万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国政府は正攻法で-NPT体制の見直し問題

2022年03月10日 14時08分33秒 | 国際政治

 NPT体制において合法的核保有国であるロシアが核を脅迫に用いたことから、ウクライナ危機は、日本国内にも核シェアリング、及び、核保有の是非をめぐる議論をもたらすこととなりました。同問題提起に対し、岸田文雄首相は、即座に非核三原則の堅持を以って応えましたが、最終的な判断は別としても、少なくとも議論を行う必要性は国民の多くが認めるところとなっております。行く先には崖淵が待ち構えているかもしれない状況下にあって、ルートの変更に関する議論を封じるのは、あまりにも危険であるからです(同乗者全員の命に関わる…)。リスク対応の側面からしますと、日本国政府にしばしば見られる条件反射的な核に対する拒絶反応には疑問を抱かざるを得ないのです。

 

 日本国は、人類史にあって唯一の被爆国であり、原子爆弾のもたらす悲惨さを身を以って経験しています。日本国にあって非核三原則が設けられたのも、被爆国としての立場が強く影響しており、同原則は、非人道的な兵器が二度と用いられてはならないとする国民の願いによっても支えられてきました(国際的な要因もあるのでしょうが…)。今般の核に関する議論においても、日本国政府は、核廃絶を理想とする立場から同原則に忠実に従おうとしたのでしょう

 

 しかしながら、ウクライナ危機は、核保有国が、非核保有国であり、かつ、核の傘もない国に軍事侵攻したことで、従来の核に対する認識を大きく転換させる機会となりました。そして、ロシアの態度は、ウクライナと同様の立場にある国々に対して核保有国の脅威をまざまざと見せつけることともなったのです。国連体制にあって’警察官’の役割を担い、それ故に、拳銃の携帯(核保有)を合法的に許されてきた国(常任理事国)が、その拳銃で脅しながら家宅侵入する強盗に変身したに等しいのですから。

 

 ウクライナ危機によって、中国による台湾侵攻や尖閣諸島への軍事行動の可能性も格段に高まったとされていますが、同危機は、具体的な侵略行為のみならず、中国の周辺に位置する中小のアジア諸国に対してチャイナ・リスクを高める方向に働いたことは否めません。インドとパキスタンは、印パ戦争を背景として核を保有するに至っていますが、東南アジア諸国をはじめその他は非核保有国であり、かつ、核の傘を備えていないからです(南米、アフリカ、中央アジア、東南アジア、南太平洋諸国等では、非核化地帯条約も締結されている…)。かつて、アメリカのもならずイギリス、フランスも参加する形でアジア版NATOとも称されたSEATOも設立されていましたが(ただし、アジアの加盟国はタイ、フィリピン、パキスタンのみであり、1977年に解散…)、今日にあって、中小国の大半は、核を含む中国の圧倒的な軍事力という現実的な脅威に晒されています。

 

仮に、中国が、ロシアと同様に核の威嚇を以って周辺諸国に対して軍事侵攻を行う、あるいは、自国への服従を求めた場合、これらの諸国は中国に対抗するだけの戦力は持ち得ないこととなります。軍事力がモノを言う時代に逆戻りするとなりますと、一帯一路構想といった経済力による広域中華圏の形成を待つまでもなく、中華帝国の復興を目指す中国は、軍事力で周辺諸国を囲い込むかもしれません。

 

日本国の場合、自衛隊の実力は世界軍事力ランキングにおいて十指に入るとされていますし、一先ずはアメリカから’核の傘’の提供も受けています(もっとも、不確実性が高いのですが…)。このため、日本国の非核三原則も、核の傘による抑止力の効果を前提としていると言わざるを得ないのですが、今日、全世界の多くの中小国が核に対しては無防備な状況にあり、核保有国との軍事力の格差は広がるばかりです。日本国を含めた全ての諸国の安全を守り得る国際秩序の構築という観点からしますと、日本国政府の拒絶的な反応は、状況の変化に対応しようとしない思考停止状態のようにも思えます。

 

 国際社会の現実を見ますと、インドやパキスタンのみならず、イスラエル、さらには、北朝鮮までもが核を保有し、軍事大国でもある核保有国による核攻撃の可能性も現実味を帯びています。政治には常に現状の的確な把握、並びに、変化への柔軟な対応を求められる以上、日本国政府は、国内にあっては現実的な議論を促すと共に、正攻法として、国際社会に対しても、国際レベルにおける構造的な安全保障の問題としてNPT体制の見直しを提起すべきではないでしょうか(イランも北朝鮮も、国際社会の理解を得ようとするならば、NPT体制に内在する欠陥を説明した上でその見直しを提起し、国際的な合意による条約の改廃後に合法的な行為として核武装するのが筋…)。そしてそれは、核、否、NPT体制や核廃絶運動(核兵器禁止条約…)を自国の利益のために悪用しようとするロシアや中国といった核保有国やその背後に蠢く超国家権力体に対する牽制の効果をも期待できるのではないかと思うのです。


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核シェアリングの最大の論点は’核のボタン’の所在では?

