廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

似て非なるもの

2018年04月01日 | Jazz LP (Riverside)

Don Friedman / Circle Waltz  ( 米 Riverside RLP 431 )


テトラゴンで見事な仕事をしていたドン・フリードマンに感銘を受け、久し振りに聴き直してみた。あまりピンとこない作品で棚の中で眠っていた。

ウィキペディアを見て驚いたのは、2年前に亡くなっていたということと、日本にたくさんファンがいる、という2つの記述。亡くなっていたとは
知らなかったし、日本にファンがたくさんいるなんて話もそんな実感はない。確かに晩年は日本録音の作品を色々作ってはいるけれど、
人気があるというには程遠い状態ではないだろうか。

この人のアドリブラインはかなり抽象的で、る口ずさめるようなフレーズが出てこない。題材がスタンダードであってもそうだし、自信のオリジナル
ともなると、それこそ現代音楽一歩手前くらいの混沌さに陥る。スタンダードがスタンダードらしい曲想として羽ばたくことなく、フリードマンの
独白に埋没していくことになるので、私の中で音楽的な印象が残らない。このアルバムが代表作だと言われたり素晴らしいと言われるのは、
おそらく1曲目の表題曲だけの印象でそういう話になっているのだと思う。それ以外の演奏を聴いてこれが代表作だと実感している人は
あまりいないのではないだろうか。

エヴァンスの名前が引き合いに出されるのもわからない話ではないけれど、よく聴けば2人の弾き方がまったく違うのは明らかで、似ているのは
時々見せる静かな佇まいとかメロディーの中での間の置き方くらいだろう。エヴァンスは卓越したリズム感で演奏するけど、この人はリズム感が
あまりよくない。それを他のピアニストがあまり弾かないようなフレーズを持ってくることでリカヴァリーしているような感じである。

チャック・イスラエルは元々はフリードマン・トリオの常設メンバーだったが、ラ・ファロが亡くなって落ち込んでいたエヴァンスを立ち直らせる
ためにオリン・キープニューズがフリードマン・トリオから引き抜いてエヴァンスに充てた人だ。イスラエルはおそらくエヴァンスとラ・ファロの
演奏を聴いていたのだろう、 "Circle Waltz" ではテーマ部の演奏の後にすぐにベースのソロ・パートを始めたりしている。

そういうエヴァンス・トリオの演奏マナーをそのまま取り入れることで疑似エヴァンス・トリオ風になっている(イスラエルのこの作品への貢献度は
あまりに大きい)ことと、ピート・ラ・ロッカのドラムが過剰な演奏を避けて適切にサポートしていることで、愛好家のエヴァンス・ロスによる飢えと
渇きをほんの一瞬満たしてくれるところがいいのだろう。ただ、エヴァンス・フィルター抜きで同じように評価してくれる人がどれだけいるのか
よくわからないところが何とも気の毒になる。物思いに耽るような表情が素晴らしい作品だけど、エヴァンスの名前を跳ね返すだけの何かがあれば
もっとよかったのにと思う。


コメント
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