Kenny Burrell / A Generation Ago Today ( 米 Verve V-8656 )
フィル・ウッズのワンホ-ンでの隠れ名盤がこんなところにある。 ケニー・バレル・トリオにプラス・ワンの構成だけど、ほとんどがフィル・ウッズなので、
事実上のフィル・ウッズのワンホーン・カルテットとして聴ける。 客演という立場をわきまえて前面に出てバリバリ吹いたりはしないけれど、それでも
静かなギター・トリオの中ではひときわ映える。
ケニー・バレルもシングル・トーンの太い音でしっかりと弾いているのが嬉しい。 コード・ワークよりもソロのフレーズが多く、テナーのピアノレス・トリオを
聴いているような感じがするところもある。 一聴してすぐにバレルだとわかる音と弾き方で、彼のギターの特徴を掴むには絶好の内容だ。
アルバム全体を通して明るい雰囲気が貫かれていて、聴いていると自分の心の中まで同じように爽やかな空気満たされていく。
更に特筆すべきは、録音の良さ。 ヴァン・ゲルダー・スダジオで録られていて、マスタリングもカッティングも自身の手で行っている。 これが素晴らしい
サウンドで、静かな空間の中にバレルのホーンのような音やウッズのキラキラと輝くアルトの音が触れそうなほどクッキリとした輪郭で前面に出てくる。
全体的に深めの残響が効いていて、サウンド全体に奥行きがあり、この録音は見事だ。
ヴァーヴのMGM時代のレコードには素晴らしい作品が山のようにある。 その充実ぶりは同時期の他レーベルの比ではない。 フリーやファンクへ流れる
ことなく、しっかりと王道主流派路線を守ったその姿勢には一目を置くべきだと思う。 67年にはポリドールに売却されなければならないほど経営的には
うまくいっていなかったけれど、それでもそういうことを作品のクオリティーに一切影響させなかったのは素晴らしい。 このアルバムはそういうMGM時代の
ヴァーヴの良心が創り上げた静かなる傑作である。