2022年03月09日 17時04分17秒 | 国際政治

 ウクライナ危機は、ロシアが核使用を以ってウクライナのみならず国際社会を威嚇したため、NPT体制を根底から揺るがす事態を招いています。日本国でも、安倍元首相の発言を機に核シェアリングの議論が持ち上がっており、与党内でも賛否両論に分かれているようです。岸田首相は、公明党と共に非核三原則の堅持する立場を表明しておりますが、国内世論を見ますと、核武装、あるいは、核に関する議論の必要性を感じている国民も少なくなくありません。それでは、核シェアリングが実現すれば、核の抑止力が働き、日本国の安全は確保されるのでしょうか。

 

 核シェアリングとは、簡潔に述べれば、アメリカが自国の核兵器を同国の同盟国に配備する一方で、同盟国が核爆弾の投下任務を担うというものです。同制度は既にNATOにおいて採用されており、現在もドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ及びトルコにアメリカのB61戦術核爆弾が配備されています。同制度では、NPTにおいて合法的な核保有国であるアメリカが核兵器を提供していますので(同じく核保有国であるイギリスとフランスの核はシェアリングされていない…)、どちらかと申しますと、目的としては、アメリカが核戦略を実行するに当たって非核保有国であるヨーロッパ各国の前線基地に核を配備するという色合いが濃いと言えましょう。

 

 核シェアリングの下で実戦において核兵器を使用する場合には、NATOの枠組みによる決定となりますので、形式としては核兵器の使用はNATO加盟国による共同決定ということになりましょう。しかしながら、配備されている核兵器はアメリカが保有するものですので、’実際に核のボタンを押すのはアメリカ大統領です。この現実からしますと、核の使用に関する最終的な決定者は、’核のボタン’を有するアメリカ大統領となります。となりますと、ここで一つの重大な問題が発生します。それは、仮に、核をシェアリングする同盟国がロシアから核攻撃を受けた場合、アメリカは、確実に同盟国のために’核のボタン’を押してくれるのか、という不安です(本ブログにあってこの不安は繰り返し言及されており、しつこいようで申し訳ありません…)。

 

 核シェアリングの議論にあっては、核兵器廃絶を理想とする立場からの批判がある一方で、核の抑止力の効果に関する現実的な観点からの疑問も呈されています。後者の疑問は、まさに上述した’核のボタン’の所在にあります。とりわけ、日本国の軍事同盟はNATOとは異なりアメリカとの間の二国間条約であることに加えて、現行の憲法第9条が示す基本方針に基づいてアメリカが攻めの‘矛’とすれば、日本国側は守りの‘盾’という役割分担が凡そ定着してきました。言い換えますと、日米同盟において核シェアリングが導入されたとしても、核兵器使用の決定権、即ち、‘核のボタン’は、アメリカのみが持つものと推測されるのです。

 

 このことは、喩え中国やロシアが日本国に対して核を使用したとしても、必ずしもアメリカがこれらの国に対して核兵器を以って報復するとは限らないことを意味します(現状にあって、アメリカは一先ずは’核の傘’を提供しているのですが…)。日本国への原爆投下に対するアメリカの核による反撃が、自国本土への核攻撃を招く可能性がある以上、アメリカの世論のみならず、政府や議会内でも慎重論が優勢となるかもしれません。大統領も、自国が核により破壊され、自国民の多数が犠牲となるリスクを負ってまで、日本国のために’核のボタン’を押すとは思えないのです。今般のウクライナ危機により核保有国による核の先制攻撃の可能性が格段に高まっており、この懸念は切実です。

 

 このように考えますと、核シェアリングによってより核の抑止力を高めるためには、日本国の政府、あるいは、首相にも’核のボタン’を押す権利が認められている必要がありましょう。つまり、核シェアリングは、日本国内へのアメリカの核兵器の配備や運搬(核ミサイルの発射…)任務のみならず、日米間における’核のボタンのシェアリング’、あるいは、核兵器使用の決定権の分有を伴わなければならないこととなるのです。日本国に対して核兵器を使用しても、アメリカによる核の反撃がないと判断すれば、中国やロシアは、むしろ日本国に対して集中的に核兵器を浴びせるかもしれません。

 

 核シェアリングの問題については、とかくに核兵器の配備の問題に焦点が当てられがちですが(SLBMによる代替の議論もあり得る…)、核使用の決定権の所在に関する議論は避けて通れないように思えます。そして、仮にアメリカが同盟国に対して核のボタンに関する権利を一切日本国に認めないとすれば、日本国は、核の独自保有の可能性をも含めて、さらなる対応を迫られることになりましょう。同議論の行方は、NPT体制の根本的な見直しにも繋がりますので、’核のボタン’の所在こそ、議論すべき最も重要な論点なのではないかと思うのです。


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ウクライナの核開発疑惑が意味するものとは?

