万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

新型コロナウイルスが国家を改変する?

2020年02月26日 13時24分35秒 | 国際政治

 日本国政府は、中国における新型コロナウイルスの発生を知りながら、中国人の入国禁止措置や適切な検疫ことを怠り、国内での感染拡大を許してしまいました。このため、高レベルで安定していた安倍政権の支持率も急落するに至ったのですが、日本国政府の中国に対する自己犠牲的な配慮もどこ吹く風で、中国では、日本国や韓国での感染者拡大を受けて同ウイルスの逆流を警戒し、両国からの全ての入国者に対して二週間の隔離措置をとる地方政府も現れています。

湖北省や浙江省等を除き、日本国政府が中国人の自由な出入国を許しながら、当の中国では自らが感染させた先の諸国からの入国に対して厳しい規制が課されるのですから、日本国政府も国民も、この措置には釈然としないことでしょう。もっとも、中国の自己中心的な思考傾向を考慮しますと、こうした不本意な顛末は十分に予測できたはずであり、中国に対して対日忖度を期待していたとすれば、それはお人よし過ぎるのかもしれません(真の意味で中国を理解していない…)。自国中心の中華思想が根強く残り、序列意識も強い中国では、忖度すべきは‘下の者’であって、‘上の者’は‘下の者’に如何なる犠牲を強いても構わないとする風潮が染みついているからです。不愉快な現実なのですが、この場に至っては、日本国政府も、全面的な中国人の入国禁止に踏み切るかもしれません。

中国が称賛する‘友情’の底の浅さが露呈する出来事ではあったものの、この一件から、新型コロナウイルスが国家の組織形態にもたらす影響も見えてきたように思えます。日本国からの渡航者に対して隔離措置を定めたのは、山東省の威海市です。1898年から1930年の返還までイギリスの租借地となり、同国海軍の管轄下に置かれていたそうです。今日では、日系企業も数多く進出しており、日中間にあって人の往来が頻繁です。海外の投資家も、同市の‘正常化’から中国経済の行方を予測しようとしており(貨物船入港の可否…)、国際的な注目度が高い都市でもあります。つまり、同市に対しては海外資本の影響も強いと推測されるのですが、ここで注目すべきは、新型コロナウイルスの対策について、中国では、一貫した国家的な政策が存在していな点です。

威海市による入国者に対する隔離措置は、本来であれば、入国管理に関する国家の権限に属しています。いわば主権的な権限なのですが、入国管理に限らず、外出規制や企業活動の再開といったその他の措置においても地方自治体ごとに違いがあるそうなのです。これまで、習近平国家主席への権力集中を強力に進めてきましたので意外な感じを受けるものの、今や中国では、中央集権から地方分権への急速な逆流が起きているかのようなのです。

その背景には、中国共産党の幹部まで感染したとする情報もあり、全人代の開催も延期されたぐらいですから、北京の中央政府が機能不全に陥っている可能性もありましょう。いち早く武漢に乗り込み、陣頭指揮を執るはずであった李克強首相の動向も、最近ではめっきり報道が少なくなりました。習主席の‘雲隠れ’もしばしば指摘されており、首都北京では異常事態が発生しているのかもしれません。それとも、初動の遅れ、人工ウイルス流出、感染者に対する冷酷な対応、あるいは、今後に予測されるさらなる惨事の責任を問われる事態を予測した習主席が、保身のために先手を打って地方への責任転嫁を試みたのでしょうか。何れにしましても、全国レベルの交通機関の遮断を伴った中国における封鎖措置は、国家分立・分裂の方向に作用しています。中央からの縛りが解かれたために独自の措置を講じる権限を得た威海市は、早期正常化を望む海外資本等の要望に応え、内外からの感染ルートを完全に遮断しようとしたのかもれしれません(より強硬な手段による早期の‘無感染地帯’の実現であり、日本人に対する隔離政策には他意はないかもしれない…)。

そして、新型コロナウイルスの感染を機とした地方自治体の権限拡大、あるいは、中央政府からの統治責任の移譲は、日本国においても見られるように思えます。先日、日本国政府は新型コロナウイルス対策の基本方針を決定しましたが、曖昧な表現が多く、期待されたほどには政策らしい政策もありませんでした。その一方で、感染者の対応や予防措置に関しては、現場となる地方自治体が奮闘しているとも言います。

日中両国が中央から地方への流れにおいて軌を一にしているのは、単なる偶然なのでしょうか。それとも、新型コロナウイルスの蔓延には、同方向性へと導く何らかの意図が隠されているのでしょうか。中国においても政権批判が高まっているそうですが、日本国においても、日本国政府の合理性と一貫性を欠いた不可解な行動が国民の不安を高めています。新型コロナウイルスは、経済や社会のみならず、今や国家の組織形態にまで変化を迫っているかのようなのです。そしてそれは、どのような権限配分が最も効果的に統治機能を発揮できるのか、という、国家の制度設計を問うとともに、将来のアジア諸国の姿をも変えてしまうように思ええるのです(中国各地には現代版の‘租界’が誕生?)。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする