万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の対ロ軍事支援問題-IT兵器戦争に発展する?

2022年03月15日 15時44分14秒 | 国際政治

 ロシアによる対中軍事支援につて、目下、アメリカ、ロシア、そして中国の間で激しい情報戦が闘われているようです。アメリカのメディア各社が、ロシアが中国に対して軍事支援を要請したと報じる一方で、当事者であるロシアと中国は、共に同支援要請を否定しているからです。

 

 同情報の真偽は別としても、ロシア側が支援要請を事実として認めない理由ははっきりしています。仮に、ロシアが中国の援軍を求めているとすれば、それは、ウクライナでの戦争にあって劣勢であることを認めたに等しくなるからです。ロシアとウクライナとでは軍事力に凡そ10倍の差があり、軍事テクノロジーにおいても前者が後者を圧倒しているとされているものの、いざ戦争となれば、軍事大国であるはずのロシアでさえ、自国一国ではウクライナを制圧できない実態が白日の下となるのです。ロシアのペスコフ大統領報道官は、支援要請の事実はないと否定した上で、「ロシアは自前で作戦を継続する能力を有している」と述べたと報じられています(インタファクス通信)。

 

 軍事支援の必要性という側面からしますと、現時点にあっては、ロシアが他国に援軍を要するまで追い詰められているとは思えないのですが、アメリカのメディアによりますと、支援の内容にはドローンなども含まれているとされていますので、戦術核兵器を含む核兵器や生物化学兵器等の使用への批判を恐れ、ロシアが保有していない最新IT兵器の提供を求めたのかもしれません(AIを搭載したロボット兵士もあり得る…)。中国からしますと、自らが密かに開発してきた新兵器を実戦で使用し、ウクライナを自国の新兵器の実験場にすることができます。アメリカを凌ぐ軍事大国の地位を狙う中国にとりましては、軍事テクノロジーにおいて一歩先んじる絶好のチャンスとなり得るのです。

 

 中国製IT兵器の投入により、米中間の軍事バランスが中国に大きく傾くきっかけになり得ることも、アメリカが、中国によるロシア支援に対して強く牽制する理由の一つとも推測されます。中国のIT兵器にはアメリカ発の技術が広く転用されていますが、自由主義国では、倫理的な拘束もあって非人道的な兵器の開発は抑制されています(ロボット兵士には兵士と民間人、並びに、大人と子供の識別もできない…)。こうした状況下にあってウクライナの戦闘地域にIT兵器が使用されれば、ウクライナは一気に制圧されてしまうかもしれません

 

もっとも、今日、民間のグローバル企業がウクライナを積極的に支援している点を考慮しますと、欧米系の民間IT大手が自社製の最新鋭の兵器を開発・製造し、ウクライナに提供する可能性もありましょう。ロシアのみならず、ウクライナ側もIT兵器を投入するとなれば(なお、ドローンについては、ウクライナが、既に2021年10月にトルコ製のバイラクタルTB2を使用していいるそうです…)、ウクライナでの戦争は人類史上にあって初めての’IT戦争’ということになるのですが、民間企業による軍事支援は、中国企業にも対ロ支援の口実を与えることとなりますので注意を要します。アメリカは、中国に対して支援を控えるよう警告を発していますが、中国は、自国の民間企業や海外の中国資本系企業による自発的提供という別ルートを以ってこれを行うかもしれないからです。

 

 ウクライナでの戦争は、IT兵器戦争という新たな戦争形態をもたらす可能性も否定はできないのですが、最大のリスクとしては、中国によるロシア支援が、第三次世界大戦の導火線となりかねない点は、多くの人々が認めるところなのではないかと思います。そして、IT兵器戦争への発展は、同技術を牽引してきたのは超国家権力体であっただけに、世界大戦誘導プランの信憑性をも高めるのではないかと思うのです。


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