2022年03月08日 14時53分11秒 | 国際政治

 昨日、3月7日に行われた3回目の停戦交渉は纏まらず、今なおもロシアとウクライナとの間の戦闘状態は続いております。犠牲者の数も増える一方であり、非人道的な行為も懸念されるのですが、国際社会からの対ロ批判が強まる中、ロシア側は、突如、ウクライナが密かに核開発を行っていたと主張し始めています。この主張、一体、何を意味するのでしょうか。

 

 この件に関して、メディアの多くは、ロシア側がウクライナ攻撃を正当化するためではないか、と憶測する記事を掲載しております。いわば、ロシア側による偽情報の流布ということになるのですが、その一方で、ロシアのアピール通りに、仮にウクライナ側が秘密裡に核開発を行っていたとしますと、ウクライナ危機は、極めて複雑な様相を呈することとなりましょう。何故ならば、ウクライナの立場が180度転換しかねないからです。

 

 現状にあってウクライナはNPT加盟国ですので、秘密裡の核開発は同条約違反の行為となります。言い換えますと、ウクライナは、今日の北朝鮮やイランと同列に置かれても致し方ない状況に直面します。アメリカによるイラク戦争は大量破壊兵器、即ち、核開発疑惑に端を発していますので、ロシアのウクライナ攻撃も、一先ずは国際法上の根拠が存在することとなります。上述した大方のメディアの見立てはこの文脈に基づいており、ロシアは、ウクライナ領域内のチェルノブイリ原発をはじめとした原子力発電所、並びに、「国立ハリコフ物理技術研究所」に対する攻撃や制圧についても、’核拡散の脅威を取り除く’という大義名分を得ることができるのです。

 

 その一方、ウクライナにも、秘かに核武装を試みる動機がないわけではありません。本ブログにあっても、ロシアとウクライナ、否、西側諸国との間の妥協案として、NATO加盟を見送る代わりにウクライナの核武装を認める、という試案を提案してみました。NATO加盟が足踏みしている現状にあって、’核の傘’を期待できないウクライナが自国の安全を自力で守るために独自に核武装を試みたとしても不思議ではないのです。

 

 ロシア側の報道によれば、ウクライナが秘密裡に核開発を行っていたとする証拠は既に掴んでいるそうです。しかしながら、ロシアの主張の弱点は、IAEAによる査察団の受け入れ要求といった手続きを一切踏んでいない点を挙げることができましょう。イラク戦争のケースでは、アメリカは、国際社会に対して国際法上の正当な根拠が備わっていることを示すために(もっとも、核開発の事実を確実な証拠が示せなかったために、後に合法性を問われることに…)、イラクに対してIAEAの査察団の無条件受け入れを求めました。ロシアもまた、ウクライナが核兵器を開発していると疑うならば、一方的に武力攻撃を開始するのではなく、少なくとも国連安保理に同問題を提起すべきであったはずです。しかも、ウクライナによる核開発を明るみにした後であれば、それがたとえ軍事行動であったとしても、国際社会の反応は、現状のようにロシア批判一辺倒ではなかったかもしれません。今般のウクライナ侵攻の真の目的が同国の核武装の可能性を潰すことであるならば、ロシアは、敢えて最も自国にとって有利な手順を選択しなかったことになります。

 

 また、ウクライナはNPT加盟国ですので、条約上の義務としてIAEAの査察団を受け入れているはずです(締約国はIAEAと保障措置協定を締結している…)。仮に、同国にあって核開発が行われていたならば、まずもって、同査察団が既にその事実を把握していたことでしょう。同査察団がウクライナの核開発疑惑を報告していない以上、同国が秘密裡に核開発していた可能性は相当に低いと言わざるを得ません。

 

以上に、ウクライナの核開発疑惑について検討してみましたが、ロシアの主張の真偽については、国際レベルでの世論操作を狙った偽情報の可能性の方がやや強いように思えます。もっとも、超国家権力体の意向によってIAEAの査察が歪められた可能性も否定はできず、真相が明るみとなるまでには時間を要するかもしれません。とは申しましても、ウクライナの核開発疑惑問題は、ウクライナの核武装を自国に対する重大な脅威と見なすロシア側の認識を、図らずも明らかにしています。そしてそれは、今後、日本国を含む各国にあって、核の抑止力、あるいは、核武装の問題を論じるに際し、重要な判断材料の一つとなるのではないかと思うのです。


