Pepper Adams / Encounter ( 米 Prestige PRST-7677 )
1968年12月に録音されたこの演奏はプレスティッジが録音したわけではなく、フリーランスのプロデューサーだったフレッド・ノースワーシーが独自に
行ったもので、録音が終わってから彼がいろんなレーベルに売り込みに周って、最終的にプレスティッジが買うことになった。 だから、この録音には
ヴァン・ゲルダーは関与していないし、レコードにもRVG刻印はない。 往年の名プレーヤーたちが集まったストレートなハードバップという好ましい
内容にもかかわらず、69年という時代からみればそれはひと昔前のクラシック・ジャズであり、どのレーベルも興味を示さなかったという。
レーベルの販売方針の下で行われた録音ではなく、アダムスが自由にメンバーを選んで好きなように演奏していいという企画だったので、彼は当時の
業界の流行りには背を向けて50年代の音楽を生き生きと演奏した。 他のメンバーたちもきっと同じ気分だったのだろう、みんな最高の演奏をしている。
我々聴き手は一方的に提供されたアルバムを受け取って、これが現代のジャズだとかこれは時代遅れのジャズだと考えるけれど、リリースされた作品は
そもそもアーティストの100%の想いだけで作られているとは限らないということを認識しておく必要がある。 世の中はそんなに簡単な話だけで成り
立っているわけではないのだ。
幸いなことに、このアルバムは100%ピュアな想いで演奏された傑作だと思う。 ズート、トミフラ、カーター、エルヴィンらに囲まれてアダムスは
これ以上ないほどなめらかで歌心に富んだ演奏をしている。 全体の纏まりも一分の隙もなく、最高の仕上がり具合いだ。 ペッパー・アダムスの
アルバムはどれもクオリティーが高いけれど、これはその中でも群を抜いている。
ストレイホーンの "Star-Crossed Lovers" での深い情感、"Serenity" での繊細な肌触りなど、1つ1つの楽曲が丁寧に演奏されていて粒ぞろいよく、
それらがアルバム全体の印象を決定付けている。
録音も変な小細工はされておらず、残響感豊かで楽器の音もクリアで輝いている。 自然な音場感で、聴いていて音楽に集中できる感じが好ましい。
たまたまプレスティッジからリリースされたというだけで、そこにこだわるのは筋違いだ。 このメンバーたちが心の底から演奏を楽しんだ様子が
ありのまま記録された時代遅れの福音を、我々も心行くまで楽しめばそれでいいのだろうと思う。