万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

国際の平和と安定に資する”強靭な日本”へ-暴力への抑止力は善

2015年07月16日 15時38分33秒 | 国際政治
【安保法案特別委採決】米高官「強靱な日本を支援したい」 オバマ政権戦略の柱
 安保法案の衆議院特別委員会での可決を受けて、同盟国であるアメリカの高官は、「強靭な日本を支援したい」と語ったと伝わります。野党側の見解では、”強靭な日本”とは、”戦争を始める危険な日本”なのでしょうが、今日にあっては、日本国を危険な存在と捉える見解は誤っております。

 子供用に制作されたアニメやテレビ番組では、憎々しげな”悪役”が登場し、最後には、ヒーローによって退治されるという筋書きがパターン化されています。こうした勧善懲悪のストーリーは幼稚であると冷笑され、善悪二元論も複雑な現実社会には構図が単純すぎるとして批判されがちです。今日、ニヒリスティックな善悪の相対化が持て囃されつつも、現実の社会を見つめますと、社会悪は闇に隠れるように生息しており、それは、時にして、犯罪として表出します。国内では、犯罪は、刑法等と警察力を以って取り締まられていますが、国際社会にあっても、国際法が国家の規範を定めることで、悪しき行為、即ち、他国を侵害し、国際秩序を乱す行為を抑止としているのです。このことは、国際社会には善悪の区別が歴然として存在しており、国際法を順守しない国は、国際社会において”悪者”と見なされることを意味します。この国際社会の”悪者”、国内の犯罪者は姿を隠すものですが、公然と法を破って恥じようともしません。違反行為を見逃せば、国際社会は暴力が支配する無法地帯と化すのですから、国際社会の”悪者”に対して厳しく対峙することは、国際社会に正義を実現するための正当な行為なのです。中国が、如何に”日本脅威論”を宣伝しても説得力に欠ける理由は、自らの行動で自国が無法国家であることを証明しているからです。

 安保法案に反対する野党は、一体、この法案の何処に、日本国が”悪者”となる可能性を見出しているのでしょうか。軍事的な国際包囲網への参加を可能とする日本国の集団的自衛権行使容認は、中国等の無法国家を抑え込むには必要不可欠な要件です。。暴力は”悪”ですが、暴力を抑止する力は”善”なのですから。徒に軍事力を絶対悪として全面的に否定し、反対ばかりを連呼する野党側の態度の方が、善悪二元論よりも、よほど思考回路が単純、かつ、硬直しているのではないかと思うのです。

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安保法案が問う民主主義の限界

2015年07月15日 15時25分34秒 | 日本政治
「これが民主主義か」=怒号飛び交う中強行採決―安保関連法案・衆院特別委
 本日、衆議院特別委員会において、荒れ模様の中、安保法案が可決されました。かねてより法案に反対していた野党側は、”これが民主主義か”、”国民の理解はすすんでいない”、”強行採決反対”などと口々に叫び、怒りを顕わにしていたと報じられています。

 各紙の世論調査等によりますと、安保法案に反対する回答が多数を占め、法案に対する国民の理解が深まっているとは言い難い状況のようです。その原因の一つは、政府が国民に対して法案の必要性、即ち、”何が脅威であるのか”を十分に説明し切れていないところにあります。法整備を急ぐ背景には、刻々と変化する国際情勢、即ち、中国の軍事的な台頭や国際秩序の崩壊に対する危機感があり、これらの背景に対する明快な説明抜きでは、政府が国民の理解を得ることは困難です。ところが、二つの理由から、政府は、安保法制の根拠でもある背景を説明しあぐねています。第1の理由は、日本国政府が、中国脅威論を積極的に語りますと、内外から強い懸念が示されることです。国内では、親中派の政党や政治勢力が根を張っており、日中友好に水を差すとして牽制されます。また、マスコミにも中国の影響が広く浸透し、況してや中国の工作員も暗躍している状況下にあっては、日本国政府による中国脅威論が歪曲された形で発信され、逆に、日本国側が中国を挑発している構図-日本脅威論-に仕立て上げられるリスクもあります。既に観察されているように、外部からは、中国が日本脅威論をしきりに煽っています。第2の理由は、防衛や安全保障の分野では、特定機密保護法の対象となるような機密性の高い情報が多く、国民に法案関連の情報を全て開示することができないことです。情報の全面的な開示は、相手国にも、日本国のみならず同盟国や関係国の安全を左右する重大情報が漏れることを意味しますので、自ずと制限を加えざるを得ません。また、国民の側も、必ずしも自ら進んで防衛や安全保障に関する情報を求めないとなりますと、法案に対する理解度はさらに低下することでしょう。

 民主主義とは、全ての有権者が、政治的な判断に要する情報に自由にアクセスし、十分な情報を入手できる状態を前提として初めて成立します。しかしながら、今般の安保法案については、上述した理由によって、この前提を整えることができません。日本国政府は、引き続き国民に対して丁寧な説明に努めるべきですし(既存の情報のみでも、国民が判断するに十分な面もあるのですが…)、必要とあれば、摩擦を恐れずにマイナス情報も積極的に公開すべきですが、世論調査での反対の声は、防衛や安全保障の分野では民主主義に限界があることを差し引いて考えるべきではないかと思うのです。

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中国の真の危機は上海市場ではなく人民元の下落?