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ウクライナ危機の’誰も言わないシナリオ’

2022年03月07日 12時34分21秒 | 国際政治

 混迷を増すウクライナ危機の先は見通せず、今後の展開に関しては様々な憶測や予測がメディアでは飛び交っております。地理的に遠方にある日本国内でも不安感が広がっていますが、それは、この紛争が第三次世界大戦への導火線となりかねないからなのかもしれません。そして、第三次世界大戦へと発展するリスクが現実に存在する以上、危機管理の側面から、’誰も言わないシナリオ’についても考慮する必要があるように思えるのです。

 

 誰も言わない、少なくとも、各国政府、並びに、大手メディア等は決して言わないシナリオ’とは、今般のウクライナ危機は最初から計画された茶番であるというものです。つい最近までは、こうした説は陰謀論として一笑に付されてきたのですが、二度の世界大戦の経緯を振り返りますと、今般のウクライナ危機から第三次世界大戦へというシナリオも、あながち否定はできないように思えます。何故ならば、先の大戦と同様に、今般のウクライナ危機においても、合理的に説明できない不可解な現象が観察されるからです。

 

 第三次世界大戦時の真珠湾攻撃については、奇襲作戦としての不徹底さの他にも、ドイツまでもがアメリカに宣戦布告する切っ掛けとなったという側面があります(ヒトラーの側近たちは反対…)。その一方で、イギリスのチャーチル首相は、真珠湾攻撃の報に自軍の勝利を確信したとも伝わり、日米の参戦や連合軍側の勝利は織り込み済みであったのかもしれません(大西洋憲章も、アメリカの参戦以前に成立している…)。また、ナチス・ドイツがスターリングラードに進軍したのも石油資源の確保の観点からは不合理な行動なのですが、こうしたナチス・ドイツの非合理的な行動の説明は、独裁者ヒトラーの狂気で片づけられているのも疑問なところなのです。今般のプーチン大統領の暴挙も、同大統領の個人的な精神状態が問われており、第二次世界大戦時のヒトラーとオーバーラップします。

 

 そして、何よりも茶番の可能性を想定せざるを得ない理由は、ロシア軍の想定外の’弱さ’です。ロシアとウクライナとの間の軍事力の差は10対1とされており、圧倒的にロシアが優っています。ところが、今日、ウクライナの’奇跡’とも称されているように、ロシアは、ウクライナの制空権を未だに掌握していません。その要因としては、ウクライナ軍が保有している旧ソ連邦の地対空ミサイルの優秀性、ロシア軍の指揮命令系統の乱れ、あるいは、水面下でのアメリカの協力などが指摘されていますが、軍事専門家から見ますと、常識から大きく外れた展開であり、首を傾げざるを得ない状況なそうです。

 

 ウクライナと申しますと、その東部は、かつて国家ぐるみでユダヤ教に改宗したハザール国と重なっており、同国のゼレンスキー大統領もユダヤ人です。第一次並びに第二次世界大戦の裏舞台にあっても、グローバルなネットワークとしてのユダヤ系人脈が蠢いておりましたので、今般のウクライナ危機につきましても、表向きは国家間、あるいは、陣営間の二次元の戦争に見えながら、その実、超国家権力体が上部から両陣営を操っている可能性がありましょう。そしてこの推理が正しければ、各国は、全世界の諸国を戦争に巻き込み(核戦争であるかもしれない…)、国民の多くをその犠牲に供するという超国家権力体のシナリオに抵抗しなければならないということになります。この意味において、第三次世界大戦は、垂直の対立軸が加わることでより複雑化した三次元構造となるのかもしれないのです。

 

 目下、ウクライナがNATOに対して同国上空に飛行禁止区域の設定を要請する一方で、プーチン大統領は、飛行禁止区域の設定はロシアに対する宣戦布告と見なすとして牽制しています。この状況、裏を返しますと、ロシアが、制空権を未掌握の状況に置いておくことで、敢えてNATOに対して同区域の設定を検討する余地を与えているとする見方も成立しましょう。ウクライナ難民の大量発生もかつてのシリア難民を彷彿させますが、ウクライナ危機は、大半のマスメディアや’セレブ’達がウクライナを応援し、グローバル企業がこぞってウクライナ支援に踏み出す状況からしましても、どこか、シナリオめいた不自然さがあります。そして、3月1日の一般教書演説の最後に、バイデン大統領がアドリブで発したとされる「彼を捕まえよ」という言葉も、意味深長なようにも思えてくるのです(捕縛すべき相手はプーチン大統領とは限らない…)。

 

 本記事は、限られた情報から導き出されたあり得るシナリオの一つに過ぎず、推理ということになりますが、ウクライナをめぐる各方面の動きにおいて多々見受けられる不可解で奇妙な側面は、決して無視してはならないように思えます。最悪をも含めたあり得る複数の展開について同時並行的に考察し、迅速に対応する必要があるからです。人類は、「第三次世界大戦」ならぬ「第三次元世界対戦」に直面しているのかもしれないのですから。


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ウクライナの安全をどのように保障するのか?

