Nat "King" Cole / Love Is The Thing ( 米 Capitol W-824 )
このレコードの影の主役はゴードン・ジェンキンス。マイルスの "ポーギーとベス" がギル・エヴァンスであるように、それは主役と表裏一体となり
不可分の存在である。ナット・キング・コールの代表作と言われるこのアルバムも、ネルソン・リドルだったらこうはならなかったと思う。
このオーケストラはチェロやコントラバスが効果的に使われていて、それが他の弦楽器群の高音域との効果的なコントラストを産み出し、
重厚でいてシルクのような柔らかさを実現している。ナット・コールの歌はもちろん見事だが、それ以上にオーケストレーションに耳を奪われる。
決定的名唱である "スターダスト" の、天上から降り注ぐ無数の星屑を全身に浴びるような恍惚感もこのオーケストラであればこそ、である。
毎回書いているような気もするけれど、ヴォーカル作品はバックの演奏が重要である。ヴォーカリストの歌唱だけでアルバムが傑作になることは
決してないと思う。これはどちらかと言えば総合芸術の分野だ。
ナット・キング・コールの歌唱は概ねどのアルバムでも安定した歌唱を披露していて、ハズレはない。歌手としての最盛期を迎えていたのだろう。
そういう意味では、キャピトルのアルバムはどれを聴いても満足できる。平均点の高さだけで言えば、シナトラを超えているかもしれない。
裏を返せばそれは金太郎飴ということかもしれないけれど、聴く側の期待を決して裏切らないこの人の歌手としての神髄はここにある。
唯一無二のビロードのような声質は、やはりいつ聴いても素晴らしい。