2015年07月14日 17時29分49秒 | 国際経済
 上海証券市場の株価の急激な値下がりを受けて、中国政府は、あらゆる政策手段を総動員して下落阻止を講じております。国家の威信をかけて証券市場バブルの崩壊を食い止めている状況にありますが、真の中国経済の危機は、上海証券市場ではなく、人民元の為替相場に異変が生じた時ではないかと思うのです。

 上海証券市場において試みられた下落防止策の一つに、中国人民銀行などによる買い支えがあります。この方法は、政府と中央銀行が一体となって株式市場に大量に人民元を投入し、バブル状態を維持するというものです。いわば、銀行券を刷る輪転機をフル稼働させる手法であり、売り圧力の中で新たな株式の買い手が突如出現したわけですから、株価は安定化します。中国政府が、この手法を何時まで継続するかは分かりませんが、国内の株式市場であれば、一先ずは、応急手当てを施すことはできるのです。しかしながら、外国為替市場では、証券市場と同じ手法を用いることは困難です。国内の証券市場であれば、人民元の供給は無限に実施することができますが、外国為替市場では、自国通貨安の局面に転じると、外貨準備高という上限にぶつかるからです。これまで、中国は、輸出競争力を高めるために人民元安政策を実施しており、為替市場への介入によって大量の外貨準備を積み上げてきました(通貨安政策であれは、無限に実施できる…)。ところが、上海市場での政策は、マネーサプライを増やしますので、当然に、人民元安圧力がかかることになります。市場介入による政策的な通貨安ではなく、真正の通貨下落ですので、この時、中国は、重大な選択を迫らることが予想されます。現状の為替水準を維持しようとすれば、外貨準備を取り崩して人民元相場を支えねばらなず、一方、為替相場の下落を認めるとすれば、人民元資産の目減りや輸入インフレも必至となります。しかも、前者を選択しても、人民元買い支えのための外貨準備が底をついたら最後、人民元は暴落に見舞われ、中国が温めてきた人民元の国際化政策やそれに伴うIMFの準備資産採用なども遠のくことでしょう(”人民元通貨圏構想”の夢も消える…)。

 中国経済に関する情報は乏しく、なおもその実態は、厚いベールに包まれています。近年、”調整可能な変動相場制”とも称された通貨政策も、国際的な批判を受けて自由化に向けて舵を切ったようにも見えましたが、通貨暴落という新たな局面に、通貨制度のみならず中国経済そのものが耐えられるか、疑問なところなのです。

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韓国人制作動画「軍艦島の真実」が語る”真実”

2015年07月13日 15時48分42秒 | その他
動画「軍艦島の真実」 韓国人教授が日本閣僚・議員に送信
 ユネスコ世界遺産委員会での「明治日本の産業革命遺産」登録の一件は、日本国民にとりましては後味の悪いものになりました。しかも、この後味、なかなか消えないようなのです。

 この一件については、ユネスコの世界遺産委員会の審議過程で、日本国側の発言を都合よく解釈した韓国側は、あたかも日本国が”朝鮮人の強制労働”を認めたかのように報じております。こうした中、韓国人の教授が、「軍艦島の真実」なる動画を作製していたことが判明しました。果たして、この動画は、何を語っているのでしょうか。もちろん、視聴したところ、動画の内容自体は日本国による”朝鮮人の強制労働”を印象付けるものですが、実のところ、この一本の動画は、韓国の徴用工問題に向けた巧妙な策略の一端を”暴露”しております。第1に、6月21日の日韓外相会談での合意を、韓国側が一方的に反故にしていることです。報道によりますと、日韓両国は、双方が相手国の遺産登録に協力し、韓国側も、反対しないことを約したそうです。ところが、この動画は、ネット上での公開のみならず(YouTube上のアップは6月17日)、世界遺産委員会の各委員にも送付されており、登録反対活動に使用されました。現地でも、韓国系団体が活発なロビー活動を展開していたことが報告されていますので、両国の外相合意は、戦略上の”ポーズ”であったことが分かります。第2に、韓国は、委員会の議長国であったドイツを味方に付けたことです。動画の最後の方に、ドイツのツォルフェライン炭鉱業遺跡を登場させ、ドイツが、世界遺産登録に際してユダヤ人や捕虜の強制労働を説明に加えたため、反対なく登録されたと述べています。これは、ドイツ人議長の心理が韓国に偏る効果を狙ったものと憶測されます。第3に、ドイツへの言及は、ユダヤ人勢力を取り込む手段でもあります。動画には、ブラント首相がワルシャワのゲットーでユダヤ人犠牲者に花輪を手向けけ謝罪したシーンもあり、ユダヤ人=朝鮮人のイメージを植え付けています。おそらく、この場面は、ユダヤ勢力の影響が強いとされるメディア対策であり、実際に、海外メディアでは、韓国の主張通りの報道がなされました。第4に、この動画は、韓国の最終的な目的が、日本国から謝罪と賠償を勝ち取ることにあることを自ら明らかにしています。動画は、事実上の日本国に対する要求で締めくくられるのです。そして、第5に指摘できることは、この動画の説明は、極めて信憑性が怪しいことです。使用されている写真の中には、日本人と見られる炭鉱夫の姿もありますし、朝鮮人一家の写真は、子供達もきれいな身なりをしており、むしろ、”奴隷”ではなかったことの証拠となります。実際に、軍艦島では、一般の雇用契約の下で訪日した朝鮮人世帯も生活していたとする記録が残されています。