2022年03月04日 15時17分42秒 | 国際政治

 ポスト冷戦の時代、あるいは、将来に向けたより善き国際秩序の構築という観点から見ますと、ウクライナのNATO加盟は逆行どころか、むしろ、冷戦構造をより危険な方向に導きかねないリスクがあります。本日も、ウクライナのゼレンスキー大統領が、’キエフが陥落すれば、ロシアは、次にバルト三国に侵攻するだろう’と警告したとも伝わりますが、バルト三国は、既にNATO加盟国ですので、仮に同大統領の予告が的中すれば、NATOとの全面戦争、あるいは、第三次世界大戦を引き起こすことは必至となります。北大西洋条約の第5条に明記されている集団的自衛権が、即、発動されるのですから、NATO加盟国という立場は極めて重大な意味を持つのです。

 

NATOには、核大国であるアメリカのみならず、同国と共にNPT体制において核保有国として認められているイギリスやフランスも含まれますので、NATO加盟国への攻撃は、核戦争のリスクと凡そ同義でもあります。このため、ウクライナ制圧後のロシアが、バルト三国に攻撃を仕掛けるとは思えないのですが、仮に、ウクライナのNATO加盟が断念されたとしますと、ウクライナの安全は、誰が、どのように保障するのか、という問題が提起されます。「ブダペスト覚書」では、ロシア、アメリカ、イギリスの三国が同国の安全を保障しましたが、今やこの協定は、何れの国からも無視されています。

 

一方、今般の停戦条件を見ますと、ロシア側は、ウクライナの中立化、並びに、非武装化を求めています。NATO加盟の断念は、ロシアの中立化要求に応じることを意味しますが、非武装化の条件を受け入れるとなりますと、ウクライナには力の空白地帯が生じます。否、武装解除後に非武装化の名の下で解体されたウクライナ軍に代ってロシア軍がウクライナ領域内に駐留し、同国の独立性は名ばかりともなりましょう。ウクライナは、事実上、ロシアに併合されたかの状態となりますので、非武装化の要求をウクライナが受け入れるとは思えません。

 

それでは、交渉によって、両国の間に合意は成立するのでしょうか。現状を見る限り、殆ど絶望的なようにも思えますが、一つ、妥協案があるとしますと、それは、ウクライナが、NATO非加盟国として核を保有するというものです。現状にあっては、ウクライナが保有する核兵器は、その運用ノウハウも含めて何れかの核保有国からの提供を受ける必要がありましょう。しかしながら、同国の核は、その提供後にあっては同国に完全に移管され、独自に運用されるとしますと、同国は、NATO加盟国ではありませんので、NATOとは切り離されることとなります。つまり、ウクライナは、少なくともロシアに対する核の抑止力を保持すると共に、アメリカを含むNATO側も、ウクライナ危機が自国に飛び火する、あるいは、第三次世界大戦や核戦争を招くリスクを負わなくても済むのです。

 

 要約しますと、本案は、ウクライナ並びに西側諸国は同国のNATO加盟を諦める一方で、ロシア側は、ウクライナの核保有を認めるというものです。以前にも本ブログで説明しましたように、ロシアが核による威嚇を行っている以上、ウクライナには、NPTにおいて締約国に認められている正当な脱退事由がありますので、国際法上のハードルは、それ程には高くはないはずです。

 

今日、ウクライナ東部にあってザポロジエ原発での火災が報じられており、ロシアによる事実上の核攻撃ともなりかねない懸念も広がっています。ロシアが核によって揺さぶりをかけている現状を鑑みますと、核につきましては頭からその存在を拒絶するのではなく、それが抑止力を有するとする現実を見据えた上で、’核を以って核を制する’、あるいは、’核による平和’という発想も、必ずしも否定されるべきことではないように思えるのです(そもそも、力による解決は甚だしい時代錯誤ですし、危機そのものが茶番である可能性もあるのですが…)。そしてこの問題は、今後の国際社会における安全保障体制の在り方とも密接に関連することとなりましょう。


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第三次世界大戦を回避するには?―ウクライナのNATO加盟問題

