に軍事力を以ってシリア領であったゴラン高原を占領したのであり、いわば、国際法にも国連憲章が定める規範にも反した行動をとったのです。

 この点に鑑みますと、今般、アメリカのトランプ政権がゴラン高原の主権をイスラエルに認めたことは、国際法上の違法行為の追認となりますので、国際法秩序にとりましては極めて危険な行為と言わざるを得ません。仮に、大国による主権承認を以って領有権が確立されるならば、他の諸国もこれを模倣する可能性があるからです。既にロシアはクルミアを一方的に併合していますが、軍事大国を自負する中国もまた、軍事力で占領した土地の‘自己承認’を以ってその領有の正当性を主張することでしょう。否、地球上の全ての国境線が流動化するといっても過言ではないのです。

 ここで考えるべきは、中東問題を国際法秩序を壊さずに平和裏に解決する方法です。中東とは、文明誕生の地であると共に、過去の歴史を遡りますと様々な国家が興亡を繰り返してきた紛争の地であります。また、長期に亘って奴隷制が敷かれていた歴史から人種や民族の混合も甚だしく、歴史的定住の事実に基づき、一民族一国家を原則として国境線を引くことが極めて難しい地域でもあるのです。このため、必ずしも1948年に国連が人工的に引いた国境線が‘適切’であるとは限らず、仮にイスラエルがこれに不満であるならば、武力に訴えるのではなく、国際法において認められた正当なる手続きを経て相手国との合意を模索すべきが筋となります。

 この観点からすれば、最初に試みるべき方法は、周辺諸国との領土をめぐる再交渉です。相手国側は自らの領地を無償で割譲する案には合意しないでしょうから、仮にゴラン高原の領有権を確立したいならば、イスラエルもまた、シリア側に何らかの‘見返り’を提供する必要があります。喩えは、同程度の面積をシリア側に割譲するのも一案ですが、最もユダヤ人らしいのは、‘お金による解決’なのではないでしょうか。ユダヤ人は拝金主義者として知られており、‘お金’があれば何でもできると信じているとされます。人の心までも買うことができると言い放つ傲慢さが批判の的となっていますが、ここはユダヤ人らしく、シリアに対して多額の購入費の支払いをもってゴラン高原の主権を譲ってもらうべきなのではないかと思うのです(ユダヤ人であれば、全世界の富豪から寄付を募ることもできる…)。この方法は、パレスチナとの間の入植地問題にも適用することができます。

アメリカによるアラスカ州のロシアからの購入のように、領土の売買は過去に前例がないわけではありません。ディーリングに長けたトランプ大統領がイスラエルと関係国との間の誠実なる仲介者の役を務めれば、同大統領は、中東に平和をもたらした偉大な政治家として後世に名を残すことにもなりましょう。シリアは内戦のただ中にあるため、実現性の乏しい案ではありますが、法に則った解決策もないわけではない、とする認識が生まれれば、中東問題も自ずと平和的解決の道が開かれるのではないかと思うのです。

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コメント (3)
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