 「軍艦島の真実」は、製作者の意図とは逆に、韓国の手の内を明かすとともに、韓国の主張が覆される切っ掛けとなるかもしれません。日本国政府は、動画の説明や写真の真偽を検証し、誤りや捏造部分を公表すべきではないかと思うのです。

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ギリシャ再建の鍵は”国おこし”-ブランド戦略を試してみては?

2015年07月12日 15時35分30秒 | ヨーロッパ
観光業界、「改革」に反対=エーゲ海の島々直撃も―ギリシャ
 ギリシャのユーロ圏離脱の可能性は、五分五分とも見方が広がっております。”行くも地獄、退くも地獄”とも称される現状にあって、ギリシャ国民の間では、不安も不満も高まっているようです。

 欧州市場(単一市場)を形成したEUでは、不況下にあっても、加盟国が採れる政策的手段は限られております。もはや保護主義的な関税率の引き上げや輸入制限措置を設けることは出来ません。また、ユーロの導入は、金融・通貨政策の権限をEUレベルに委譲することを意味しますので、財政危機に際して、自国の中央銀行に救済を求めることも、自国通貨安政策で競争力を取り戻すこともできないのです。八方塞の中で、当面の危機打開策は、財政緊縮政策による縮小均衡の達成ですが、VATの増税には消費を冷え込ませるマイナス効果もありますので、ギリシャ経済の持ち直しには期待薄です。仮に、ギリシャ国民が、現在の生活水準を維持することを望み、長期的な展望から解決策を求めるとするならば、それは、経済成長を促す産業政策を置いて他にありません。”村おこし”、ならぬ、”国おこし”に取り組むのです。ノルウェー産のサケは、今日ではブランド品として定着しておりますが、入り組んだ海岸線を持つギリシャも、水産物の養殖には適しているかもしれません(タコも候補ですが、ヨーロッパではタコを食す国が少なく、欧州市場向けでは難しいかも…)。養殖の先端技術に関する研究機関を設け、人材育成にも努めれば、将来的には一大産業に育つ可能性もあります。かつての花形産業であった海運業や造船業についても、観光業とリンケージさせたり、大型船では競争力に乏しいものの、新たなコンセプトに基づく中型・小型船舶モデルを考案するなど、生き残りのための工夫の余地はあります。また、伝統的な手工芸品でも、デザインを都会の生活様式にも馴染むようにモダン化したり、用途を広げるなど、工夫次第では、ギリシャ・ブランドの輸出品に変身させることができます。

 ユーロ離脱の如何に拘わらず、ギリシャ国民が、国庫からの給付頼りの生活を続けてゆくことは不可能です。社会保障政策に偏りがちな左派政権下では難しいかもしれませんが、ギリシャ政府と国民が知恵を出し合い、行動に移すべきは、欧州市場、そして、グローバル市場をも視野に入れた”国おこし”の策なのではないかと思うのです。

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中国の海洋法違反問題-海洋安全保障は憲法のスポット

2015年07月11日 15時33分00秒 | 国際政治
中国、東シナ海に新施設…軍事拠点化の恐れ
 日中間に横たわる東シナ海の天然ガス・油田開発問題は、近年、尖閣諸島をめぐる対立の陰に隠れて関心が薄れたものの、最近、中国が、新たな海洋プラットフォームを建設していることが判明したそうです。しかも、純粋な採掘用施設ではなく、軍事拠点化が強く疑われているというのです。

