廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

廃盤専門店の想い出 ~ Last Chance Record 編

2020年01月04日 | 廃盤レコード店

The Modernaires / Juke Box Saturday Night  ( 米 Harmony HL 7023 )


Harmonyレーベルはコロンビアの傍系廉価レーベルで、基本的にはコロンビアの古い音源を大衆向けに再編集して安い値段でレコードを提供していた。
その際にリマスターしていたようで、オリジナル音源よりも遥かに高音質で聴けて、尚且つ安く買える。これも300円だった。昔よく聴いたレコードで、
懐かしいなあ、と思いながら聴いている時に当時の記憶がぼんやりと蘇ってきた。


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私が20代後半だった頃(つまり、30年くらい前)、井の頭線の池ノ上駅近くに Last Chance Record という廃盤専門店があった。改札を出て線路を
渡って、商店街を3分ほど歩いた先にその店はあった。外観はレコード屋という感じではなく、普通の雑居ビルの1Fをちょっと間借りしてます、
という風情だった。

中に入ると、店内の右半分はクラシックの中古、左半分はジャズやソウルの中古が置かれていた。一応、レコード棚は並んでいたけど、店の内装自体は
コンクリートが打ちっぱなしのままで、かりそめに店をやってます、という感じだった。当時、クラシックとジャズの組み合わせの店は珍しく、
初めて訪れた時は驚いたものだ。レジ・カウンターの背面にはバリリQtのウェストミンスター盤が飾ってあったりした。

店員は若い感じで、ロックの店みたいな感じだった。並んでいるレコードも他店のように丁寧にパッケージされているわけでもなく、傷んだビニールに
無造作に入れられていた。如何にも海外のレコードフェアで箱ごと買付けて来ました、という感じで、そういう何もかもが海外の中古レコード屋の
雰囲気を醸し出していた。

そういう日本の感覚からは大きく逸脱した雰囲気が私は大好きだった。値段も概ねリーズナブルだったと記憶している。当時の正統派の廃盤店、つまり
ヴィンテージ・マインやコレクターズ、トニーのような老舗店へのアンチ・テーゼとして、店が始められたような感じだった。そこには暗黙の反骨精神が
感じられた。そういうところも私は好きだった。

まだ自由に使える小遣いも少なかった若輩者としては、ここはありがたい店だった。ブルーノートの4000番台のレコード、ジョー・ヘンやハバードや
ハッチャーソンなんかのレコードは大体5~6千円で転がっていたし、定番の名盤からちょっと珍しい稀少盤なんかもたまに出たりして、行くたびに
おっ!といううれしい驚きを感じることができた。壁に掛かっている高額盤もあったが、大体ほどほどの値段だったように思う。

ヴォーカル物も充実していて、上記のモダネアーズもここで拾った。確か、1,500円くらいだったと思う。高額盤ばかりを執拗に売ろうとする感じは
なく、できるだけ幅広く在庫を仕入れていたようで、とにかく掘ることが楽しい店だった。給料日には定時退社し、よく立ち寄ったものだ。

ただ、さほど長くは営業しなかったように思う。数年後のある雨の日、久し振りに店に行くとシャッターが閉まったままになっていて、それ以来、
シャッターが上がることはなかった。それは寂しい風景だった。

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下北沢周辺は今も昔も若者が独自の感覚で店をやる雰囲気が続いていて、私は好きな街だ。飲食店にしてもファッションの店にしても、ふらりと
入ると色々面白い。新しい店舗が開店し、一方でひっそりと閉店するものもある。その回転率は結構早いみたいだけど、そういうことも含めて
ブラブラと散歩するのは楽しい。それは中古レコード屋も同じで、かなりコアでマニアックな店が現れては消え、を繰り返している。

この街の移り変わる季節の中で、Last Chance Record に通うことができたのは幸せなことだったと思う。もし、自分が中古レコード屋をやるなら、
この店のような感じにしたいなあ、と思うのだ。そういう中古レコード屋だった。


コメント (4)
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