廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

美人じゃなくても

2018年04月22日 | Jazz LP (Verve)

Barbara Caroll / Funny Face  ( 米 Verve MGV-2063 )


由緒正しい愛好家はバーバラ・キャロルなんて聴かないんだろうし、レコードを買ったりしないのかもしれない。 彼女がそうやって相手にされないのは
おそらく美人ではないからだと思う。 ジャズおやじは美人にしか金を出さないし、ベリー・ショートの髪型だってそんなのは嫌いなのだ。

でも私は最近このレコードを聴いて、芸術的衝撃を受けた。 こんなイン・テンポでピアノが弾ける人は、ジャズの世界では他に見当たらないのではないか。
そしてこのピアノの魅惑的な音色。 最適な打鍵があった時にしか、ピアノはこういう音色にはならないものだ。 それが途切れることなく続いていく驚異。 
こんなにピアノの演奏に耳をそばだてたのはいつ以来のことだろう、と思う。

音楽における芸術的衝撃というのはこういうところに隠れていると個人的には思う。 一般的には前衛の領域にそういう衝撃が溢れているようなイメージが
あるのかもしれないけれど、それは幻想だ。 ブロッツマンの演奏を目の前で聴いて感動したのは、サックスの演奏力のあまりの確かさに対してであって、
無調のフレーズの果てることのない羅列に対してではなかった。 

バーバラ・キャロルは別に何か人を驚かせるような曲芸的な演奏をしているわけでないけれど、彼女が弾くピアノの適切さは、音質へのこだわりがさほど
無かったヴァーヴのモノラル録音からでもちゃんとこちらに伝わってくる。 音響的な快楽はなくても、その音が他の誰とも違っているのはちゃんとわかる。
そのことに驚かされた。

オードリーとアステアのジャケットからわかるように、映画 "ファニー・フェイス" で使われた曲をメインにしたガーシュウィン集で、気軽に聴ける演奏。
各面に1曲ずつバーバラの歌も入っているけど、これは平凡で余計だった気がする。 こんなことをしなくても、彼女のピアノだけでよかった。
録音当時もそのピアノの魅力にはあまり気が付かれていなかったのかもしれない。


コメント (2)
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