 大陸棚や排他的経済水域においては、沿岸国が軍事目的で主権的権利を行使することはご法度です。海上に施設を建設する行為自体は許されるのですが、その使用目的は、天然資源の開発などに限定されているのです(海洋法に関する国際連合条約第60条及び80条)。こうした海洋法違反問題は、南シナ海での埋め立て強行においても共通しており、中国脅威論が絵空事ではないことを裏付けています。国際海洋法では、紛争の平和的な解決手段として、調停の他にも、国際海洋法裁判所、国際司法裁判所、仲裁裁判所など司法的な解決の道が準備されており、実際にフィリピンは、南シナ海の問題を仲裁裁判所に提訴しています。ところが、中国には提訴に応じる気配はなく、判決にも従わない公算が高いのです。果たして、この時、国際社会は、中国の違法行為に対して、施設の撤去等の”強制執行”を行うことができるのでしょうか。実のところ、この種の問題に関しては、中国が国連安保理の常任理事国であるため、国連に解決を期待することができません。その一方で、平和を脅かす明確な違法行為が放置されるはずもなく、条約上に明文がなくとも、国際レベルの司法機関が違法の判断を示した場合、国連の枠外にあっても、個別的であれ、集団的であれ、各国には海洋安全保障に関する執行権の行使が認められると解釈せざるを得ないのです。

 海洋安全保障の領域は、1946年11月の日本国憲法の制定時には存在しておらず、ジュネーヴ海洋法条約の採択は1958年4月のことであり、海洋法に関する国際連合条約は1994年11月に発効しています。いわば、海洋安全保障の領域は、憲法のスポットなのです。安保法案については、違憲の声も聞かれるのですが、現在、日本国を含む国際社会が、これまでに経験したことのない新たな問題領域に足を踏み入れている現実こそ、議論の前提とすべきではないかと思うのです。

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中国の”やさしげな言葉”は信じられる?-信用判断は重要

2015年07月10日 09時31分46秒 | 国際政治
ウイグル族約100人を中国送還=トルコで暴徒がタイ公館襲撃
 タイ政府は、トルコで発生した反中暴動に関連して、国内に不法入国していたウイグル族100人を中国に送還したと報じられております。送還に際しては、中国当局から「適切に取り扱う」との確約を得た、というのですが、この”やさしげな言葉”、信じても大丈夫なのでしょうか。

 そもそも、トルコでの反中暴動の原因は、中国政府が、ウイグル人に対して過酷な弾圧政策を遂行してきたことにあります。戦後、中国が東トルキスタンを詐術的に併合し、今日に至るまで、ウイグル人を迫害してきたからこそ、トルコの人々がウイグル人のために声を挙げているのです。こうした状況下にあって、中国が、タイとの約束であれ、不法に国外に脱出した経歴を持つウイグル人を”やさしく”扱うとは思えません。中国への送還を決めたタイの判断は、適切であったのでしょうか。歴史においては、相手国を信じたばかりに自らに禍を招いてしまう事例は、枚挙に遑がありません。1920年に起きた尼港事件の経緯を知った時には愕然としましたし、ユネスコの世界遺産登録での一件でも、外相合意が反故にされたことが日本国側の誤算の始まりでした。相手国の言葉、あるいは合意を信用するか、否かの判断を誤ると、後に、信用判断のミスを問われることにもなりかねないのです。相手を信じることは社会一般では美徳の一つですが、特に国際社会では、美徳を発揮した側が窮地に陥ることも少なくないのです。

 ウイグル人を弾圧してきた中国が最もその責めを負うべきことは言うまでもありませんが、仮に、中国が送還されたウイグル人に対して制裁等を加えた場合、既にメディアでは批判的に報じているように、タイ政府もまた、手厳しい批判を受けることになります。”適切な取り扱い”とは、ウイグル人に対する人道的な保護を意味するとは限らず、中国にかかれば、拷問さえ”適切な取り扱い”と解釈されるかもしれないのですから。中国の”やさしげな言葉”は、信じたいと思いつつも、その後の悲劇を予測すればこそ、信じてはならないのではないかと思うのです。

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中国の証券市場は”異形の市場”に?

2015年07月09日 15時17分15秒 | 国際政治
 1年余りの間に株価が2倍に高騰した上海証券市場。数日前から下げに転じたため、バブル崩壊の予兆ではないかとする警戒感が広がっております。

 ところで、急激な経済成長を梃にして一気に金融の世界にも躍り出た中国ですが、中国の証券市場を、他の一般の証券市場と同じように考えてよいのでしょうか。一般的な意味での証券市場の基本的な役割は、金融機能です。株式会社は、証券市場において自社の株式を公開することで、資金を調達することができます(株式金融)。一方、株式の買い手は、配当や残余財産を受け取る権利に加えて、株主総会での議決権や提案権をも獲得し、経営への関与やチェックをすることができるのです。このため、株式市場では、株主権の獲得を目的とした売買も行われており、証券市場は、市場経済のメカニズムの一部を構成しているのです。ところが、中国の証券市場を見ますと、この機能が十分に働いているようには見えません。確かに、他の諸国の証券市場でも、利ザヤを目的とした投資家による投機行為は観察されますし、バブルやその崩壊による金融危機の原因ともなってきました。とは言うものの、民間企業が十分に育っていないためか、中国の証券市場での取引は、著しく投機に偏っているようなのです。上海株の急激な上昇の背景には、目先の利益に狂奔する一般の中国市民による投機行為も報告されており、株取引で手にした巨万の富は、日本国内での中国人観光客の”爆買”行動にも現れています。中国の富の大半は、企業、株主、消費者…といったアクター達による通常の経済活動ではなく、”投機”によって生み出されており、株価の下落は、その縮小を意味するのです。