2022年03月03日 15時06分30秒 | 国際政治

 ウクライナ危機をめぐっては、第三次世界大戦を誘発する懸念が現実味を帯びております。しかも、ロシアのラブロフ外相の発言によれば、来るべき第三次世界大戦は核戦争にならざるを得ないそうです。人類は滅亡の危機に瀕することとなるのですが、今般のロシアによるウクライナ侵攻が引き金となって全世界が第三次世界大戦に巻き込まれる事態だけは、誰もが、何としても避けたいはずです。それでは、第三次世界大戦を回避する道は存在しているのでしょうか。

 

 ロシア側のウクライナ、あるいは、西側に対する最大にして核心的な要求とは、ウクライナの非武装化です。具体的には、NATOの非加盟を法的に保障するということのようですが、この要求、必ずしも拒絶すべきものではないように思えます。ロシアの武力による一方的な現状の変更は国際法違反の行為であり、問題の解決方法としては厳しく糾弾され、制裁を受けるべきは当然のことです。しかしながら、その一方で、冷戦崩壊後の安全保障体制の来し方を振り返りますと、NATOの東方拡大政策が適切であったのか、と申しますと、そうとも言い切れないように思えるからです。

 

 1989年に始まる東欧革命はドミノ倒しに中東欧諸国の社会・共産主義体制を崩壊に導き、東側ブロックの盟主であったソ連邦も、1991年には遂に地上から姿を消しました。1989年12月には、マルタ島で開催された米ソ両首脳会談において、冷戦の終焉が宣言されています。このため、この時期を以って二つの超国家が角を突き合わせる冷戦構造は崩壊し、多くの人々が、新たなる時代、すなわち、ポスト冷戦の時代に入ったと認識するに至ったのです。

 

 その後、アメリカにおける同時多発テロの発生により、テロとの戦いが冷戦とポスト冷戦との相違を際立たせることになりましたが、国際社会全体における安全保障体制を見ますと、冷戦期とはさして違いがないことに気付かされます。結局は、NATOは、ロシアを仮想敵国と見なすことを止めませんでした。そして、中東欧諸国への積極的なNATOの拡大こそ、水面下にあって冷戦が継続されていた証と言えるかもしれません。冷戦崩壊は、全く新しい国際秩序を人類にもたらしたのではなく、西側陣営の東方拡大を帰結したとも言えましょう。アメリカを盟主とする西側ブロックにとりまして、ソ連邦の崩壊は、自らの陣営が’闘わずして勝った’という輝かし功績に過ぎなかったのかもしれません。

 

 そして、この冷戦構造の連続性は、今日なおも問われるべき問題を提起しています。それは、少数の超大国(今日では中国も含まれる…)とその軍事同盟国から成るブロック対立構造からの脱却という問題です。ウクライナのNATO加盟が、冷戦構造の延長線上にあるならば、この方針の転換は、必ずしも人類にとりまして’悪い選択’とは断言できないようにも思えます。

 

 ウクライナのNATO加盟については、NATOの現加盟国にあっても二の足を踏む向きもありますが、その理由は、おそらく、ポスト冷戦後における冷戦構造のさらなる拡大・強化が、北大西洋条約が約する集団的自衛権の発動により第三次世界大戦に参戦せざるを得なくなるリスクを高めているという意識によるものなのでしょう。東方に向けてメンバーが広がれば広がるほど、ウクライナといった地理的に遠方にある殆どの国民にとって’身も知らない国’のために、自国の軍隊が闘う事態に陥ってしまうのです。冷戦の終焉後のNATO加盟諸国は、この意味において、冷戦期よりもさらに第三次世界大戦に巻き込まれやすい状況下に置かれているとも言えましょう。

 

 以上にポスト冷戦後の安全保障体制について述べてきましたが、主権平等の原則の下で法の支配が行き届くより善き国際秩序を構築するという人類的な課題に照らしますと、西側諸国が、ウクライナのNATO加盟にあくまでも固執する必要はないようにも思えてきます。’押してダメなら引いてみる’という言葉がありますが、ウクライナのNATO加盟の断念は、それがロシアの要求を受け入れるという形となるにしても、未来に向けた方向性としては検討に値するのではないでしょうか。


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ウクライナ紛争に見る反戦運動のパラドックス

2022年03月02日 15時52分42秒 | 国際政治

ウクライナでの惨状がメディアを介して伝えられる中、非人道的な武器が使用される懸念もあって、目下、戦争反対の運動が広がっているようです。ロシア国内でも反プーチン派の人々を中心に自国によるウクライナ侵攻に抗議するデモが行われていると報じられる一方で、アメリカをはじめとした西側各国でも、ロシアに抗議する大規模なデモが起きています。日本国内でも、渋谷には2000人ほどの人々が集まったとされていますので、反戦運動は、今やグローバルな潮流とも言えるかもしれません。しかしながら、こうした反戦運動には、解き難いパラドックスが潜んでいるようにも思えます。

