万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

習主席国賓来日は無理では

2020年02月06日 11時19分52秒 | 国際政治

 中国では新型コロナウイルス肺炎による死者が500人を超え、感染者数も増加の一途を辿っています。全国各地の都市が封鎖されるという非常事態にありながら、中国政府は、4月に予定されている習近平国家主席の国賓待遇による来日については予定を変更するつもりはないようです。しかしながら、日中双方の現状からしますと、同訪日、やはり無理なのではないかと思うのです。

 まずは、中国側の事情から見てゆくことにしましょう。新型コロナウイルスの初期対応の不備は、習国家主席を指導者として仰ぐ個人独裁体制に綻びをもたらしており、同主席が誤りを認めるという異例の事態に発展しています。神格化を以って全国民の前に君臨してきたさしもの習主席も、今般の感染症の拡大により‘化けの皮’が剥がれてしまった感があります。全ての行動が裏目に出ており(もしかしますと、今般の感染拡大を国民監視体制の強化に利用したかったかもしれない…)、今では、失敗は部下に責任をなすりつけ、手柄は横取りしようとし、いざという時には頼りにならず、自らのメンツのためには他者を犠牲にする、悪しき指導者の典型として、国民の目には映っていることでしょう。

国賓訪日を是非とも実現したい習主席の思惑は、日本国を国賓待遇で訪問して熱烈な大歓迎を受け、経済面でも一帯一路構想、否、中華経済圏への参加の‘約束’を取り付けることで、新型コロナウイルス問題で失った権威を取り戻りもどすことにあると推測されます。大国の指導者として歓待され、笑顔を振りまきながら日本国民と交流する姿が全国に報じられれば、中国の一般国民は、巧みな外交力に習主席を見直すかもしれません。失地回復の千載一遇のチャンスなのですから、感染病が発生したからこそ、逆に日本国を訪問するインセンティヴが高まったともいえましょう。
 
しかしながら、常に自分を中心にしか物事を見ることができない独裁者にありがちな失敗を、ここでも習主席は繰り返すように思えます。民意を読み誤るという…。一般の中国国民の多くが新型コロナウイルスの脅威の前に不安な日々を過ごし、生活物資さえ十分に手に入れることができず、不満が鬱積している状況にあります。たとえ日本国側からの招待であったとしても、習主席の訪日は、国のトップが苦しむ国民を放っておいて外国で‘遊んでいる’とする印象は拭えません。習主席の人心掌握の作戦は裏目に出て、主席自身、さらには一党独裁体制に対する批判が一層高まることも予想されるのです。同リスクを側近等が習主席に忠言し、その意味を習主席が理解するとすれば、自己保身のために同主席は今春の訪日は諦めることでしょう。

それでは、日本国側には、習主席訪日中止にどのような理由があるのでしょうか。もとより日本国民には、チベットやウイグル等、並びに、ITにより国民徹底監視体制を敷いている人権侵害国家、中国という国そのものに対する強い反感があります。自由、民主主義、法の支配といった価値観を共有しておらず、国賓として来日したとしても、心から習主席を歓迎する日本国民は僅かに過ぎないことでしょう。そして、数千人規模の大訪日団を率いるとされる同主席の訪日は、新型コロナウイルスの日本国内における感染拡大のリスクを高めることは言うまでもないことです。

その一方で、日本国政府は、中国側と同様に、渋々中止に追い込まれる立場にあります。おそらく、日本国政府が、中国からの全ての渡航者に対して入国措置に踏み切れない理由は、この措置を採った途端、習主席の訪日が泡と消えるからなのでしょう。特に中国との関係の深い自民党の二階幹事長や連立相手の公明党といった媚中派は、日本国民を犠牲にしても習主席の訪日を実現させたいはずです。しかしながら、国民の命と健康を最優先にして護るのは、誰もが認める第一義的とも言える政府の責務です。今般の局面では、日本国政府は日本国民から、‘日本国をとるのか、中国をとるのか’試されているとも言えましょう。一部の親中派の利益のために、仮に日本国政府が媚中派の圧力に屈して中国を選んだとすれば、日本国政府もまた中国の習政権と運命を共にし、国民からの信頼を失うこととなりましょう。

日中両政府が直面している状況を考慮しますと、今春にあって習主席の訪日が実現する可能性は極めて低いのではないでしょうか。既に中国側からも延期の声が上がっているようですが、新コロナウイルス肺炎の蔓延が中国の国家体制を揺さぶる中、少なくとも一党独裁体制が維持されている間にあっては、中国から国賓待遇で国家主席を招待すべきではないように思えます。そもそも、中国は、人の道徳や倫理観を麻痺させて非人道的な行動に走らせてしまう、共産主義という精神の重い病を患っているのですから。


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