 そして、上海証券市場に対する株価対策は、中国経済の真の主役の存在を浮き立たせます。それは、中国政府です。中国政府は、政府系証券会社による買い支え、一部銘柄の取引停止、中国人民銀行による直接融資、大口売却の禁止…など矢継ぎ早に対策を打ち出し、これらの政策効果があってか、本日の株価指数は、若干、持ち直しています。しかしながら、これらの措置を永続的に続けるとしますと、上海証券市場は、政府の管理下にある”統制市場”となり、ますます異形化してゆくことでしょう。行く行く先は、直接的であれ、間接的であれ、中国における金融機能は、中国人民銀行、あるいは、それをコントロールする中国共産党に集中することになるかもしれません。上海証券市場の動向と中国の株価対策は、中国経済の行方を占う上でも目を離せないと思うのです。

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ギリシャと朝鮮-二つの半島のシンクロナイズ

2015年07月08日 15時13分01秒 | 国際政治
ギリシャ首相に合意促す=独首相とは連携確認―米大統領
 ギリシャの債務問題は、EUにおける金融の一元性と財政の多元性の間の整合性の問題でもあります。過去に前例がないと見なされがちですが、実は、戦前において、ギリシャ問題と一部重なるケースがないわけではないのです。

 その前例とは、戦前の日本国と韓国との関係です。1904年8月、日本国は韓国と第一次日韓協定を結び、放漫財政にあった韓国に財政顧問を派遣します。日本国という後ろ盾を得たことで、翌1905年には、韓国政府は東京において200万円の国債を初めて起債し、その後も、日本国の貨幣流通基金などから無利子融資を受けるようになりました。1910年8月の韓国併合時には、国際収支残高は総額4559万106円にまで膨張していましたが、併合に伴い、日本国への返済義務は消滅します。また、この時、韓国が諸外国に負っていた債務も日本国が引き受けたのです。併合後は、完全な金融・通貨統合とまではいかないまでも、朝鮮半島の中央銀行として朝鮮銀行を設立し、金・銀、並びに、日本銀行券との兌換を保証した朝鮮銀行券を発行しました。しかしながら、経済発展が遅れていた朝鮮半島では、近代化のために莫大なインフラ資金を要したこと、また、国民の生活水準が低い状態にあったことから、朝鮮総督府の歳入のみで歳出を賄うことができませんでした。このため、日本国は、1945年の敗戦に至るまでの実に35年間、毎年、朝鮮半島に対して財政移転を実施したのです。この事例に照らしてみますと、主権平等と民族自決の原則が確立している今日にあっては、ドイツがギリシャを併合するわけにはいかず、また、金融支援機構であるESMの基金にも限界があり、永続的にギリシャの財政赤字を融資形式で補填することも不可能です。現在のEUの財政制度は加盟国の主権を尊重する多元型もありますので、ギリシャの今後については、ユーロ圏からの離脱の如何に拘わらず、自らの債務負担能力の範囲に財政を縮小するか、経済成長を促進することで歳入の拡大を目指すしか、根本的な解決方法は見当たらないのです(財政統合の声も聞かれるが、全加盟国による合意が成立する見込みは薄い…)。もっとも、ロシアや中国に永続的な財政移転、あるいは、金融支援を頼む方法もあるのでしょうが、政治的なリスクに加えて、現在のロシアや中国に、ギリシャ財政を永遠に支える余力があるのかも疑わしいところです。

 ペロポネソス半島と朝鮮半島。100年という時を隔てて、この二つの半島は、財政面においてシンクロナイズしているように見えます。そして今日のギリシャと韓国の両国もまた、依存しながら支援側を一方的に悪者とみなし、相手に威圧的に要求しながら自らの欠点には目を瞑り、自助努力も自己改革も等閑にする態度も、どこか共通しているように思えるのです。

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世界遺産登録の教訓-相手国の策略を見抜く

2015年07月07日 17時22分27秒 | 国際政治
土壇場韓国案、事前合意とずれ…遺産登録舞台裏
 ユネスコの世界遺産制度とは、人類史的に価値のある遺産を保護し、未来の人類に継承してゆくためにこそ設けられている制度です。しかしながら、先日、ドイツのボンで開かれた世界遺産委員会での登録手続きで観られた光景は、この崇高な精神とは著しくかけ離れたものでした。

