新型コロナウイルスの感染者が確認されたため、ダイヤモンド・プリンセス号は横浜港に停泊したまま、乗客乗員共に同船内に閉じ込められた状態にあります。乗客乗員凡そ3700人の内、これまでのところ336人の検疫が実施され、70人もの多数の感染者が発生しています。その一方で、日本国政府は、既に症状が現れていたり、不調を訴えているなど、感染リスクの高い336人に対しては検査を行いましたが、それ以外の他の3000余名の全員の検疫は事実上不可能と説明しているため(そもそも、3000人程度で検査不能であれば、武漢レベルの事態となれば、日本国政府はお手上げになるのでは…)、無検査での上陸による感染拡大のリスクが高まっています。国際的にも関心が高く、WHOなども情報やデータ収集に強い関心を示しているようですが、感染リスクを最小限に抑えるような策は存在するのでしょうか。
ダイヤモンド・プリンセス号は、日本国の三菱重工が建造した豪華客船であり(建造中に数度の火災に遭っている…)、かつ、現在の停泊地が横浜港であることから、同船舶は、‘日本の船’というイメージがあります。しかしながら、同船について調べてみますと、三菱重工に発注し、現在同船を保有・運営しているのは、P&O(the Peninsular and Oriental Steam Navigation Company)というイギリスの名門船舶会社です。1837年にイベリア半島の諸国、すなわち、スペイン並びにポルトガルとロンドンとを結ぶ海運事業から始まり、創業以来の主たる収益源は英国海軍省などを顧客とする郵便の輸送でした。その一方で、様々な事業に手を広げ、アヘン戦争後には中国とのアヘン貿易にも加わり、レジャー・クルーズ事業の先駆けとなったのも同社です。2000年にP&Oがリストラを実施した際に、クルーズ部門はアメリカのマイアミとイギリスのロンドンに本社を置くCarnival Corporation & plcに売却されましたが、同船の船籍はイギリスのままです。つまり、ダイアモンド・プリンセス号には同国の主権が及ぶと共に、乗客・上院に対する事業者としての企業責任は英米二元上場会社であり、世界最大のクルーズ客船の運航会社であるCarnival Corporation & plcあるのです。
ダイヤモンド・プリンセス号がイギリス船籍であり、事業者が海外の民間船舶会社となりますと、同船の問題は、乗客の国籍が日本、アメリカ、中国といった複数に及ぶことに加え、関与する政府も複数となりますので、俄かに国際問題の様相を呈してきます。船籍国と実態との乖離が指摘されてはいるものの、国際法においては船舶内の空間は船籍国の‘領域’と見なされますので、イギリス政府も当事国の一国となり、また、Carnival Corporation & plcは、英米ダブル国籍の企業であるため、アメリカ政府の監督権も及ぶからです。加えて、乗客の国籍国もまた、自国民保護のために関与することでしょう(中国人乗客が最多なのでは…)。言い換えますと、同船の停泊地である日本国政府は(日本国の領域主権が及ぶ…)、イギリス政府をはじめ各国政府、並びに、事業主であるP&Oと協力して解決にあたる立場にあるのです。それでは、どのような解決方法が考えられるのでしょうか。
新型コロナウイルスについては不明な点が多く、無検査で下船させますと、無自覚の内にウイルスをまき散らしてしまう無症候性キャリアを見逃してしまう可能性があります。また、一旦完治したように見えても、ウイルスが体内に潜伏するリスクもあり、長期的な影響を含めた同ウイルスの有害性を完全に把握するにはもうしばらく時間を要します。この間、全てのダイヤモンド・プリンセス号の乗員・乗客を船内に留めておくという方法もありましょうが、空調等によってさらに感染者が増加する恐れもありますし、精神的なストレスによる二次的な健康被害も想定されます。となりますと、‘何処の場所に、感染リスクゼロの体制で下船させるのか’という問題になるのですが、船舶であるために移動が容易であり、かつ、同問題が国際性を有する点が選択肢を広げる可能性もあります。
例えば、幾つかを挙げてみますと、(1)英連邦の一国であり、かつ、P&Oが運営している航路の寄港地でもあるオーストラリアとイギリスの関係を生かし、まずは、オーストラリア政府が隔離地としているクリスマス島に全員上陸してもらう、(2)ダイヤモンド・プリンセス号が乗員・乗客の国籍国をまわり、それぞれの国の港に送り届ける、(3)P&Oに協力を要請し、同社が保有する他の船舶内に隔離施設を設置した上で、これらの船舶で乗客・乗員をそれぞれの国籍国に移送する、(4)乗員・乗客の国籍国に帰国支援を要請し、横浜港に向けてチャーター船(小型ジェット機やヘリコプター等も空輸も可…)を派遣してもらう…などです。
上記の案の他にもアイディアはありそうなのですが、日本国内での新型コロナウイルスの感染拡大を水際で防ぐべく、各国政府の国民に対する責任が重なる問題であるからこそ、国際協力という手法も試みてみるべきではないかと思うのです。