新型コロナウイルスの全世界的な感染拡大を受けて、アメリカ政府は、「公衆衛生上の非常事態」を宣言し、過去14日以内に中国への渡航歴のある外国人を入国禁止とする方針を決定しました。同措置に対して、中国は‘薄情’であるとして反発を見せていますが(こうした措置が薄情であるのならば、中国政府による武漢封鎖は、なおさら‘薄情’なのでは…)、情報収集力に長けているアメリカの厳格な措置は、同ウイルスの脅威を物語っているとも言えましょう。その一方で、日本国政府の対応を見ますと、感染防止に万全を期しているとは思えません。
報道によりますと、日本国政府が入国を禁じているのは、「入国の申請日前、14日以内に湖北省の滞在歴がある外国人、または、湖北省発行の中国旅券を所持する外国人」です。この規定に従えば、日本国内の大学に留学していた中国人学生、あるいは、企業に勤めていた中国人社員等は、湖北省の出身者であれば、日本国には戻れないこととなります。新型コロナウイルス肺炎の発生地が湖北省に限定されているのであれば、この措置は、有効な水際対策となりましょう。
しかしながら、既に500万人が武漢市を離れて中国全土に散らばっているともされ、実際に、北京や上海といった中国屈指の大都市でも感染者が報告されています。加えて、春節は2月2日までに延期されたものの(もっとも、北京市当局は企業に対して2月10日からの業務再開を通知しているので、事実上、春節はこの日まで延長されている…)、帰省などで既に他所に移動していた人々は、2月初旬にはUターンの大移動を開始することでしょう。このことは、春節後にあって、湖北省以外での感染者数が急激に増加する可能性を示しています。日本国内での発症事例を見ましても、公共交通機関の利用には高い感染リスクが認められています。先日、バスの運転手さんとガイドさんの二人の感染が確認されましたが、おそらく同運転手が運転したバスに乗っていた武漢からの団体客の大半も既に発症していることでしょう。交通機関では、乗客乗員の全員が車内で同じ空気を吸わざるを得ないからです。閉鎖状態にある武漢は迂回したとしても、何億もの人々が、長時間の閉鎖空間となる交通機関を利用して移動するとなりますと、春節の終わりがさらなるアウトブレイクを引き起こすきっかけともなりかねないのです。
これまでのところ、中国政府は、訪日団体客については出国を禁じていますが、個人客やその他の留学生、駐在員、あるいは、日本企業が雇用する中国人社員等については同様の強制措置を採ってはいません。もっとも、日本国政府が派遣した邦人退避のためのチャーター機第3便では、中国政府が7人邦人の出国を足止めしたと報じられていますので、中国当局は独自の検査を実施して出国者を事前にふるい分けているのかもしれません。しかしながら、武漢空港以外ではこうした感染有無のチェックが行われている保証はなく、また、日本国側でも、中国からの入国者全員に対して厳格な検査を実施しているわけでもありません。無症状での人から人への感染が報告されてもいますので、春節明けには、日本国内での感染が拡大する怖れが高いのです。
春節後の感染拡大リスクを考慮しますと、湖北省に限定した日本国政府の入国禁止措置は十分とは言えず、その対象範囲を国レベルに広げる必要があるように思えます。そして、日本国政府が、アメリカと同様の措置を採るならば、入国禁止措置の公表と発効を同時にすべきかもしれません。武漢の封鎖令のケースでは、公表から施行までの間に8時間のタイムラグがあったため、その間に大量の武漢市民が市を脱出したとする指摘があります(この点、習近平主席の感染拡大阻止の呼びかけは無視されたことに…)。冒頭で述べたアメリカの入国措置もその発行時は2月2日午後5時なそうですので、この間、中国に帰省していた在米中国人、あるいは、感染の恐怖から海外に脱出したい中国人がアメリカを目指して我先に殺到するかもしれません。猶予期間を設けますと、‘駆け込み’によるリスクを高めますので、日本国政府は、この点は十分に留意すべきではないかと思うのです。