万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

第三次世界大戦を回避するには?―ウクライナのNATO加盟問題

2022年03月03日 15時06分30秒 | 国際政治

 ウクライナ危機をめぐっては、第三次世界大戦を誘発する懸念が現実味を帯びております。しかも、ロシアのラブロフ外相の発言によれば、来るべき第三次世界大戦は核戦争にならざるを得ないそうです。人類は滅亡の危機に瀕することとなるのですが、今般のロシアによるウクライナ侵攻が引き金となって全世界が第三次世界大戦に巻き込まれる事態だけは、誰もが、何としても避けたいはずです。それでは、第三次世界大戦を回避する道は存在しているのでしょうか。

 

 ロシア側のウクライナ、あるいは、西側に対する最大にして核心的な要求とは、ウクライナの非武装化です。具体的には、NATOの非加盟を法的に保障するということのようですが、この要求、必ずしも拒絶すべきものではないように思えます。ロシアの武力による一方的な現状の変更は国際法違反の行為であり、問題の解決方法としては厳しく糾弾され、制裁を受けるべきは当然のことです。しかしながら、その一方で、冷戦崩壊後の安全保障体制の来し方を振り返りますと、NATOの東方拡大政策が適切であったのか、と申しますと、そうとも言い切れないように思えるからです。

 

 1989年に始まる東欧革命はドミノ倒しに中東欧諸国の社会・共産主義体制を崩壊に導き、東側ブロックの盟主であったソ連邦も、1991年には遂に地上から姿を消しました。1989年12月には、マルタ島で開催された米ソ両首脳会談において、冷戦の終焉が宣言されています。このため、この時期を以って二つの超国家が角を突き合わせる冷戦構造は崩壊し、多くの人々が、新たなる時代、すなわち、ポスト冷戦の時代に入ったと認識するに至ったのです。

 

 その後、アメリカにおける同時多発テロの発生により、テロとの戦いが冷戦とポスト冷戦との相違を際立たせることになりましたが、国際社会全体における安全保障体制を見ますと、冷戦期とはさして違いがないことに気付かされます。結局は、NATOは、ロシアを仮想敵国と見なすことを止めませんでした。そして、中東欧諸国への積極的なNATOの拡大こそ、水面下にあって冷戦が継続されていた証と言えるかもしれません。冷戦崩壊は、全く新しい国際秩序を人類にもたらしたのではなく、西側陣営の東方拡大を帰結したとも言えましょう。アメリカを盟主とする西側ブロックにとりまして、ソ連邦の崩壊は、自らの陣営が’闘わずして勝った’という輝かし功績に過ぎなかったのかもしれません。

 

 そして、この冷戦構造の連続性は、今日なおも問われるべき問題を提起しています。それは、少数の超大国(今日では中国も含まれる…)とその軍事同盟国から成るブロック対立構造からの脱却という問題です。ウクライナのNATO加盟が、冷戦構造の延長線上にあるならば、この方針の転換は、必ずしも人類にとりまして’悪い選択’とは断言できないようにも思えます。

 

 ウクライナのNATO加盟については、NATOの現加盟国にあっても二の足を踏む向きもありますが、その理由は、おそらく、ポスト冷戦後における冷戦構造のさらなる拡大・強化が、北大西洋条約が約する集団的自衛権の発動により第三次世界大戦に参戦せざるを得なくなるリスクを高めているという意識によるものなのでしょう。東方に向けてメンバーが広がれば広がるほど、ウクライナといった地理的に遠方にある殆どの国民にとって’身も知らない国’のために、自国の軍隊が闘う事態に陥ってしまうのです。冷戦の終焉後のNATO加盟諸国は、この意味において、冷戦期よりもさらに第三次世界大戦に巻き込まれやすい状況下に置かれているとも言えましょう。

 

 以上にポスト冷戦後の安全保障体制について述べてきましたが、主権平等の原則の下で法の支配が行き届くより善き国際秩序を構築するという人類的な課題に照らしますと、西側諸国が、ウクライナのNATO加盟にあくまでも固執する必要はないようにも思えてきます。’押してダメなら引いてみる’という言葉がありますが、ウクライナのNATO加盟の断念は、それがロシアの要求を受け入れるという形となるにしても、未来に向けた方向性としては検討に値するのではないでしょうか。


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