ウクライナ危機は、ロシアが世界屈指の石油・天然ガスの産出国故に、地理的に離れている日本国に対しても、深刻なエネルギー問題を突き付けることとなりました。エネルギー自給率が著しく低い現状にあって、エネルギー資源の国際価格が上昇すれば、一般家庭の家計や企業経営を圧迫しますし、貿易収支の一層の悪化も懸念されます。それでは、ウクライナ危機がもたらすエネルギー危機に対して、日本国は、どのように対応すべきなのでしょうか。先の福島県沖地震では、頼みの火力発電所も故障事故を起こし、電力供給不足から広域的な停電をも招いています。今日、国際情勢であれ、脱炭素であれ、資源の枯渇であれ、エネルギー政策は、ポスト・ウクライナ危機の時代をも見据えた重要課題となりつつあります。
今般のエネルギー危機への即応という側面では、たとえ反・脱原発論者からの強い反対はあったとしても(加えて、ロシアがウクライナの原子力発電施設を攻撃・占領したことから、有事における原発リスクから反対する声も…)、現在、発電停止状態にある原子炉の再稼働の促進が、最も速効性の高い対策であることは論を俟たないかもしれません。発電施設を眠らせているよりも、原子力規制委員会による安全性の確認を急ぎ、再稼働させれば、当面のエネルギー危機は大幅に緩和されます。一方、中長期的な方針としては、アメリカも既に高速炉の開発に乗り出しているように、より安全性が高く、かつ、発電効率や資源の有効利用に資する新たな原子力技術の開発も(核融合技術も含めて…)、日本国のエネルギーの安価かつ安定的な供給、並びに、エネルギー自給率の向上に繋がることでしょう。
原子力の利用が有力視される一方で、 折しも、ウクライナ危機以前から、世界の潮流は脱炭素へと急激に流れています。この文脈にあっても原子力の利用は提唱されてはいますが、その主流として期待されているのは、再生エネルギーの普及拡大です。日本国の基本的な方針も、メガ・ソーラや風力発電所のといったさらなる再生エネルギー施設の建設促進なのでしょう。しかしながら、これらの発電方法には、以下のような問題点があるそうです。
第一に、火力発電がエネルギー資源の調達に伴う脆弱性を有すると同様に、太陽光発電や風力発電にも、輸入だよりという問題があります。しかも太陽光発電パネルにはレアアースも使われていますので、価格競争における中国系企業の絶対的な優位性に加え、原材料における中国の’独占’により、中国依存を余儀なくされます。風力発電の分野においても、国際市場にあっては凡そ中国系企業並びに欧米系企業によって世界市場のシェアが占められておりますので、同分野にあっても海外依存体質が深まる一方となります。発電地は国内ですのでエネルギー自給率が上がるようにも見えるのですが、その実、海外依存性においては化石燃料による発電と変わりはないのです。
第二に、太陽光発電も風力発電も、輸入依存度が高いという問題点に加えて、天候依存というもう一つの欠点があります。前者では、曇り空や雨空では発電量が減少しますし、既に問題視されているように、台風の来襲や暴風雨といった状態になりますと、設置パネルが吹き飛んだり、施設そのものが土砂崩れや河川の氾濫などで崩壊するリスクもあります。後者の場合には、風が吹かなければ発電量がゼロとなるのは言うまでもありません…。
そして、第三の問題点として挙げられるのは、太陽光発電や風力発電の耐用年数です。火力発電所の場合、老朽化が懸念されているとはいえ、現在、35年を超えて稼働している施設が全体の4割に上るそうです(東京電力)。また、原子力発電所の場合には、耐久年数は40年とされております。もっとも、アメリカでは、原子力発電所の9割以上が60年運転許可を行使済みとされており(80年運転許可を得た施設も…)、設備としては物理的に長期運転に耐えられるようです。その一方で、太陽光発電も風力発電も、その耐用年数は、凡そ20年とされております。言い換えますと、長期的な視点からしますと、後者の方が建て替えコストがかかる上に、処理費用を要する大量の産業廃棄物が生じるかもしれません(太陽光パネルなど…)。
以上の諸点を考慮しますと、太陽光発電も風力発電も、日本国の主力電源には適さないように思えます。原子力については上述したように新型の原子炉やイノベーティブな技術の開発に努めるべきでしょうが、再生エネルギーに関しても、最低限(1)低い輸入依存性(2)低い天候依存性、(3)長い耐用年数、の三つの条件を満たす必要があるように思えます。例えば、日本列島は複数の火山帯を抱えていますので、地熱発電の方が永続的な安定供給源となりましょうし、四方を海に囲まれていますので、潮の満ち引きを利用した潮力発電なども有力候補となりましょう。日本国政府は、自国に適した’持続可能’な電源の開発・実用化にこそ取り組むべきなのではないかと思うのです。同方向性に向けた努力は、技術立国としての日本国の復活への道を開くかもしれません。そして、エネルギー自給率の向上は、延いては日本国の政治的立場をも高めるのではないかと思うのです。