廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

音の重さに酔う

2016年04月03日 | Jazz LP (Verve)

Bud Powell / The Lonely One・・・  ( 米 Verve MG V-8301 )


バド・パウエルの中では駄盤の代表格みたいな扱いをされる1枚、というか、そもそもそんな形で言及されるくらいならまだいいほうで、こんなレコードが
あることすら知らない人がいるかもしれない、最も知名度の低い作品の1つではないだろうか。

でも、それは仕方ないかもしれない。 ピアノには覇気がなく(パウエルにしては)、人々の興味を惹くような話題性の高い曲や演奏も見られない。
それに、晩年の演奏だから、という既成概念も手伝ってか、はなから相手にされていないようなところがある。

でも、ここでのパウエルはいつも通り唸り声を元気に出しながらそこそこリズミカルに弾いている。 少なくとも演奏の表情には明るさが感じられる。
"All The Things You Are" ではパーカーの演奏のアレンジを使っていて、パーカーのことが忘れられないんだなあ、と心を打たれるし、"Salt Peanuts"
なんかはさすがにこの曲の独特の雰囲気を上手く表現している。 パウエルは印象的なメロディーを持ったオリジナル曲を作る才能が元々あったから、
演奏する曲のメロデイーの扱い方がとても上手いし、アドリブラインも綺麗だ。 

それに、何といってもピアノの音の中にこの人だけの独特の重さと勢いが宿っている。 ピアノというのは、「重たい音」で弾くことが実は一番難しい。
透き通ったきれいな音で弾くことなんかよりも遥かに難しい。 私がこの人が好きなのは、純粋にピアニストとして優れているからだ。 早く弾こうが、
運指が悪かろうが、そんなことは正直どうでもいい。 ピアノの音そのものに心がこんなにも動かされる、ということが私には一番重要なのだ。

初版であってもさほど音がいいということはないレコードだけれど、なぜかこの作品は好きで、よく聴く。 
ここにはそれだけバド・パウエルという人のことがしっかりと刻み込まれているからなのかもしれない。


コメント
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