廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

謎めいた雰囲気の解決

2020年01月19日 | Jazz LP (Impuise!)

John Coltrane / Coltrane  ( 米 Impulse! A-21 )


不動のメンバーが揃っての最初のスタジオ録音として知られるこのアルバムは、それまでのアトランティック時代の焦点の散漫さを脱して、ようやく
カルテットとしてのサウンドの確立と内容の方向性が決まった、ある意味ではコルトレーンの何度目かの「デビュー作」と言っていい内容だ。
ここにはコルトレーン・カルテットの音楽のエッセンスが非常に分かりやすい形で凝縮されている。この後どんどんハードドライヴしていく音楽も
突き詰めて考えれば、このアルバムの相似形による拡大だったんじゃないかと思えるくらい、このアルバムには何か象徴的なものが漂っている。

冒頭の "Out Of This World" の、如何にもこのバンドらしいハードな演奏に注目が集まるのが常だけれど、彼らがいくつかのアルバムの中で時折
見せるミドルテンポで淀んだ感情を吐き出すような瞬間を表現する "Tunji" が私には「らしい」音楽に思える。激しいだけがインパルス時代の
スタイルでは当然なく、よく見ていくと複数の多面的な側面を見せていた中の1つのムードを見事に表現している。

そして、インパルス時代のもう1つの重要な要素である硬質な抒情感の頂点として、"Soul Eyes" の決定打が入っている。コルトレーンの例の3部作は
そのわかりやすさから賛否両論あるけれど私は好きな作品群で、そういう抒情性が見事に凝縮しているのがここに収められた "Soul Eyes"だ。
こんなにも厳しく深刻に歌心を吐露したバラードが他にあるだろうか。これがコルトレーンのすべてのバラード演奏の中での最高峰だと思う。

このアルバムは昔から謎めいた存在だと思っていたが、この秋に突如リリースされた "Blue World" を聴いて、その意味がわかったような気がした。
"Blue World" はこのアルバムで吐き出し切れずに澱のように沈殿して残っていた抒情感が創り上げた演奏だったように思う。この2枚には我々の
眼には映らない深いところで通底する何かがあって、硬質さと柔軟さのバランスがここでようやく取れたんだ、と私は思った。どちらか一方だけでは
常に何かが欠落しているという居心地の悪さを感じ続けることになるが、半世紀を超えてようやくこの "Coltrane" は解決したんだと思えた。


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