万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

人工地震デマ説の真偽-環境改変技術敵対的使用禁止条約の存在

2022年03月21日 12時27分12秒 | 国際政治

 先日、3月16日に発生した福島県沖を震源地とする地震については、ネットやSNSでは人工地震説が飛び交っているそうです。翌日の17日には、NHKが専門家の言葉を借りる形で人工地震説を否定しており、メディア、あるいは、政府が同説の流布を何としても抑えようとする姿勢が窺えます。本日も、ネットにあって「人工地震を信じる人々が映す「陰謀論」の深刻な浸透、「情報の民主化」は「偽情報の民主化」でもある」とする記事を発見いたしました(東洋経済オンライン)。

 

 同記事では、今般の人工地震説をテーマとしながらも、「陰謀説」を容易に信じてしまう人々の心理的な傾向一般が分析されています。この傾向を端的に表すならば、同記事において引用されている認知科学者であるダニエル・C.・デネットの「行為主体を過敏に発見しようとする習慣の、想像上の産物である」という説明が分かりやすいかもしれません(「行為主体を敏感に検出する装置」という言葉を最初に使ったのは、心理学者のジャスティン・L・バレットであったという…)。すなわち、単なる自然現象であっても行為者を見つけ出そうとする人類の性向は、環境の変化に対応しようとする生存戦略の結果であり、今日なおも、それが「陰謀論」が蔓延る一因となっているというのです。

 

 人々の一般的な心理として’犯人捜し’をしてしまうという側面は確かにその通りなのかもしれないのですが、この心理学的傾向の指摘を以って人工地震説、並びに、その他の「陰謀説」をデマと決めつけることができるのか、と申しますと、それは相当に難しいように思えます。何故ならば、地震の発生が人為的なのか、あるいは、自然なのか、という問いは、科学的な事実の証明の問題となるからです。言い換えますと、たとえ人には行為主体を探す傾向が備わっていたとしても、そのこと自体は、具体的な現象に対して行為主体の存在の有無を科学的には証明しないのです。

 

 このように考えますと、今般の人工地震説についても、心理学、あるいは、認知科学における説を以ってデマやフェイクと決めつけることはできないように思えます。それどころか、国際法の分野に目を向けますと、人工地震説が荒唐無稽な「陰謀説」とは言い切れないことに気付かされます。何故ならば、今日、「環境改変技術敵対的使用禁止条約」という条約が既に制定されているからです。

 

 同条約は、1976年12月に国連第31回総会で採択され、日本国も、1982年6月に加入しています。ロシアをはじめ、アメリカ、そして、中国も締約国です(冷戦の最中に米ソが提唱…)。同条約の第1条は、「…締約国は、破壊、損害又は障害を引き起こす手段として広範な、長期的な又は深刻な効果をもたらすような環境改変技術の軍事的使用やその他の敵対的使用を行わないことを約束する」とあり、同第2条では、同技術を「自然の作用を意図的に操作することにより地球(生物相、岩石圏、水圏及び気圏を含む)又は宇宙空間の構造、組成又は運動に変更を加える技術」と定義しています。すなわち、人工地震装置や気象兵器等の使用など、自然現象を装った敵対的行為一般は、国際法を以って禁止されているのです。

 

 そして、この条約こそ、現実に環境改変技術が存在していることを強く示唆しております。日本国内では、人工的に地震を起こすようなテクノロジーなどはSFの世界のお話のようにみなされがちですが、国際社会では、こうした技術は、破壊リスクの極めて高い既存の技術として扱われていると言えましょう。存在していない技術に対して禁止条約を造り、多数の諸国が加盟するとは考えられないからです。

 

 国際社会の現実、並びに、今日のテクノロジーのレベルを考慮しますと、人工地震説は頭から’デマ’として否定することはできないように思えます。否、その可能性がある以上、日本国政府は、国民の命を護るためにこそ、自国で発生した疑わしい地震について厳正かつ詳細な科学的調査を実施するべきなのではないでしょうか。条約違反が疑われる場合には、同条約第5条に基づいて国連安保理に苦情を申し立てることができますので、仮に同技術が何れかの国、あるいは、組織によって使用されていた場合には、国際社会に訴える道も用意されています。

 

これまでにも政府やメディアが’デマ’と断定しながら、後々、事実であることが判明した事例も少なくありません(コロナワクチンの有害性もその一つ…)。陰謀説の信憑性が増す今日にあっては、デマとして退けるほうが余程怪しく、かつ、国民にとりましてはリスクが高いように思えるのです。


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