David Allen / A Sure Thing ( 米 World Pacific WPM-408 )
David Allen、その後 David Allyn という綴りになるデヴィッド・アレンは意外に長いキャリアを誇る人で、1940年にジャック・ティーガーデンの
楽団で歌手として活動を始めている。それはちょうどフランク・シナトラがトミー・ドーシー楽団で歌い出した頃で、そう考えると驚いてしまうが、
本人はシナトラを意識するよりは、ビング・クロスビーから大きな影響を受けたと言っている。
第二次大戦時に北アフリカで従軍後、ボイド・レイバーン楽団で歌った後にソロで活動するが50年代中頃にはドラッグで2年服役するなど、
そのキャリアはなかなかうまくはいかなかったようだ。その後、ワールド・パシフィックから出た初リーダ作がこのアルバムになる。
ジョニー・マンデルがアレンジと指揮をしたこのアルバムは素晴らしい出来で、50年代に出された男性ヴォーカルアルバムの中でも出色の内容だ。
それまでの誰にも似ていない堂々たる歌いっぷりで、ジェローム・カーンの名曲群を珠玉の作品としてまとめ上げた。
"A Sure Thing"、"The Folks Who Live On The Hill"、"In Love In Vain"などが特に素晴らしく、これらの楽曲でこれ以上の名唱は他に
例がないだろうと思う。ビング・クロスビーよりもダンディーで、シナトラよりも男の色気があり、ナット・キング・コールよりも優れた解釈だと思う。
丁寧に歌っているところが何よりいい。
ただ残念なので、この後が続かなかったことだ。同レーベルから翌年に第2弾が出るが、これがまるで別人が歌っているかのような弛緩した内容で、
非常にガッカリさせられる。その後も数年間隔でポツリポツリとアルバムは出るが、結局、第1作を超えるものは作れなかった。なぜだかはわからない。
そういう事情も手伝って、このアルバムは余計に重みを感じることになる。1枚しかないと思うと、ことさら大事に聴くことになるからだ。
このアルバムも30年聴いているけれど、飽きない。