 

まず、ウクライナ系の人々による反戦デモを見てみましょう。世界各地で行われた反戦デモに集まった人々の多くは、ウクライナに出自を遡る人々であったようです。このため、デモに参加した人々が叫ぶ主たるシュプレヒコールは、ロシア側によるウクライナ侵攻を糾弾するものであり、ウクライナ人としての立場、愛国心から戦争に反対しています。言い換えますと、ウクライナ出身の人々が訴える反戦とは、ロシア側による武力攻撃の停止であり、母国であるウクライナに対しては、即刻、武器を置くようには主張しているわけではないのです。ウクライナに対して反戦を訴えれば、それは、ロシアに対する無血開城、即ち、降伏を意味してしまうからです。

 

そして、こうした反ロデモに共鳴する周辺諸国の反応としては、資金や武器の供与、あるいは、義勇兵としての対ロ戦への参加といった動きが見られ、’ウクライナ支援キャンペーン‘としての側面も見受けられます。ウクライナの立場からの反戦運動は、それが軍事侵攻の挙に出たロシアに対する非難ではあっても、戦争そのものに対する純粋なる反対という意味においては、自己矛盾とならざるを得ないのです。

 

それでは、ウクライナ系の人々によるものではなく、戦争一般に対する反対運動はどうでしょうか。今般の反戦デモには、ウクライナ系の人々のみならず、戦争自体を絶対悪と見なすリベラル系の人々も参加しています。これらの人々は、戦争当事国の立場とは違う普遍的な視点から戦争そのものに反対しており、ウクライナであれ、ロシアであれ、特定の国に肩入れしているわけではありません(もっとも、世論誘導を目的とした特定の国の工作活動の可能性もありますが…)。武力を紛争の解決手段とすることに反対しているのです。武力による解決を非とするのは、紛争の平和的解決を義務付けている今日の国際法における基本原則とも合致します。しかしながら、その一方で、戦争の危機が迫っていたり、実際に起きてしまっている状況下にあっては、ここにも逆効果を生みかねないリスクがあります。

 

どのような逆効果なのかと申しますと、それは、何れの国であれ、戦争、並びに、その手段となる武器を一方的に放棄してしまいますと、力の抑止力がゼロとなり、他国による物理的な力による侵略の排除が不可能となる、というものです。この点は、日本国の憲法第9条において再三指摘されている懸念でもありますが、この種の反戦運動は、‘暴力主義の勝利’を招きかねないという重大な問題を抱えています。平和主義者が暴力主義者に対する最大の貢献者となってしまう事態は、パラドックスとしか言いようがありません。また、合意(交渉)による解決を訴えたとしても、一方が圧倒的な軍事力を有している場合、それは、暴力主義国家への屈服並びに服従ともなりかねません。

 

さらに、絶対平和主義者による自国の政府に対する反戦の訴えは、ベトナム戦争時において観察されたように、戦時にあっては国民に厭戦ムードをもたらし、自国の敗北に帰結する可能性も高くなります(もっとも、ベトナム戦争も現下のロシアの侵攻も、兵士のみならず一般の国民にとりましては祖国を護るための防衛戦争とは言い難く、戦意の低下は否めない…)。そして、この他にも、今日の軍事同盟にあっては、同盟相手国の安全保障を不安定化させるという側面も見られます。何故ならば、同盟相手国において反戦運動が起こり、国民世論が戦争反対に大きく傾く場合には、集団的自衛権の発動が期待できなくなるからです。

 

今日、日本国内にあって敵地攻撃の議論やシェアリングを含めた核保有の問題が浮上してきているのも、現状にあっては日米同盟の下でアメリカから核の傘の提供を受けつつも、日本の防衛のために自国民が核攻撃を受けるリスクをアメリカが引き受けるのか、という払拭し難い不安と問いかけが心の奥底にあるからなのでしょう。日本国側には、有事に際して命綱が切られてしまう、あるいは、梯子を外されてしまうという懸念があり、安全保障上の不安要因、あるいは、防衛体制上の脆弱性として常に意識せざるを得ない状況にあるのです。

 

戦争に反対するデモを行うことは、戦争の非道を訴える平和的な手段ではありますが、それが現状にもたらす作用や心理的影響につきましては、プラス・マイナス両面からの多面的な分析が必要なようにも思えます。反戦運動が暴力を助長し、戦争を招く、あるいは、一層激化させる可能性もあり得るのですから。