 日本国政府は、今年の委員会での「明治日本の産業革命遺産」の登録の実現をめざし、内外で登録推進活動を進めてきました。ところが、韓国は、登録対象の遺産の幾つかでは朝鮮半島出身者の”強制労働”があったとして登録反対を表明し(実際には、どの国でも実施されていた有給の戦時徴用であり、期間も1年足らず…)、国際的な宣伝活動を展開します。6月末には、日韓外相会談で、相互の遺産登録の協力、並びに、文面において合意に達するものの、実際に、委員会での審査手続きが開始されますと、先の合意を一方的に反故にし、再度”強制労働”を主張しはじめるのです。この結果、韓国が、日本の支持も受けて自国の遺産登録を先に決める一方で、日本国の審議は翌日に持ち越され、議長国ドイツの計らいで全会一致での登録決定後、日韓がそれぞれ陳述書を読み上げる進行となりました。この日本側の陳述書、”強制労働”という言葉は使われていないものの、かなり曖昧であるため、韓国国内では、”日本国が”強制労働”を認めた”と大々的に報じられたそうです。この一連の経緯からしますと、韓国の目的が、国際舞台における日本国による”強制労働”を弾みに、徴用工問題で日本国に対して賠償責任を負わせることにあることは明らかです(徴用工の未払い賃金については、日韓請求権協定で決着済…)。言い換えますと、世界遺産登録は、韓国が自国の政治的目的を達成するために利用されたのであり、韓国側の登録反対の強硬なポーズや、日本国の油断を誘う一時的合意は、反対撤回と引き換えに、日本国政府の言質を取るための作戦であったと推測されるのです。

 そして、この一件は、幾つかの疑問点を残すことにもなりました。それは、何故、日本の遺産の登録について、審議過程において韓国に陳述機会が与えられたのか、という点です。両国とも、今年は委員会のメンバーではありますが、他国の遺産の登録に対して反対する国には、無条件に陳述機会が与えられるのでしょうか(反対意見の表明の場であれば、むしろ、日本国にとっては、韓国側に公式に反論する機会となったはず…)。また、委員会における陳述は、遺産の本来の価値とどのように関係するのでしょうか。陳述内容が優先されますと、ネット上で懸念の声があるように、遺跡の基本コンセプトが変更されることにもなりかねません(”産業革命遺産”から”徴用施設”に?)。結局、韓国の目論み通りにはならなかったようですが、韓国側では、早い段階から用意周到に作戦が練られていたことが伺えます。日本国政府は、国際機構の制度や手続きを熟知すると共に、相手国の策略を逸早く見抜き、今後は、土壇場で追い込まれる展開だけは避けなければならないと思うのです(河野談話で懲りていたはず…)。

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ギリシャは”衆愚政治”の歴史を繰り返す?-最もユーロの恩恵を受けた国の反逆

2015年07月06日 15時21分46秒 | ヨーロッパ
EUに衝撃、戦略練り直し=7日にユーロ圏緊急首脳会議―ギリシャ国民投票
 昨晩までは、世論調査結果などから、ギリシャの国民投票では、国民が冷静さを取り戻し、緊縮容認派が多数を占めるとの予測が大半を占めておりました。緊縮容認派が勝利した場合、チプラス首相退陣も取り沙汰されておりましたので、本日のブログ記事では、古代アテネで行われた独裁者追放の国民投票制度である”陶片追放”に因んで記事を書く予定でした。しかしながら、朝起きてみますと結果は逆であり、急遽、”陶片追放”からアテネ滅亡の原因ともなった”衆愚政治”に変えることにしました。

 投票結果は、60%を越える高率で反緊縮派に支持が集まり、接戦どころか、EU案に対する反対票が過半数を大きく超えておりました。ギリシャの民意はチプラス首相の冒険主義的な手法に賛意を示したことになりますが、国民の多くが、ユーロ導入から今日に至るまでの経緯を理解しているのか、疑問なところです。何故ならば、ユーロ誕生当時、ギリシャこそ、ユーロから最大のメリットを受ける国の一つに数えられていたからです。その理由は、ギリシャ通貨ドラクマは、当時、極めて”弱い通貨”であったため、海外からの投資は停滞し、国民もまた、インフレ圧力に苦しめられていたからです。”強い通貨”を手に入れれば、インフレ率の低下からギリシャ経済も安定し、為替市場での取引コストやカントリー・リスクの消滅…も、国債発行による資金調達を含めて、海外からの投資増加を促すものとと期待されていたのです。後に発覚して騒動となりましたが、ギリシャ政府が、粉飾決済までしてユーロ導入を実現した理由は、これらのメリットにあります。ところが、実際にユーロを導入すると、ギリシャは、ユーロ建ての国債発行のメリットのみを享受し、放漫財政の維持に費やすのみで、経済成長に振り向けることも、慢性的な財政赤字体質にメスを入れることも怠りました。この結果、最大のユーロ・メリット国は、最大のユーロ・リスク国に転じてしまったのです。ユーロからの恩恵を忘れ、今では、ユーロ離脱も辞さない構えです。

 国民投票を通して、チプラス首相は、EUという外部の圧迫者と戦う英雄に祭り上げられ、ギリシャ国民も一緒になってEUを敵視し、国民投票は、あたかもEUとの政治闘争の観を呈してしまいました。EUに憤慨する国民もまた、EUの緊縮案にNOを突きつけたのですが、果たしてこの判断、賢明であったのでしょうか?(もっとも、ギリシャ国民が、EUや国際経済に悪影響を与えないために、自らユーロ圏から離脱し、一から経済・財政を立て直す覚悟で反緊縮策に賛成票を投じたのであれば、賢明と言えるかもしれない…)

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ギリシャ国民投票-結果が同じなら「緊縮賛成」が正解では?

