廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

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試行錯誤の時期

2019年08月03日 | Jazz LP (Prestige)

Jaki Byard / Hi-Fly  ( 米 New Jazz NJLP-8273 )


ジャッキー・バイアードへの入り口は大抵ミンガス経由かドルフィー経由だろう。 その他ブッカー・アーヴィンやフィル・ウッズなど管楽器奏者たちとの
セット販売で語られる程度で、ピアニストとして独立した話になることはほとんどない。 ありきたりのピアノに飽きた頃に手に取って、今までには
ない質感にマニア心がくすぐられるタイプのピアニストだろう。

この人のピアノははっきりしない。 全体的にレガード過ぎてフレーズがはっきりしないし、不協和音や無調っぽいことをやろうとしても長続きせず
すぐに諦めてしまう。 ニュー・ジャズの全盛期に表舞台に立ったせいもあって、ありきたりなものはやらないぞという気持ちがあったのだと思うけど、
ピアノの腕が気持ちに追い付いていないところがあって、十分にはじけるところまでには至らなかったような印象がある。

このアルバムでは有名スタンダードを取り上げているが、とても独創的なアプローチをしていて印象的だ。 楽曲を壊すことなく、元々の曲想の核を
更に前に推し進めたような表現をしていて、そこには強い才能を感じる。 ただ、それがメロディー部分だけの演奏で終わっていて、その先への発展に
繋がらないのが惜しくて、聴き手には消化不良感が残ってしまう。

そんな中で唯一際立って素晴らしいのは、自作の "Here To Hear"。 幻想的な曲想の中から切ない情感が溢れ出す素晴らしい楽曲と演奏で、これは
圧巻の出来。 このアルバムはまだキャリアの浅い時期の作品でいろんなスタイルや要素を試していた時期だけど、この楽曲でやろうとしたことは
独創的で素晴らしく、この路線を推し進めても良かったんじゃないかと思う。 "Lullaby Of Birdland" や "Round Midnight" のメロディーの繊細な
取り扱い方なんかを聴いていると、この人は拠点を欧州に移してECM辺りからアルバムを出していれば大化けした可能性があったんじゃないかと思う。

このアルバムはこの人の代表作と言われるけれど、実際はこの後にミンガスのバンドで鍛えられることになるので、音楽家としてのピークはその後に
やってくる。 代表作というのはちょっと言い過ぎで、実際は試行錯誤の記録だと思う。

オリジナル盤はヴァン・ゲルダーが関与していて、典型的なヴァン・ゲルダー・サウンドに染まっている。 薄暗いトーンと適度な残響感に支配された
音場感で聴感は良好だ。 ピート・ラ・ロッカのドラムがよく聴こえる建付けになっているのがいい。 サウンド面は素晴らしい仕上がりになっている。


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