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ウクライナのEU加盟申請がもたらす重大な問題

2022年03月01日 11時16分40秒 | 国際政治

 先行きに不透明感が強まる中、ウクライナ危機をめぐっては、昨日2月28日、同国のゼレンスキー大統領が、EUへの加盟を正式に申請する文書に署名したと報じられております。これに先立つ27日には、EUのフォンデアライデン欧州委員長がウクライナの加盟を歓迎する旨の発言を行っており、同国のEU加盟への動きが俄かに加速化してきています。もっとも、同国の加盟へのハードルは高いとする指摘もあり、難航も予測されるのですが、本記事ではその理由を考えてみたいと思います。

 

 第1にして最大の問題は、EUが、事実上の軍事同盟である点を挙げることができます。EUは、経済分野から発展してきた組織ですので(ECSC⇒EEC⇒EC⇒EU)、EUは、単一市場を備えた広域的な国際経済機構というイメージがあります。しかしながら、冷戦崩壊後、1993年にEUに衣替えする際に、EUは、政治分野を自らの政策領域に取り込んでいます。そして、特に注意を払うべきは、2009年のリスボン条約によって、1954年にブリュッセル条約に基づいて設立されたWEU(西欧同盟)がEUに移管されているという点です。

 

 ブリュッセル条約とは、アメリカ並びカナダといった北米大陸の諸国は締約国ではないものの、冷戦期にあって、東側陣営に対抗するためにイギリス、フランス、ベネルックス三国といった西欧諸国の間で締結された相互防衛条約であり、WEUはれっきとした軍事同盟機構でした(後に、ドイツやイタリアなど他の西側諸国も加盟…)。EU移管後は、NATOは戦闘をも想定した防衛並びに安全保障を、EUは、平和維持活動や紛争地の安定化等を担当し、両者はその活動領域を凡そ棲み分けています。しかしながら、ウクライナが加盟すれば、欧州連合条約に記されているWEU譲りの相互防衛条項、すなわち、集団的自衛権が発動される可能性はないわけではありません。

 

 欧州連合条約を見ますと、その第42条の7には、「加盟国がその領域において武力侵略の犠牲となった場合には、他の加盟国は、国際連合条約第51条に従い、侵略に対してその権限内にあるあらゆる手段により援助及び支援の義務を負う。…」とあります。すなわち、ウクライナのEU加盟は、同時に軍事同盟への参加を意味するのです。

 

 ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの非武装化、並びに、中立化を条件として停戦交渉に臨んでいますが、ウクライナがEUに加盟すれば、同国は、中立国とは言えなくなります。否、ウクライナのEU加盟申請は、ロシアの要求に対する拒絶の間接的な表現なのかもしれません。既にEUでは、加盟国がウクライナへの580億円規模の武器提供の資金拠出で合意しており、ドイツに至っては、戦後の抑制的な防衛政策を転換し、13兆円にも上る防衛費の増額を決定しています。EU諸国の動きを見ますと、アメリカ以上に軍事介入への積極的な姿勢が窺えるのです。

 

 かくして、ウクライナのEU加盟は、ヨーロッパ全土に戦火が広がる可能性を意味することとなります(この時点では、イギリスは既に脱退しているので戦場とはならない…)。否、EU加盟国の大半はNATOの加盟国でもありますので、NATOのメンバーでもあるEU加盟国がロシアから攻撃を受けた場合には、NATOを枠組みとした集団的自衛権が発動されるケースも想定されましょう。後者の場合には、アメリカをも加わった第三次世界大戦のシナリオも現実味を帯びてくるのです。

 

 そして、戦禍拡大の予測は、次なるハードルをもたらすこととなりましょう。それは、ウクライナのEU加盟を承認しない加盟国が出現するというものです。EUの加盟手続きは、その申請を以って完了するわけではなく、現加盟国全ての承認をも要します。加盟国の中には、ウクライナのために自国がロシアとの戦争に巻き込まれ、自国兵士の命が失われることを懸念し、ウクライナとの関係性の薄い国では政府が二の足を踏んだり、若者世代を中心に加盟反対運動が起きる国が現れても不思議ではないのです。

 

 以上に述べてきましたように、ウクライナのEU加盟につきましては、人々が想像する以上に深刻な問題が潜んでいるように思えます。この点を考慮しますと、EU並びにウクライナが加盟を急ぐ背景にはどのような背景や思惑があるのか、その行く先を見据えての即時の加盟要請であるのか、あるいは、ジェスチャーに過ぎないのか、ウクライナ危機は全世界に直接的な影響を与えますので、日本国政府を初め各国政府は、裏側の情報の収集にも努めると共に、慎重に事態を見極めてゆくべきではないかと思うのです。


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