廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

黄昏の怪獣

2018年04月14日 | ライヴ鑑賞
13日の金曜日、新宿に怪獣現る。





ピットインに来るのはずいぶん久し振りだけど、タイミングがうまく合ったので、足を運ぶことにした。 ヘザー・リーのペダル・スティール・ギターとの
デュオということで、どういう感じになるのか楽しみにしていた。 この2人によるアルバムは何枚か出ているけど、まだ聴いていないのでちょうどいい。

観客は30人ほどで、多いとは言えない。 こんなんでギャラが出せるのか、とこちらが不安になる。 よく日本に来てくれる人だから、案外また今度で
いいや、という人が多いのではないだろうか。 でも、もう彼は77歳で、そんなに悠長なことは言ってられないと思う。 私のようなオッサンは少なく、
若い人が結構来ていたのは意外だった。 来日初日だったからか、観客が少ないからか、本人の意向で今日は1セットのみ、と予めアナウンスがあった。

ブロッツマンからヘザー・リーは初めての日本だと紹介があったけど、若い頃のダリル・ハンナのようなすごく綺麗で可愛い人だった。 身長は180センチ以上
あって、顔も小さくてスタイルも抜群、ミュージシャンというよりはモデルのような感じだ。 ペダル・スティールでアヴァンギャルドとはとても想像つかない。

1曲目はマイナーキーの哀感のあるテーマから大きく起伏するドラマチックな曲、2曲目はヘザーの破壊的なアルペジオが前面に出た幻想的な曲、ラストは
ゆったりとした短めの曲で、ブロッツマンがまるでコールマン・ホーキンスやベン・ウェブスターのようなサブ・トーンを使ったフリー系のバラード。

この2人は相性がとてもよかった。 ベザーのペダル・スティールはファズやディレイを使って小さいローランドのアンプから爆音を鳴らす。 物静かな所作で
荒れ狂ったような混濁したハーモニーで小屋の中を埋め尽くすようなパートもあり、そのかわいい外見とのギャップの大きさに恐くなる時もあった。

ブロッツマンは若い頃のような長尺なフレーズはなく、短めのフレーズを延々と繋いでいくような感じだったが、生で聴くとサックスとしての演奏力の
確かさがよくわかって、時々ロリンズの姿がダブって見えるような気がした。 音楽的にもいわゆるフリー・ジャズという匂いはもはや無くて、完全に
ブロッツマンの音楽として確立している。 不満な箇所は一瞬たりともなかった。 単純に、まる1時間聴き惚れていた。

自分のパートを吹き終わって、ヘザーにバトンタッチした後に水を飲んだり楽器を調整したりしながらステージをゆっくりと歩くその姿は「黄昏の怪獣」
という趣だった。 身長は大きくないが、大きな横幅と分厚い胸板と大きく盛り上がった広い背中はまるで巨大な岩のようで、セイウチのような口ひげと
賢者の眼光を宿した眼が印象的だった。 

ヘザーはとてもシャイな感じで、曲が終わるとチラッと観客の方へ眼を上げて、ニコッと笑う。 そういうところが可愛かったな。

また、観に行きたい。




コメント
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