2015年07月05日 14時08分57秒 | ヨーロッパ
「反緊縮」勝利でユーロ離脱も=敗北なら首相退陣―ギリシャ、5日に国民投票
 瀬戸際作戦で支援者の立場にあるEUに揺さぶりをかけてきたチプラス政権。いよいよ本日、ギリシャでは、EU側が提示した緊縮財政案の是非を問う国民投票が実施されることとなりました。

 国民投票に際して、チプラス政権は、EU側の緊縮案支持の要請にも応じず、”EUの脅迫にNOを”と叫び、ギリシャが不当にEUから圧力をかけられているかの印象を国民に与えています。ギリシャ国民の独立心に訴えているのですが、この問題の根本的な原因がギリシャの”借金漬け体質”にあることを考えますと、チプラス政権の主張は自己矛盾としか言いようがありません。何故ならば、仮に、自国の財政が外部から介入を受けず、EUから政策上の注文を付けられないようにしたければ、”始めから借金をしなければよかった”ということになるからです。そして、ギリシャ財政の依存性は、たとえ、国民投票において「反緊縮」派が勝利したとしても、緊縮財政は不可避であることを示してもいます。チプラス首相が思い描くように、EU側がギリシャの債務削減案を受け入れる、つまり、当面の債権放棄に応じたとしても、今後、ギリシャが、従来通り国債を発行できるとは思えません。ユーロ圏から離脱すれば、なおさらのことでしょう(財政破綻は免れても高率のインフレに…)。ギリシャ国債が回収不能になる可能性が高いことを、現実に示してしまったのですから。ギリシャ政府は、国債の引き受け手の減少、利率の急上昇、悪性のインフレ等に、単独で対応せざるを得なくなるのです。

 結局、EUが外部から緊縮財政を迫らなくとも、ギリシャは、国内の財政事情によって緊縮を迫られることでしょう。国民投票の結果の如何に拘わらず、将来的には財政緊縮が不可避であれば、緊縮財政案を受け入れ、EUとの良好な関係を保つ方がギリシャの財政再建は円滑に進むものと推測されます。もっとも、先日、中国高官がギリシャ救済の準備がある旨、発言しておりましたが、中国の支援は、ギリシャの主権にとりましては、EUとは比較にならない程、真の脅威となるのではないでしょうか。

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道徳教科書-諸価値の棲み分け、調和、優先順位こそ論じるべき

2015年07月04日 14時31分07秒 | 社会
道徳教科書、「寛容」と「規則の尊重」 自ら考え議論に力点 学習指導要領解説書
 道徳とは、善悪の微妙な判断やヒューマニティが問われるため、教えるのが極めて難しいとされています。しかしながら、その難しさを避けて無視すると人間社会がカオス化、あるいは、野蛮化しますので、健全な社会の実現のためには道徳教育は避けて通れない課題です。

 道徳を抽象的な言葉で説明するのが難しいため、昔ながらの教育方法では、実在の人物の偉業や模範的な行動、あるいは、人々の心を打つ逸話を教科書に載せて読ませることで、道徳心の感化を促してきました。その一方で、今般、日本国では、道徳の教科化に伴って、”自ら考え議論する”に力点を置く教科書が登場するそうです。新たな教育方法が導入されたわけですが、不安がないわけではありません。”答えのない議論”の論点として、二つの対立する価値が例として挙げられてるのですが、この二つの価値とは、「寛容」と「規則の尊重」です。しかしながら、この二つ価値の間の論争には、答えはないのでしょうか。例えば、法によって律せられている行為については、「寛容」はあり得ないことです。殺人、暴力、窃盗…といった他者に害を与える行為に対して無分別に「寛容」が適用されますと、犯罪天国となるからです。こうした分野では、「寛容」を説くことこそ、逆に、犯罪や違法行為を容認する非道徳的行為となります。仮に、法を破った加害行為に対して「寛容」を適用する余地があるとしますと、刑罰を受けて罪を贖った後であるとか、深く反省して被害者に謝罪をした場合とか、被害者にも過失や原因があり、情状酌量の余地があるとか、何らかの条件が付くはずです。

 このように、議論の対象となる行為を犯罪や違法行為に特定しますと、自ずと答えは決まってきます。答えが決まっている場合には、敢えて議論する必要があるのか疑問でもあり、上記の例では、むしろ、遵法精神の意義を理由を添えて教えた方が、犯罪撲滅には効果があるかもしれません。また、道徳の教科書で”答えはない”と断言しますと、当然であった社会常識や規範が一気に崩壊する怖れもあります。一方、自由と平等の間に見られる緊張のように、答えを見出すのが困難な領域もあります。こうした場合には、どのような場合に、どの価値が、どのような理由で適用されるのか(棲み分け)、矛盾する諸価値を調和の方法はあるのか(調和)、あるいは、どちらを優先すべきなのか(優先順位の決定)、といった問題を論じる方が、よほど価値判断の訓練になるのではないかと思うのです。

