Al Beutler Quartet / ..........As One ( Royalty L-102 )
アラン・ボイトラーはミシガンを拠点に活動したマルチリード奏者で、広いアメリカに星の数ほどいた典型的なローカルミュージシャン。
このアルバムではテナーとバリトンを吹いていますが、アルトやフルートも吹く人です。
ローカルミュージシャンの宿命でレコード制作には恵まれず、これ以外にレコードがあるのかどうかよくわかりません。
メジャーなところではスタン・ケントン楽団にも在籍したこともあり、その時のサックス群の中にはドン・メンザもいました。
スタン・ケントンは自身の音楽には厳しい人だったので、この楽団で演奏できるというのは当然すごいことです。
このレコードを聴けば、一流ビッグ・バンドのメンバーらしく、技術力の高さがすぐにわかる立派な演奏に終始しています。
曲のタイプに合わせて吹き方を器用に使い分けられるようで、2曲のバラードではサブトーンを効かせたベン・ウェブスターのようだったり、
R&Bタイプの曲ではホンカーのように、と表情はクルクルと変わります。 自己主張をするというよりは、その楽曲を如何にうまく聴かせるかに
重点を置いたような内容で、それがきちんとできるテクニックがあるということを証明しています。
ただ同時に、この器用さが却って仇となったんだろうな、ということもわかります。 これではソロ・アーティストとしてやっていくのは
難しいだろうと思います。 この人にしかできないスタイルで、この人にしかできない音楽を奏でなければソロ・アーティストにはなれない。
力もあり、太く大きな音で魅力的に吹いているだけにこれは勿体ないし、残念だなと思います。
ジャケット裏面のライナーノーツをミシガン州立大学の教授が書いていて、ボイトラーやバックのメンバー達の不遇さを嘆いていますが、
それだけ実際の演奏は見事だったんだろうと思います。 その気持ちは何となくわかりますが、それでも取り敢えずこうしてレコードが
1枚でも残っているんだから、まずは良かったんじゃないでしょうか。