今月19日に発表された観光庁の統計によると、1月に訪日した中国人の数は92万4800を数え、一月としては過去最高を記録したそうです。中国が海外への団体旅行を禁じた1月27日には既に感染者2744人、死者80人を記録し、爆発的な感染拡大が起きています。日本国内にも感染者が多数滞在していた可能性は高く、感染経路がはっきりしないケースは中国人訪日客からの感染なのかもしれません。
ダイヤモンド・プリンセス号については、船籍はイギリス、運航会社はアメリカ、乗客乗員の国籍は日本国籍を最多としながらもまちまち、そして、停泊地は日本国の横浜であり、強い国際性を特色としています。複数の国家が関わるため、検疫や感染防止措置といった行政権は日本国が及ぼしつつも、管轄権や乗客・乗員の保護責任についてはスポットが生じ、不十分、かつ、一貫性のない対応の一因とも指摘されてきました。そこで日本国政府は、目下、国際社会においてクルーズ船における感染病に際しての国際ルール作りを訴えているのですが、国際ルール作りの必要性は、クルーズ船に限られたことではないように思えます。
それでは、どのような問題があるのかと申しますと、それは、外国人感染者の保護責任の所在です。日本国では、新型コロナウイルスは指定感染病として位置づけられましたので、国籍に関係なく、日本国内での感染者の治療には国費が支出されます。同措置により、無償となる日本国での治療を目的とした中国人感染者の訪日増加も懸念されているのですが、日本国政府は中国からの渡航を全面的に禁じておらず、かつ、中国も、現段階では団体客の出国は禁じたものの、個人やビジネス関連の訪日を止めてはいません。このため、将来にわたり無症候性の感染者が来日しないとも限らず、日本国民の不安と不満を高めているのです。感染リスクが格段に高まるのみならず財政負担も強いられますし、仮に、今後、日本人の感染者が増加した場合、中国人感染者の治療が優先されて、一般の日本人が十分な医療を受けられなくなる可能性もあるからです。
そして、この不安を一層募らせるのが、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客に対する中国の対応です。詳細は公表されていませんが、同船の乗客の国籍は全世界に分散しており、中国人の乗客も少なくなかったはずです。運航会社としても、アジアを周遊する同船は、経済成長著しい中国の富裕層をもターゲットにしていたことでしょう。ところが、アメリカ、イギリス、オーストラリアといった諸国は、自国の国籍を有する乗客を退避させるべくチャーター機を派遣しましたが、中国からは何らの音沙汰もないのです。
こうした中国の冷たい態度から予測されるのは、来日中国人が発病した場合、その治療や費用の負担はすべで日本国に押し付け、自国民を自国に引き取ることはしないのではないか、ということです。指定感染病の認定も受けていますし、日本国政府もマスコミも、この点については何らの疑問も呈していません。実際に、ダイヤモンド・プリンセス号から下船した乗客についても、日本人○○名を含む▽△人とされており、日本人以外の下船客の国籍は不明なのです。それでは、一体、この国籍不明の外国人下船客の人々は、船を後にしてどこへ向かったのでしょうか。一部の人々は自らの国籍国に帰国したのでしょうが、中国人であった場合、日本国政府が用意した宿泊施設、もしくは、日本国内の親族を頼って日本国内に滞在している可能性も否定はできないのです(日本国政府は、全ての下船客の行動をトレースしているのでしょうか…)。
こうした状況を踏まえますと、日本国政府は、国際的な封じ込めを要する感染病に関しては、発病した国の健康保険制度の加入者ではない限り、国籍国が治療、並びに、費用負担において第一義的な責任を負う属人主義を基本的な国際ルールとすべく国際社会に提起すべきように思われます。属人主義を原則としませんと、むしろ、感染者は、全ての国から入国や滞在が拒絶され、行き場を失うかもしれません。また、送り出し国も、感染の疑いのある自国民を野放図に海外に出国させるといった無責任な行動も控えるようになりましょう。仮に、重症化のために国籍国への移送が困難な場合には、後日、治療国政府が国籍国政府に対して費用請求ができるよう、請求権を認めることも肝要です。つまり、外国人感染者は基本的には国籍国に移送され、仮に、発症国で治療を受ける場合には、その負担は、国籍国が負うというものです。
もっとも、現状でも、日本国政府は、中国政府等に対して請求権を失ったわけではないかもしれません。指定感染病として認定され、国費による治療が定められたとしても、それは、治療費の不払いによる医療機関等の受け入れ拒否を回避するために採られた措置であり、日本国政府に義務が生じるとはいえ、この法律によって外国の政府の自国民保護義務が免除されたわけではないからです。何れにしましても、日本国政府は中国の顔色ばかりを窺って日本国民を犠牲にしがちですが、中国に対して面と向かって物申すことができないならば、せめて国際ルールとして感染者国籍負担の原則を確立すべきではないかと思うのです。