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集団的自衛権が内包する権利と義務の両面性

2015年07月03日 09時32分11秒 | 日本政治
 安保法案における議論では、集団的自衛権の行使の是非が焦点の一つとなっております。昨年の7月に、既に政府解釈が変更されていますので、違憲論者は、政府解釈の変更そのものが許されていないとする立場にあるようです。

 この問題に関する議論では、”権利”と書き表されている以上、誰もが、集団的自衛権は権利の一種であるとして、その前提を疑いません。そうであるからこそ、”自らの決定によって自発的に放棄もできる”とする主張も散見されるのです。しかしながら、自国や自国民に対する義務である防衛義務は憲法によって放棄できるのか、という問題と同様に、集団的自衛権を権利の面でのみ理解するのは、妥当なのでしょうか。集団的自衛権は、国家が”集団”を形成して共同で防衛を行う権利ですので、その行使には、必然的に他国との条約や協定等の締結を要します。ここに、協力を目的とした外部との権利・義務関係の形成という、単独で行使できる個別的自衛権との最大の相違点が見られるのです。このことは、他国との間に同盟条約等を締結する時点、あるいは、集団的安全保障体制に参加する時点で、全ての締約国は、集団的自衛権の行使に必要となる義務をも負うことを意味します。国際レベルにおける権利と義務との両面性こそ、集団的自衛権の特徴なのです。仮に、憲法第9条を集団的自衛権をも放棄していると解釈するならば、日本国は、軍事同盟を結ぶことも、国連に加盟することもできないはずです。ところが、実際には、日本国は、講和成立とほぼ同時にアメリカと日米同盟を締結し、国連にも加盟しております。この時点で、日本国政府は、集団的自衛権の行使を国際法上の義務として認め、現行憲法の枠にあっても、集団的自衛権の行使を容認しているのです。この点からしますと、”権利であるから放棄できる”とする説は、国際法上の一方的義務放棄、あるいは、条約破棄の勧めに他なりません。

 日本国を取り巻く国際情勢が緊迫する中、集団的自衛権の行使をめぐる議論が解釈論の域を出ずに空回りをするようでは、安全保障のリスクは高まるばかりです。集団的自衛権の義務面に注目することは、国際社会における日本国の役割、言い換えますと、現実の危機への対応、並びに、国際秩序の維持のための手段としての集団的自衛権のあり方と意義に、議論の方向を転じる契機ともなるのではないかと思うのです。

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対中戦争は新型「ハイブリッド戦争」か?-人民解放軍と”動員人民網”

2015年07月02日 15時13分44秒 | 国際政治
大国との戦争「可能性高まる」=ロシア、中国に懸念―米軍事戦略
 昨日、2015年7月1日、米軍のデンプシー統合参謀本部議長は「国家軍事戦略」を公表し、ロシアや中国を念頭に、大国との戦争の可能性が高まっているとする見解を示しました。その一方で、同日、中国では、全国人民代表大会で「国家安全法」を可決成立させています。米中間の軍事的な緊張の高まりは、昨日一日における両国の動きからも伺うことができます。

 新たに制定された中国の「国家安全法」では、香港、マカオ、台湾をも中国の”領土”とし、これらの地域を含む全中国人の国防義務強化をも謳っているそうです。アメリカの「国家軍事戦略」では、ウクライナ東部での紛争を正規軍と武装勢力による「ハイブリット紛争」と表現しておりますが、国民に対する国防義務強化は、中国との戦争が、ウクライナとはまた別のタイプの「ハイブリッド戦争」となる可能性を示唆しております。別のタイプの「ハイブリッド戦争」とは、正規軍と動員された”中国国民”によるハイブリッドです。つまり、人民解放軍と全世界に張り巡らされた”動員人民網”とでも呼ぶべきチャイナ・ネットワークが、相互に連携しながら交戦国の内外において戦を挑んでくる展開が予測されるのです。中国では、既に2010年7月1日から「国防動員法」が施行されており、国外に居住する中国人も対象に含めました。「国家安全法」の制定と「国防動員法」の施行は奇しくも同じく7月1日なのですが、一連の動きは、「ハイブリッド戦争」を想定した中国の戦争準備としか思えないのです。

 一昨日は、日本国内でも新幹線内で放火事件が発生し、テロの疑いから一時騒然となりましたが、現実に有事ともなりますと、中国国務院、あるいは、中央軍事委員会の指令の下で、国内において一斉にテロ活動が実行に移されることが予測されます。日本国政府は、日米同盟を軸とした中国包囲網の形成に努めると共に、新たなタイプの「ハイブリッド戦争」への対応も怠ってはならないと思うのです。

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