Stan Getz & Bill Evans / Previously Unreleased Recordings ( 米 Verve V6-8833 )
夢のような組み合わせで、本来なら歴史に名を残す大名盤として語り継がれるべきなのに、そうはなっていないのはエルヴィン・ジョーンズのドタバタと
うるさいドラムが内容をぶち壊しているからで、ホントにこいつは何をやってんだ、とレコードを床に叩きつけたくなる。 だから、私はこのアルバムは
"But Beautiful" "Melinda" "Grandfather's Waltz" の3曲しか聴かない。 ドラムを叩く人がエルヴィンを称賛する理由はよくわかる。 でも、音楽愛好家の
立場としては、場をわきまえない時の彼のドラミングはただの騒音でしかない。 ブラシさばきは上手いんだから、客演の時はそれに徹して欲しかった。
それでもこのアルバムが手放せないのは、"Grandfather's Waltz" が収録されているからだ。 冒頭のエヴァンスのソロの素晴らしさ。 ヴァーヴ時代の
エヴァンスがどれほど素晴らしいか、がこれを聴けばわかるだろう。 この演奏に惹かれて、その後いくつかの演奏や歌物が現れたけれど、このアルバムの
演奏を超えるものは無かった。 永遠のマスターピースだ。
ゲッツのスモーキーなサウンドも絶好調で、フレーズにもキレがあり、言うことなし。 この人がいれば他の管楽器奏者は不要で、1本のサックスだけで
豊かなハーモニーを産み出せる。 そして、音楽全体が統一されたトーンで染まっていく。 透明な水に落とした蒼いインクが、やがて全体にゆっくりと
拡がっていくように。
全曲でそういう様が聴けないのは残念だけど、それでも半分の曲で聴ける素晴らしさは他のアルバムでは決して聴くことができない、この2人だけの世界だ。
もっとたくさん作品を残して欲しかった。