廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

鎮魂歌としてのソロ

2016年04月17日 | Jazz LP (Riverside)

Thelonious Monk / Thelonious Himself  ( Riverside RLP 12-235 )


セロニアス・モンクは数枚のソロ・ピアノによる作品を残しているが、それらの中でもこのアルバムが持つ不思議で異様な雰囲気は他と一線を画している。

モンクのピアノはラグタイムやストライド・ピアノなどの古いジャズの上に立脚しているが、その影響を隠すことなく露呈させながらも、全体的にスロー
テンポで、できるだけ音を弾かずに曲をドライヴさせようとしている。 それがベースは明るいにもかかわらずどこか暗い、という背反するムードを両立
させている。 他のソロ・アルバムは意外に明るく饒舌なピアノになっているのに、このアルバムだけはなぜか口数が少なく、内省的だ。

自分が弾いた1音1音を残響が消えて無くなるまでじっと確かめるように聴いて、納得してから次に進む。 珍しくスタンダードを多くやっているけれど、
なんだか曲目自体はどうでもいいような感じだ。 大事なのは自分が鳴らしている音そのものだ、と言わんばかりのゆったりとした弾き方だ。

最後に収録された "Monk's Mood" はコルトレーンとウィルバー・ウェアーが控えめなオブリガートをつけている。 コルトレーンはモンクの傍に付いて
音楽を学んでいたが、おそらくこういう彼のあまりに個人的な独白のような音楽を目の当たりにして、後の自分のやるべき音楽の方向性を自分の中で
徐々に固めていったんじゃないだろうか。 内容はお互いに似ても似つかないものでも、自分だけのスタイルを持ち、十分に制御しながらも自分の内面を
さらけ出すことの重要さを一番にモンクから学んだんじゃないかと思う。 

昔から名盤100選にはよく載っているアルバムだけど、万人に薦められる内容かというとちょっと微妙なのではないかと思う。 この人のソロ演奏なら
まずは1954年のヴォーグ社(スイング・レーベル)に録音したもののほうが平易で判りやすい。 この "ヒムセルフ" は一見シンプルなように見えて、
実は意外とやっかいな作品だと思う。 演奏に託されたものがもっと遥かに込み入っており、そういう意味では難解とすら言ってもいいかもしれない。
全体に鎮魂歌のような雰囲気が漂っていて、軽率にターンテーブルに載せるのが憚られるようなところがある、と感じるのは考え過ぎだろうか。




コメント
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